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第五章 ショコラを作る手、甘味店《ショコラトリエ・アルセリア》、開店!
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商人さんが店に来る時間が近づき、僕は店先を軽く片づけていた。リオンはというと、さっきまで嫉妬で樽を割りそうな勢いだったくせに、今はカウンターで王国に提出する書類を見ている。
(大丈夫かな……さっきのお怒りモードから戻ってるといいけど)
そんなことを思っていた、ちょうどその時。
「こんにちはー、失礼します!」
店のドアが開き、例の商人さんが明るい声で入ってきた。僕は笑顔で迎えようとしたら。
「ようこそ、当店へ」
低く、落ち着いた声が僕の真横から降ってきた。振り向くと、そこには――誰? ――いや、リオンなんだけど……誰!?
さっきまで、嫉妬で気難しい顔をしていた人と同じとは思えない。
リオンは背筋をすっと伸ばし、わずかに口角を上げていた。いつもの不器用な微笑みじゃない。やわらかくて上品で、どことなく“王宮の騎士様”って感じの完璧な笑顔だった。
「えっ……リオン、そんな顔ができるの?」
思わず小声で呟くと、リオンは目だけこちらに向けて小さく囁いた。
「真琴、仕事中だ」
(し、仕事中……!? いやいや、切り替えスイッチ早すぎる)
「真琴さん、いつもお世話になっております」
商人さんがにこやかに近づいてくる。
「こちらこそ。いつも素材をありがとうございます」
僕も笑顔を返す。
(普通に会話できる。よかった……)
そう思った矢先――視界の端で、リオンが静かに動く。僕と商人さんの間に、さりげなく入った。
(え? なんで今、距離を詰めてきた?)
「商人殿、貴殿の品はいつも素晴らしい」
リオンが優しく微笑む。
「いえいえ、とんでもない! 副団長殿にそう言っていただけるとは光栄で――」
「ただし」
笑顔のまま、声のトーンだけが少し落ちた。
「真琴に“親切すぎる”必要はない」
言葉は丁寧なのに、背後で風が止まったように感じた。商人さんが真顔で一瞬固まる。
「え、えぇと……もちろん仕事上の礼儀でして……」
「なら良い」
微笑んだまま言うリオン。その微笑みが怖いことに、商人さんは気づいていない。気づいていたら、きっと笑い返せなかっただろう。
(え……これが“外面”? いや、これ……営業用じゃなくて“嫉妬を隠した営業スマイル”じゃないか)
僕は商人さんに説明をしながら、横目でリオンをチラチラ見ていた。
(すごい。誰より紳士なのに、一歩も僕から離れない……これ、完全に縄張りを守ってる大型獣だ)
すると商人さんがふと、リオンに向かって言った。
「真琴さんは本当にいい人ですねぇ。こんな方が恋人なら幸せでしょうに」
(――あ、やばい。それは禁句だ……)
僕が何か言う前に、リオンの営業スマイルが一瞬だけ崩れた。
「商人殿……もしや、真琴を狙っているのではないか?」
「へっ?」
「残念だが、彼には既に決まった人がいる」
「あ、そう、でしたか……?」
商人さんがぽかんとしながら、僕の方を見る。
「リオン!?」
「事実だろう、真琴」
そう言われてしまい、僕は真っ赤になった。
「ちょっと待って、それは……あの……」
「ということだから商人殿、諦めてくれるだろうか」
“営業スマイルのまま迫ってくるリオン”という、人生で二度と見ないであろう光景が目の前にあった。
商人さんは完全に気圧されて、
「し、失礼しました! 本日はこれで!」
持ってきていたカタログを置いて、逃げるように帰っていった。ドアが閉まる音が、やけに大きく響く。
(……商人さん、たぶんもう二度と爽やかに笑わない)
店が静かになり、僕はゆっくりリオンを見た。
「リオンって営業用の顔、すごいんだね」
リオンは小さく咳払いする。
「見せるつもりはなかった」
「かっこよかったけど……ちょっと怖かった……」
「真琴が変に褒めるからだ」
「僕のせい!?」
「君が“爽やかだった”などと言うからだ」
(ああもう。さっきのやり取り、まだ拗ねてるのか……)
リオンの内心がわかったからこそ、僕は一歩近づいた。
「リオン」
「なんだ」
「営業用の顔より――」
そっと、リオンの胸に手を置く。
「嫉妬してたリオンの方が、ずっと好きだよ」
その瞬間、さっきまで完璧だったリオンが一瞬で真っ赤になった。
「……真琴」
隣から手が伸び、腰を抱かれる。
「そんなことを言うな。営業用では……耐えられなくなる」
「耐えなくていいのに」
ポツリと呟いたら、胸に強く抱き寄せられた。
「真琴、あとで覚悟しろ」
「え、なんの!?」
「安心させる“責任”の続きをだ」
(またそれ……!)
でも胸の奥は甘くて、どうしようもなく幸せだった。
商人さんが店に来る時間が近づき、僕は店先を軽く片づけていた。リオンはというと、さっきまで嫉妬で樽を割りそうな勢いだったくせに、今はカウンターで王国に提出する書類を見ている。
(大丈夫かな……さっきのお怒りモードから戻ってるといいけど)
そんなことを思っていた、ちょうどその時。
「こんにちはー、失礼します!」
店のドアが開き、例の商人さんが明るい声で入ってきた。僕は笑顔で迎えようとしたら。
「ようこそ、当店へ」
低く、落ち着いた声が僕の真横から降ってきた。振り向くと、そこには――誰? ――いや、リオンなんだけど……誰!?
さっきまで、嫉妬で気難しい顔をしていた人と同じとは思えない。
リオンは背筋をすっと伸ばし、わずかに口角を上げていた。いつもの不器用な微笑みじゃない。やわらかくて上品で、どことなく“王宮の騎士様”って感じの完璧な笑顔だった。
「えっ……リオン、そんな顔ができるの?」
思わず小声で呟くと、リオンは目だけこちらに向けて小さく囁いた。
「真琴、仕事中だ」
(し、仕事中……!? いやいや、切り替えスイッチ早すぎる)
「真琴さん、いつもお世話になっております」
商人さんがにこやかに近づいてくる。
「こちらこそ。いつも素材をありがとうございます」
僕も笑顔を返す。
(普通に会話できる。よかった……)
そう思った矢先――視界の端で、リオンが静かに動く。僕と商人さんの間に、さりげなく入った。
(え? なんで今、距離を詰めてきた?)
「商人殿、貴殿の品はいつも素晴らしい」
リオンが優しく微笑む。
「いえいえ、とんでもない! 副団長殿にそう言っていただけるとは光栄で――」
「ただし」
笑顔のまま、声のトーンだけが少し落ちた。
「真琴に“親切すぎる”必要はない」
言葉は丁寧なのに、背後で風が止まったように感じた。商人さんが真顔で一瞬固まる。
「え、えぇと……もちろん仕事上の礼儀でして……」
「なら良い」
微笑んだまま言うリオン。その微笑みが怖いことに、商人さんは気づいていない。気づいていたら、きっと笑い返せなかっただろう。
(え……これが“外面”? いや、これ……営業用じゃなくて“嫉妬を隠した営業スマイル”じゃないか)
僕は商人さんに説明をしながら、横目でリオンをチラチラ見ていた。
(すごい。誰より紳士なのに、一歩も僕から離れない……これ、完全に縄張りを守ってる大型獣だ)
すると商人さんがふと、リオンに向かって言った。
「真琴さんは本当にいい人ですねぇ。こんな方が恋人なら幸せでしょうに」
(――あ、やばい。それは禁句だ……)
僕が何か言う前に、リオンの営業スマイルが一瞬だけ崩れた。
「商人殿……もしや、真琴を狙っているのではないか?」
「へっ?」
「残念だが、彼には既に決まった人がいる」
「あ、そう、でしたか……?」
商人さんがぽかんとしながら、僕の方を見る。
「リオン!?」
「事実だろう、真琴」
そう言われてしまい、僕は真っ赤になった。
「ちょっと待って、それは……あの……」
「ということだから商人殿、諦めてくれるだろうか」
“営業スマイルのまま迫ってくるリオン”という、人生で二度と見ないであろう光景が目の前にあった。
商人さんは完全に気圧されて、
「し、失礼しました! 本日はこれで!」
持ってきていたカタログを置いて、逃げるように帰っていった。ドアが閉まる音が、やけに大きく響く。
(……商人さん、たぶんもう二度と爽やかに笑わない)
店が静かになり、僕はゆっくりリオンを見た。
「リオンって営業用の顔、すごいんだね」
リオンは小さく咳払いする。
「見せるつもりはなかった」
「かっこよかったけど……ちょっと怖かった……」
「真琴が変に褒めるからだ」
「僕のせい!?」
「君が“爽やかだった”などと言うからだ」
(ああもう。さっきのやり取り、まだ拗ねてるのか……)
リオンの内心がわかったからこそ、僕は一歩近づいた。
「リオン」
「なんだ」
「営業用の顔より――」
そっと、リオンの胸に手を置く。
「嫉妬してたリオンの方が、ずっと好きだよ」
その瞬間、さっきまで完璧だったリオンが一瞬で真っ赤になった。
「……真琴」
隣から手が伸び、腰を抱かれる。
「そんなことを言うな。営業用では……耐えられなくなる」
「耐えなくていいのに」
ポツリと呟いたら、胸に強く抱き寄せられた。
「真琴、あとで覚悟しろ」
「え、なんの!?」
「安心させる“責任”の続きをだ」
(またそれ……!)
でも胸の奥は甘くて、どうしようもなく幸せだった。
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