転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる

相沢蒼依

文字の大きさ
29 / 49
番外編

番外編 アルセリア市民は見た! 商人さん視点:騎士様こわかった

しおりを挟む
 王都の外れで小さな商店を営んでいる俺は、その日もいつものように荷を積んだ荷馬車を引いて街道を移動していた。

 珍しい香辛料を仕入れた帰りで、気分もそこそこ上々。昼を過ぎて日差しは強かったが、馬の機嫌も良く、順調な旅路ってやつだった。

 そこに突然現れた。銀の鎧がお天道様の光を反射してきらめき、馬を駆る姿はまさしく絵本で見る“白銀の騎士”そのもの。だが、俺はその気品ある美しさについて考える間もなく、

(ひ、ひえぇぇえぇ!?)

 心臓が一気に跳ね上がった。

 騎士様――後で知るが王国騎士団副団長のリオン殿下は、まるで魔物でも探しているかのような鋭い目をしていた。

 眉間には深いシワが刻まれ、俺を見下ろす蒼い目は氷みたいに冷たく、近づいてくるだけで背筋が凍りつく。

「そこの商人。さきほど、このあたりを黒髪の青年が通らなかったか?」

 声まで低い。冷えた刃みたいだ。俺は思わず、荷馬車ごと揺れそうな勢いで頭を下げた。

「ひっ、ひいやっ、ひいっ! く、黒髪の青年でございますか!?」
「そうだ。背は高く、穏やかな目をしている。歩き方はのんびりしていて、人混みではだいたい誰かにぶつかりかける」

 説明が細かい。というか騎士様が探す人物は、完全に見た目も仕草も愛おしそう。

(こ、怖い……んだけど……なんだこの必死さ?)

 俺は震えながら答えた。

「に、似たような青年なら……一刻ほど前に道を歩いて……そ、その……道端の花を眺めておりましたが……」

 思い出しながら詳細に答えると、騎士様の冷えた表情がぱあっと陽光を浴びたみたいに変わった。

「ああ……やはり、この先か!」

(――えっ、そんな安心した笑顔ができるんだ)

 さっきまでの、殺気じみた眼光が嘘みたいだった。

 だがその直後、騎士様はふっと我に返ったように咳払いをし、ふたたびキリッとした顔に戻った。

「助かった。礼を言う」

 そう言うと馬を走らせて行ったが、その背中はまるで“恋人を追いかける青年”そのものだった。

(な、なんだ今の……こわ……いや、あれは……)

 俺はしばらく、その場に立ち尽くした。

 怖い。確かに怖い。でも――なんか、微妙にあたたかい。

 それから30分後、村の入り口でふたりを見かけた。騎士様が探していた黒髪の青年は確か真琴様と呼ばれた、最近異界から精霊によって召喚された菓子職人。

 彼は、どう見ても普通の優しい青年だった。荷物を抱えて困ったように笑っていて、俺が想像したよりもずっと柔らかい雰囲気を漂わせている。

 そして、その隣に例の騎士様。いや、リオン殿下。さっきまで俺が震えあがったあの騎士様がわずかに眉尻を下げ、真琴様の袖をそっと掴んでいる。

(え……えぇ?)

 真琴様が苦笑しながら言った。

「リオン様、あの……そんなに心配して追いかけて来たんですか?」
「別に。心配したわけではない」

 いやいや、さっき俺に食ってかかった様子は、完全に心配してる奴の顔だった。

 しかも――。

「君はすぐ迷う。だから……その……放っておけない」

 声のトーンが、さっき俺に向けた鋭い声とまるで違う。とてもやわらか。低いけれど優しさが滲み出ている。

 真琴様は、少しだけ頬を赤らめていた。

「すみません。でも、ただ花を見ていただけで……」
「だから危ないのだ。君は無防備すぎる」

 リオン殿下は、まるで宝物を扱うみたいに真琴様の荷物を奪って持ち、歩幅を合わせて隣に立つ。

(あ、あれ? 俺さっき……死ぬほど怖かったはずなのに……)

 どこからどう見ても――ただの、恋する騎士様じゃねえか。

 俺は、その場にへたり込みそうになった。怖かった、ほんとに怖かった。

 でも騎士様が真琴様を見る目は、人が誰かを愛するときだけに宿る、温かくてまっすぐで、どうしようもないほど一途な光だった。

 そして俺は、気づけば小さく笑っていた。

「……よかったな、騎士様」

 震えるほど怖かったけど、震えるほど優しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです

春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。 ここは通過点のはずだった。 誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。 触れない客。 身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。 「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」 突然の身請け話。 値札のついた自分と向き合う三日間。 選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、 通過点は終わりになる。 これは救いではなく対等な恋の話。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

君を選ぶ理由 〜花の香りと幼なじみのΩ〜

なの
BL
幼い頃から、桐生湊は桜庭凪のそばにいると、花が咲いたような香りを感じていた。 祖父同士が幼馴染という縁もあり、二人は物心つく前からいつも一緒だった。 第二性の検査で湊はα、凪はΩと判明。 祖父たちは「完璧な番」と大喜びし、将来の結婚話まで持ち上がる。 ――これはαとΩだから? ――家のため? そう疑う湊。一方、凪は「選ばれる側」としての不安を胸に、静かに距離を取ろうとする。 湊の兄・颯の存在も、二人のすれ違いを加速させる。 花の香りの奥に隠れた本当の気持ち。 役割や運命ではなく、「君だから」と選び直す、 幼馴染オメガバースBL

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

琥珀の檻

万里
BL
砂漠の王国の離宮「琥珀の間」で、王・ジャファルは、異母弟であるアザルを強引に抱き、自らの所有物であることを誇示していた。踊り子の息子として蔑まれ、日陰の存在として生きてきたアザルにとって、兄は憎悪と恐怖の対象でしかなかった。 しかし、その密事を見つめる影があった。ジャファルの息子であり、次期王位継承者のサリムである。サリムは叔父であるアザルに対し、憧憬を超えた歪な独占欲を抱いていた。 父から子へ。親子二人の狂おしい執着の視線に晒されたアザルは、砂漠の夜よりも深い愛憎の檻に囚われていく。

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...