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「だったら早く帰って、続きをしないとな」

 照れる僕を見下ろした浩司兄ちゃんは、艶っぽい笑みを浮かべてほほ笑んだ。大人びたそれを、黙って見つめる。

「龍?」

「あ、えっとあの……浩司兄ちゃんは余裕があるなと思って。なんだか自分が子供じみて見えるというか」

「龍のそういうところが俺の目には純粋に映って、手を出しにくくさせるっていうのに」

 言いながら大きな手が、僕の頭を優しく撫でた。浩司兄ちゃんと視線が絡むだけで、好きという気持ちが全身から溢れ出るみたいに、躰が熱くなる。

「龍、帰ろ」

「うん……」

 こうしてふたりで並んで校門を出て、浩司兄ちゃんの家に向かって歩きはじめる。

「龍聞いてくれよ。さっき先生に頼まれたことでさ――」

 楽しそうに喋る浩司兄ちゃんの話に、耳を傾けた。道路側をわざわざ歩いてくれるさりげない所作に感心していると、目の前の交差点から妙な音が聞こえた。

「今の、なに?」

 驚いて立ち止まると、浩司兄ちゃんが僕の前に立ちはだかる。なにかが硬いものに当たる音がどんどん近づき、次の瞬間には大きなトラックが現れた。

「龍!」

 浩司兄ちゃんは二の腕を使って、僕の躰をすぐ傍の民家に押し込む。体勢を崩した僕の視界の先には、トラックに巻き込まれる浩司兄ちゃんの姿があって。

「やっ!」

 慌てて腕を伸ばしても、その姿はもう消え去り、トラックがものすごい音を立てて住宅を囲う塀を壊していく音だけが耳に聞こえる。尻もちをついた状態でいる僕は、あまりの出来事に動けず、呼吸をするのがやっとだった。

「ううっ、浩司兄ちゃん……」

 塀の向こう側から女性の悲鳴や、救急車を呼ぶ叫び声が聞こえても、すぐに駆けつける勇気が出ない。

「嘘だよね、こんなの……だってさっきまで、普通に並んで喋っていたんだよ」

 たくさんの涙が自然と頬に伝う。それを拭わずにそのまま四つ足で這って、塀の向こう側を覗き見た。大きなトラックは頑丈そうな塀に突き刺さり、止まったことがわかったものの、浩司兄ちゃんの姿がどこにも見当たらない。

「浩司兄ちゃん……浩司っ、兄ちゃん!!」

 大声で叫んだあと、僕はその場で意識を失ってしまったのだった。
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