転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる

相沢蒼依

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番外編

番外編 リオン、団員の前で“真琴へのデレ”を誤魔化そうとしてもっと事故る編

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 前回の“威厳溶け事件”以来、なぜか団員たちに会うとやけに優しくされる。

「真琴殿、お茶をどうぞ!」
「副団長の恋人さん、今日もかわいい!」

 リオンの立場を考えて表面上、恋人ではないと否定すると、団員たちが「はいはい照れない照れない」と笑う。

(これ……リオンが恥ずかしがるパターンだ……)

 案の定、朝の本部ホールで再会したリオンは無表情を極めていた。

(――絶対、平静を装ってるやつだ!)

「真琴、今日は何をしに?」
「資料の返却!」
「そうか。助かる」

 抑揚のない淡々とした声。普段の冷静さを、明らかに“盛っている”。

(きっとバレてるよ、リオン……)

 そこへ団員が通りかかり、

「副団長、今日は表情が固いですね?」
「……そうか?」
「昨日、あれほど溶けていたのに!」
「溶けてはいない」
「いやいや、皆見てましたよ~。真琴殿に向けたデレ顔!」

 リオンの蒼い目が一瞬泳ぐ。

「……誤解だ」

(出た、必死の誤魔化し……!)

「誤魔化さなくてもいいのに~」
「副団長が人前で照れたの、初めて見た!」
「結婚式はいつですか?」
「おい、やめろ」

 低音がわずかにぶれた。その瞬間、団員がにやり。

「今、声が柔らかくなりましたね?」
「……なっていない」
「真琴殿にだけ優しい声になるの、もうバレてますよ?」
「……っ」

 リオンの耳がほんのり赤い。仕事モードの仮面が、ひび割れている。

(がんばれ副団長……!)

 内心で応援しながら書類を渡すため、僕は一歩近寄った。

「これ、返しにきたよ。ありがとう、貸してくれて」
「ああ……」

 返事が柔らかい。団員たちの肩が震える。

「ほら~~~優しい声だ~~~!」
「“ああ……”って、何その甘さ!」
「真琴殿、罪深い!」
「ち、違っ!」

 リオンが慌てて姿勢を正す。

「これは、ただ……真琴はよく仕事を手伝ってくれるから……職務上、礼を言っただけだ」
「職務上の“ああ……”じゃないよね絶対!」
「副団長、動揺してます?」
「顔! 顔が赤い!」
「赤くはない!!」

(いや、思いっきり赤いよ……!)

 リオンは誤魔化そうとして、さらに追い詰められていく。

「お前たちは……何を言って……」
「副団長、真琴殿が差し入れを持ってくると、いつも嬉しそうですよね?」
「う、嬉しくなど……っ」

 言い切る前に、僕が口を挟む。

「えっと……この前の焼き菓子、喜んでたよね?」

 団員たちの目が輝く。

「ほら~~~~!!」
「真琴殿の手作りか!」
「だからあの日、やけに機嫌がよかったのか!」
「ま、待て……!」

 リオンが完全に混乱している。誤魔化せば誤魔化すほど甘さが露呈し、団員たちの興奮が加速していった。

(あ、これもう止まらないやつだ……かわいそうに)

「副団長、もういっそ言っちゃえばいいのに」
「な、何をだ」
「真琴殿が好きだって」
「ぶっ……!」

 リオンが言葉を失い、口がパクパクしている。団員たち、それを見て大爆笑。

「図星ですね副団長!」
「かわいい!」
「普段の威厳、どこいったの!」
「かわ……っ……!」

 副団長が、“かわいい”と言われて固まった。

「……もういい。真琴、来い」
「えっ?」

 手首を掴まれ、そのままリオンは僕を隅の小会議室へ連れ込んだ。

(――拉致?)

 扉が閉まり、やっと手が離れる。

「……真琴」
「な、なに?」
「………助けてくれ」
「え?」
「誤魔化せば誤魔化すほど……全部、君のせいにされる……っ」
「僕の?」
「“真琴が来ると副団長が甘くなる”って……団内でほぼ常識になってしまった!」

(あ……うん……否定できない……)

 リオンは額を押さえた。

「もう無理だ……威厳が保てない……っ」
「ご、ごめん?」
「謝るな……嫌ではない」

 小さくそう呟いた。その顔は赤くて、情けなくて優しくて。そして誰よりも甘かった。

***
「なぁ……お前、さっきの副団長の“あれ”見たか?」
「“あれ”って?」
「真琴殿が来た瞬間の……あの顔の……ほら、あの……」
「恋人を見つけた大型獣の顔?」
「そう! それ!」
「見た見た。あれはもう、恋ではなく“溺愛”の域だと思うぞ」
「ていうか副団長って、真琴殿が名前を呼んだ時だけ声のトーン変わらない?」
「変わるな、柔らかくなる。えげつないくらい」
「すげぇ……俺たち相手だと、鉄の声なのに」
「……待てよ? 副団長のその変化、本人は隠してるつもりなんだよな?」
「まぁ……間違いなく」
「じゃあ、俺らが気づいてるって知ったら――」
「恥ずかしさで死ぬ?」
「死ぬな」
「死ぬわ」

 団員たちがコソコソしている背後で――。

「……何を話しているんだ?」

 リオンが立っていた。

「ひえっ!?」
「副副副副団長!? べ、別に怪しい話では!」
「そうだ! 副団長は仕事一筋で、まったく隙がなくて、気持ちを乱すことなど絶対にない、立派なお方だという話を!」
「……お前ら、嘘が下手すぎるだろう」

 リオンは眉を寄せ、深いため息をつく。

(まずい……昨日より挙動不審だ……)

 団員Cが焦って声を上げた。

「じ、じゃあ逆に聞きますけど! 副団長が真琴殿の前で見せる、あの顔は何なんです!?」
「お前は黙っていろ!!!!!」
「ひっ!」

 リオンの顔が一瞬で赤くなる。

「わ、わし見たのです……昨日そこの路地裏で……真琴殿の頭を……」
「やめろ!」
「……なで……」
「やめろと言っている!!!!」

 騎士団全体が静まり返った。

(副団長が……完全に狼狽している!)
(これは……もしかして……)
(副団長……恋愛に関しては……めっちゃ弱いのでは!?)
(すげぇかわいい……)

 団員たちの勘違いが、一気に確信へと変わる。

 不毛なやりとりの最中、ちょうど廊下の向こうから――真琴が書類を抱えて歩いてくる。

「リオン、渡し忘れた書類を――」

 その瞬間。

「っ……!」

 リオンの背筋がビクリと跳ね、完全に“素の顔”に戻ってしまった。今にも逃げたいけど逃げられない、複雑な表情を露わにする。

 だが真琴が近づくにつれ、見るからに嬉しそうな顔に変わった。

(あ……)
(副団長……デレた)
(真琴殿を見た瞬間……デレた)
(しかも本人にバレないように、必死に隠してる)
(うわぁかわいい……)

 団員たち全員が悟った。副団長、恋すると雑魚。しかも真琴殿の前だと秒で敗北する。

「副団長……あの……我々からお願いが」
「……なんだ」
「真琴殿のこと、大事にしてあげてください!!!!」
「!?」
「幸せにしてあげてください!!!!」
「結婚式には、全員呼んでください!!!!」
「ば、バカを言うなあああああ!!!!」

 リオンの叫びが訓練場に響き渡った。耳まで真っ赤じゃないか。

(あ……終わった……)

 真琴の前でだけ威厳が溶けたところを、完璧に団員たちに見られてしまった。

(これ以上……誤魔化しようが……ない……)


●その日の休憩室にて

「副団長……絶対あれ、恋だよな」
「恋どころじゃねぇ、重いぞあれは」
「真琴殿と並んだときの副団長、完全に“騎士じゃなくて彼氏”だったもん」
「このままじゃ真琴殿に逃げられたとき、国が終わる」
「……守れ……真琴殿……」
「副団長を救うためにもな!」
「よし、我々で副団長の恋路を全面サポートするぞ!!」
「「「おーーーー!!!!」」」

 団員間の妙な一致団結が生まれた。

 一方その頃リオンは――。

(……なんでこうなる……頼む……もう誰も何も言わないでくれ……)

 机に突っ伏していた。
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