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番外編
番外編 アルセリア市民は見た! 商人さん視点:騎士様こわかった
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王都の外れで小さな商店を営んでいる俺は、その日もいつものように荷を積んだ荷馬車を引いて街道を移動していた。
珍しい香辛料を仕入れた帰りで、気分もそこそこ上々。昼を過ぎて日差しは強かったが、馬の機嫌も良く、順調な旅路ってやつだった。
そこに突然現れた。銀の鎧がお天道様の光を反射してきらめき、馬を駆る姿はまさしく絵本で見る“白銀の騎士”そのもの。だが、俺はその気品ある美しさについて考える間もなく、
(ひ、ひえぇぇえぇ!?)
心臓が一気に跳ね上がった。
騎士様――後で知るが王国騎士団副団長のリオン殿下は、まるで魔物でも探しているかのような鋭い目をしていた。
眉間には深いシワが刻まれ、俺を見下ろす蒼い目は氷みたいに冷たく、近づいてくるだけで背筋が凍りつく。
「そこの商人。さきほど、このあたりを黒髪の青年が通らなかったか?」
声まで低い。冷えた刃みたいだ。俺は思わず、荷馬車ごと揺れそうな勢いで頭を下げた。
「ひっ、ひいやっ、ひいっ! く、黒髪の青年でございますか!?」
「そうだ。背は高く、穏やかな目をしている。歩き方はのんびりしていて、人混みではだいたい誰かにぶつかりかける」
説明が細かい。というか騎士様が探す人物は、完全に見た目も仕草も愛おしそう。
(こ、怖い……んだけど……なんだこの必死さ?)
俺は震えながら答えた。
「に、似たような青年なら……一刻ほど前に道を歩いて……そ、その……道端の花を眺めておりましたが……」
思い出しながら詳細に答えると、騎士様の冷えた表情がぱあっと陽光を浴びたみたいに変わった。
「ああ……やはり、この先か!」
(――えっ、そんな安心した笑顔ができるんだ)
さっきまでの、殺気じみた眼光が嘘みたいだった。
だがその直後、騎士様はふっと我に返ったように咳払いをし、ふたたびキリッとした顔に戻った。
「助かった。礼を言う」
そう言うと馬を走らせて行ったが、その背中はまるで“恋人を追いかける青年”そのものだった。
(な、なんだ今の……こわ……いや、あれは……)
俺はしばらく、その場に立ち尽くした。
怖い。確かに怖い。でも――なんか、微妙にあたたかい。
それから30分後、村の入り口でふたりを見かけた。騎士様が探していた黒髪の青年は確か真琴様と呼ばれた、最近異界から精霊によって召喚された菓子職人。
彼は、どう見ても普通の優しい青年だった。荷物を抱えて困ったように笑っていて、俺が想像したよりもずっと柔らかい雰囲気を漂わせている。
そして、その隣に例の騎士様。いや、リオン殿下。さっきまで俺が震えあがったあの騎士様がわずかに眉尻を下げ、真琴様の袖をそっと掴んでいる。
(え……えぇ?)
真琴様が苦笑しながら言った。
「リオン様、あの……そんなに心配して追いかけて来たんですか?」
「別に。心配したわけではない」
いやいや、さっき俺に食ってかかった様子は、完全に心配してる奴の顔だった。
しかも――。
「君はすぐ迷う。だから……その……放っておけない」
声のトーンが、さっき俺に向けた鋭い声とまるで違う。とてもやわらか。低いけれど優しさが滲み出ている。
真琴様は、少しだけ頬を赤らめていた。
「すみません。でも、ただ花を見ていただけで……」
「だから危ないのだ。君は無防備すぎる」
リオン殿下は、まるで宝物を扱うみたいに真琴様の荷物を奪って持ち、歩幅を合わせて隣に立つ。
(あ、あれ? 俺さっき……死ぬほど怖かったはずなのに……)
どこからどう見ても――ただの、恋する騎士様じゃねえか。
俺は、その場にへたり込みそうになった。怖かった、ほんとに怖かった。
でも騎士様が真琴様を見る目は、人が誰かを愛するときだけに宿る、温かくてまっすぐで、どうしようもないほど一途な光だった。
そして俺は、気づけば小さく笑っていた。
「……よかったな、騎士様」
震えるほど怖かったけど、震えるほど優しかった。
珍しい香辛料を仕入れた帰りで、気分もそこそこ上々。昼を過ぎて日差しは強かったが、馬の機嫌も良く、順調な旅路ってやつだった。
そこに突然現れた。銀の鎧がお天道様の光を反射してきらめき、馬を駆る姿はまさしく絵本で見る“白銀の騎士”そのもの。だが、俺はその気品ある美しさについて考える間もなく、
(ひ、ひえぇぇえぇ!?)
心臓が一気に跳ね上がった。
騎士様――後で知るが王国騎士団副団長のリオン殿下は、まるで魔物でも探しているかのような鋭い目をしていた。
眉間には深いシワが刻まれ、俺を見下ろす蒼い目は氷みたいに冷たく、近づいてくるだけで背筋が凍りつく。
「そこの商人。さきほど、このあたりを黒髪の青年が通らなかったか?」
声まで低い。冷えた刃みたいだ。俺は思わず、荷馬車ごと揺れそうな勢いで頭を下げた。
「ひっ、ひいやっ、ひいっ! く、黒髪の青年でございますか!?」
「そうだ。背は高く、穏やかな目をしている。歩き方はのんびりしていて、人混みではだいたい誰かにぶつかりかける」
説明が細かい。というか騎士様が探す人物は、完全に見た目も仕草も愛おしそう。
(こ、怖い……んだけど……なんだこの必死さ?)
俺は震えながら答えた。
「に、似たような青年なら……一刻ほど前に道を歩いて……そ、その……道端の花を眺めておりましたが……」
思い出しながら詳細に答えると、騎士様の冷えた表情がぱあっと陽光を浴びたみたいに変わった。
「ああ……やはり、この先か!」
(――えっ、そんな安心した笑顔ができるんだ)
さっきまでの、殺気じみた眼光が嘘みたいだった。
だがその直後、騎士様はふっと我に返ったように咳払いをし、ふたたびキリッとした顔に戻った。
「助かった。礼を言う」
そう言うと馬を走らせて行ったが、その背中はまるで“恋人を追いかける青年”そのものだった。
(な、なんだ今の……こわ……いや、あれは……)
俺はしばらく、その場に立ち尽くした。
怖い。確かに怖い。でも――なんか、微妙にあたたかい。
それから30分後、村の入り口でふたりを見かけた。騎士様が探していた黒髪の青年は確か真琴様と呼ばれた、最近異界から精霊によって召喚された菓子職人。
彼は、どう見ても普通の優しい青年だった。荷物を抱えて困ったように笑っていて、俺が想像したよりもずっと柔らかい雰囲気を漂わせている。
そして、その隣に例の騎士様。いや、リオン殿下。さっきまで俺が震えあがったあの騎士様がわずかに眉尻を下げ、真琴様の袖をそっと掴んでいる。
(え……えぇ?)
真琴様が苦笑しながら言った。
「リオン様、あの……そんなに心配して追いかけて来たんですか?」
「別に。心配したわけではない」
いやいや、さっき俺に食ってかかった様子は、完全に心配してる奴の顔だった。
しかも――。
「君はすぐ迷う。だから……その……放っておけない」
声のトーンが、さっき俺に向けた鋭い声とまるで違う。とてもやわらか。低いけれど優しさが滲み出ている。
真琴様は、少しだけ頬を赤らめていた。
「すみません。でも、ただ花を見ていただけで……」
「だから危ないのだ。君は無防備すぎる」
リオン殿下は、まるで宝物を扱うみたいに真琴様の荷物を奪って持ち、歩幅を合わせて隣に立つ。
(あ、あれ? 俺さっき……死ぬほど怖かったはずなのに……)
どこからどう見ても――ただの、恋する騎士様じゃねえか。
俺は、その場にへたり込みそうになった。怖かった、ほんとに怖かった。
でも騎士様が真琴様を見る目は、人が誰かを愛するときだけに宿る、温かくてまっすぐで、どうしようもないほど一途な光だった。
そして俺は、気づけば小さく笑っていた。
「……よかったな、騎士様」
震えるほど怖かったけど、震えるほど優しかった。
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