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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会

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 タケシ先生ごめんなさいと心の中で詫びながら、セリフを読むように口を開いた。

「出逢いは、タケシ先生の病院前で俺が倒れたからです。甲状腺がんだった俺が治療を引き換えにして、交際を迫りました」

 言い終えたタイミングで御堂は口笛を鳴らし、あからさまな作り笑いを浮かべる。

「がんの治療と引き換えか。クソがつくほど真面目な周防が、その条件を素直に飲むわけないよな。口煩いくらいに『とっとと治療を受けなさい』と連呼するのがオチだ」

 こんな顔して言うだろうと人差し指で両目を吊り上げて、怒ったときのタケシ先生の真似をした。

「よくご存じで……」

 目の前でおどける御堂を白い目で見つめると、俺の視線に気がついて寂しげな微笑みを口元に湛えた。

「そりゃあ好きだったから、分かっていて当然のことだろう。邪な想いで近づいてくる奴に対して、アイツは容赦しないしさ」

「だけど俺は諦めなかった。自分ができることから始めて、タケシ先生の心を掴んだんです」

「まぁね。躰目当てで近づく男と命がけで交際を迫る男なら、間違いなく後者を選ぶだろう。しかもそれが、手のかかる子どもなら尚更だろうなぁ」

「手のかかる子ども――」

 不機嫌になるような言葉を吐いた御堂を睨んだら、胸の前で両腕を組んだまま、余裕綽々な顔で受け流されてしまった。

「周防が外科医じゃなくて良かったな。検査結果が分かり次第、何らかの手を使って王領寺くんを眠らせた後に、自らの手で手術をしちゃう気がするよ。それこそ面倒くさいガンと一緒に、王領寺くんを放り投げそうだよね」

 普段はおねぇのような喋り方で患者の子どもたちに優しく接しているけれど、外科医ならそんなことをする必要はない。

 手術着に身を包み、マスクで顔を覆われたタケシ先生に見つめられたら、間違いなく蛇に睨まれた蛙状態になっちゃいそう。

 というか、ナース服だろうが手術着だろうが、どんな服でも着こなせてしまうタケシ先生の格好良さにメロメロな俺っていったい……。

「周防が君と付き合った理由が分かって、スッキリした! いやぁ胸にひっかかったものが取れた気分だ」

「そうですか。良かったですね」

 淡々と告げた俺の顔を見ながら立ちが上がり、左手をひらひらと振る。

「それじゃあ約束通り、周防を部屋まで送ってあげるから」

「教えたんですから、約束は絶対に――」

「きちんと守るよ。それに手を出さないから安心してくれ。どんなに言い寄ったって、俺が子どもにでもならない限り、周防の心変わりはありえないだろうしね」

 そう言って、格好よく肩を竦めるなり去って行った御堂。

 どこまで信用していいのか分からなかったが、俺ができることといえば、ホテルの一室でじっと待つ以外なかったのである。

 まさに、ご主人さまの帰りを心待ちにしているワンコの気分だった。
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