転生ショコラティエは白銀の騎士にとろける恋を捧げる

相沢蒼依

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番外編

番外編 王様、ついに副団長の恋を公式議題にする

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 騎士団内で密かに作成された、あの問題の冊子がある。

《副団長精神安定管理ガイドライン(極秘)》

 本来ならば、王の目に触れるはずのない内部資料だった。ただし、この国の騎士団長という男は、そうした「常識」を守る性格ではない人物。

「陛下、大変面白いものができまして」

 彼はまるで余興の道具でも差し出すように、その冊子を王に献上した。国王陛下は静かにページをめくる。

「……笑うだけで倒れる?」
「……囁かれると戦闘不能……?」
「……泣かれると、国境まで走る……???」

 数秒の沈黙。そして次の瞬間――。

「はははははははは!!」

 王の豪快な笑い声が、玉座の間に響き渡った。

「副団長は、恋で死にかけておるのか!!」

 その爆笑は城中に広まり、あっという間に宮廷官僚の耳にも届いた。

 その日の夕刻、緊急会議が招集された。

 議題:『副団長リオン・ヴァルハートの恋愛問題について』

 官僚Aが額を押さえる。

「……失礼ですが、なんですかこの議題は」
「必要だからだ」
「恋愛を会議で扱う国がどこに……」
「ここにおるぞ」

 即答である。誰もそれ以上、異議を唱えられなかった。団長は淡々と報告を続ける。

「副団長は“真琴殿依存”が深刻だ。精神安定のため、真琴殿を国家級VIPとして二重登録した」
「二重登録⁉ そんな前例は――」
「良いではないか。面白いから」

 部屋が静まり返る。どう考えても、この国のトップが一番たちが悪い。

 王は書類を読み進め、満足げにうなずいた。

「ふむ……“精霊の菓子職人”としての評価も高いが――副団長の生命維持要員でもあるのだな?」
「はい。彼がいないと副団長が壊れます」
「壊れる?」
「恋で」
「恋でぇ!!」
「よし、決めた」

 王は楽しげに宣言した。

「精霊に召喚された清水真琴は、国家宝級の扱いとする。“アルセリアのチョコ”は王家の特級守護菓子だ」

 特級守護……菓子?

「陛下、その分類には前例が――」
「よいではないか。甘くて美味かったぞ」

 理由が軽すぎる。

 王は筆を取り、あの冊子の裏表紙に一言を書き加えた。

『国王承認:清水真琴は副団長の生存に必須。以後、全軍・全臣下は丁重に扱うこと』

 官僚たちは震え上がり、団長だけが満足げにうなずいていた。

 翌日。何も知らないまま王宮に呼び出された真琴は、王の前で膝をついた。

「よく来たな、真琴よ。そなたの作る菓子は、実に見事であった」
「恐れ多いお言葉です!」

 王は、わざと間を置いてから言った。

「そして副団長の命を救っておること、誠に感謝する」
「…………命?」

 真琴は完全に固まった。

「そなたのおかげで、あやつは毎日生きておる。そなたが泣けば、国境まで走るらしいな? ははは、実に分かりやすい男だ!」

(全部、バレてる……!)

「安心せよ。そなたは国宝級の扱いとなった。何かあれば、王家が守る」
「こ、国宝……?」

 理解が追いつかないまま、真琴は呆けた顔で帰宅した。

夜。

「……リオン。今日のこと聞いてる?」
「き、聞いては……いるが……っ」

 リオンは耳まで真っ赤にして震えた。

「王様に、“命を救ってる”って言われたよ」
「や、やめてくれぇぇぇぇ!!!」

 顔を両手で覆い、床に沈むリオン。

「私は……そこまで……みっともないのか」

 真琴は静かに首を振った。

「ちがうよ。僕は誇りに思ってる」
「…………っ」
「国がどう言っても、僕がリオンを守りたい気持ちは、僕の意思だからね」

 その一言で、リオンは完全に崩れ落ちた。震える腕で真琴を抱きしめる。

「……そんなことを言われたら……私はもう……国王より真琴が怖い」
「僕は脅してないよ!」

 王の布告は瞬く間に広まり、

『清水真琴は国家宝級の貴人であり、副団長の命を救う重要人物である』

 という噂が街を駆け巡った。

「副団長の“恋の相手”の真琴様……!」
「国家が守る恋だってよ!」
「なんだこの国は!!」

 街は半ば祝祭状態。

 一方その頃、リオンは隊室の隅で死んだ目をしていた。

「副団長! おはようございます! 真琴様が今日もお元気で何よりです!!」
「そんな報告はいらん!!」

 団長が肩をすくめて言う。

「まあ……国が知った以上、もう隠せんよ。覚悟して、真琴殿に愛でられるといい」
「団長ぉぉぉぉ!!!」

 こうして今日も、副団長は恋と国家に包囲されながら、生き延びているのだった。

 ――すべては、ひとりの菓子職人を愛した結果である。
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