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第16話 尋問大会

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  コンビニで適当に惣菜パンを見繕い、買ってから学校まで行くと、木々羅はもう着いているようだった。当たり前か。
  木々羅は頭がおかしいが、常識的な範囲だと思っている。いや、全然常識の範囲じゃないわ。
  そういえば、木々羅はお昼どうしてるんだろう。
  クラスの人気者であるから、教室のど真ん中でドーン、と食べていることには違いないが、彼が普段何を食べているかなんて気にしたことはない。
  お弁当とか作ってるんだったら、くれそうだし。いや、いくらあんな感じでもそこまで甘えたらダメだな。

   グダグダと考えながら席についてぼうっとする。賢い人とかはこんな時間も勉強してるみたいだけど、あたしはそんなにすごい大学とかを目指してるわけじゃないから、そんなことはしない。何となく生きて、何となく過ごしてる。
  一見無意味かもしれないけど、それがいい。

  開けっ放しの窓から夏の風が滑り込んできた。一週間後から、夏休みだ。
  一人喜びに浸っていると、突然目の前にぬっと影が現れた。
  普段私の席に近づく人なんていないから、疑問に思って見上げる。
  一人例外がいるけど。

「ねね、深澤さん」

  目の前にいたのは、クラスで一番身長が高くてチャラチャラしている男子だった。
  彼は、運動が得意だが、勉学の面に関しては壊滅的だったはず。進学も危ういそうな。
  いつもは木々羅のグループにいたと思う。

「何でしょう?」

  普段喋らなすぎる人種に話しかけられ、思わず敬語で答えると、彼は、敬語!? ウケる、と爆笑していた。

「あのさ、木々羅と付き合ってるってホント?」

「は!?」

  相変わらず爆笑しながら大きな声で言う彼に、背中を冷や汗が駆け降りる。いやいやいやいや、ちょっと待て。
  思わず木々羅を睨むと、彼は全力で胸の前で手を振った。
  どうやら今回のことには関わりはないようだ。
  クラスの雰囲気が凍りつく。
  そりゃそうだ。木々羅には誰も手出ししてはならぬという暗黙の了解があったのだから。
  木々羅のことを、好きだという男子もいるくらいで、だからこそこんな冴えない女が彼女になったんだと誤解されたら、色々良くない。

  クラスの冷たい視線を一心に受けて、ギギギ、と音をさせそうな具合でニヤニヤと笑う目の前の男を見つめると、彼はどうなのどうなの、と嬉しそうに聞いてきた。
  後で締めるかんな、と言いたいところだが、逆に締められることは確実なので、そんなことは言えない。

「そんな風に、見えます?」

  どう答えたらいいのか分からなかったので、とりあえず疑問系で。  
  こう聞けば、もしかしたら理由まで答えてくれるかもしれない。

「いや、見えない」

「ですよね~」

  なんでやねん、と心の中でツッコみながら、愛想笑いを浮かべる。あたし、ちゃんと笑えてるかな。

「あ、でも今日の朝、木々羅と深澤さんが一緒に歩いてるとこ見た人何人かいるみたいだけど」

  頭の中で警笛が鳴り響いた。
  ぐるぐると考えを巡らすが、これを挽回する策は思いつかない。

「たまたまです」

  かろうじて答えると、男子はつまんなさそうな顔をして、席へと戻っていった。
  思わずため息をつく。

 これからあたし、どうなるんだろう。
 ていうか木々羅、あたしが尋問されてる間ニヤニヤするのやめてくれ。
 
 
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