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11 天界と地上
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天界。ルシファーの白い館は、深い静寂に包まれていた。
だが、その脳裏にまた映像が流れ始め、心の静寂は一瞬で崩れる。
最初は、ほんの一瞬の断片──セドリックの顔が迫ってくる映像だけだった。
だが日を追うごとに長く、鮮やかになっていく。
ルシファーの身体は熱に震えていた。
目を閉じても、セドリックの存在が皮膚の下まで浸透している。
『ルシファー』
『ルシファー、愛してる』
夢の残像――指の感触、唇の予感、息遣いの温度――それらが現実の身体にまで波紋のように広がる。
「……あっ……っ……」
小さな声が漏れる。理性は必死に制御しようとするが、身体は嘘を付けない。
胸の奥、下腹の奥まで、淡くも鋭い疼きが走る。
手のひらが思わず太ももに触れるが、震えが止まらない。
ルシファーは思わず、床に手を着き背を反らせた。
まるで、そこにセドリックがいるかのような錯覚が、痛みと快楽の境界を揺らす。
「……っ…………!」
言葉にならない声は、館の静寂に溶けた。
夢の中の熱が現実にまで影響し、指先がかすかに震え、唇が乾いた。
呼吸は浅く、速くなり、胸がぎゅっと締め付けられる。
ルシファーは自分の身体を持て余す。
触れられない焦れ、近くにいない苛立ち、しかしこんなにも鮮烈な執着――全てが絡み合う。
「……これは幻覚……のはず、だが……なぜ、こんなものを……」
胸の奥に芽生える理解しきれぬ興奮。
抗えない波が押し寄せ、理性のタガがほんの少し外れかかっていることを、彼自身も否定できなかった。
「神よ……助けてください……」
──返事は、ない。
◇
セドリックは王宮の寝室で、深い夢の底に沈んでいた。
夢の中で、彼は探し続けてきた天使を見つける。
白く大きな翼を背に持ち、背の高い姿。
艶やかな黒髪が淡い光をまとって揺れ、その紫の神秘的な瞳が、自分をまっすぐ見つめている。
「……ルー」
かすかに震える声が、確かに届いた。
ルシファーの目がわずかに見開かれ、次の瞬間、優しい笑みがこぼれる。
言葉はない。ただその視線の温もりが、冷えきった心を包み込む。
セドリックの瞼が開く。
朝の柔らかな光が寝室に淡く差し込んでいる。
夢の余韻がまだ胸に残っていた。
ルシファーの瞳──柔らかくも涼やかな視線。
あの感覚が体中をくすぐるように熱を帯びている。
「ルー……」
思わず呟く声に、沈黙が答える。
夢の中で触れられた温もりはもうない。
なのに、胸の奥のざわめきは現実にまで溢れ出している。
セドリックは布団の中で小さく身を起こし、掌で顔を覆った。
「ルー。……会いたいよ……一体いつになったら帰って来てくれるんだ?」
夢と現実の違いの残酷さに、しばし動けずにいた。
やがて、深く息をつき、布団から身を起こす。
窓の外にはまだ眠りをまとった庭園が広がっていた。
夢で交わした視線はもうここにはない。
――ルシファーとは、現実に会えなくても、夢の中でまた会える。
そう思って生きていくしかない。
だが、その脳裏にまた映像が流れ始め、心の静寂は一瞬で崩れる。
最初は、ほんの一瞬の断片──セドリックの顔が迫ってくる映像だけだった。
だが日を追うごとに長く、鮮やかになっていく。
ルシファーの身体は熱に震えていた。
目を閉じても、セドリックの存在が皮膚の下まで浸透している。
『ルシファー』
『ルシファー、愛してる』
夢の残像――指の感触、唇の予感、息遣いの温度――それらが現実の身体にまで波紋のように広がる。
「……あっ……っ……」
小さな声が漏れる。理性は必死に制御しようとするが、身体は嘘を付けない。
胸の奥、下腹の奥まで、淡くも鋭い疼きが走る。
手のひらが思わず太ももに触れるが、震えが止まらない。
ルシファーは思わず、床に手を着き背を反らせた。
まるで、そこにセドリックがいるかのような錯覚が、痛みと快楽の境界を揺らす。
「……っ…………!」
言葉にならない声は、館の静寂に溶けた。
夢の中の熱が現実にまで影響し、指先がかすかに震え、唇が乾いた。
呼吸は浅く、速くなり、胸がぎゅっと締め付けられる。
ルシファーは自分の身体を持て余す。
触れられない焦れ、近くにいない苛立ち、しかしこんなにも鮮烈な執着――全てが絡み合う。
「……これは幻覚……のはず、だが……なぜ、こんなものを……」
胸の奥に芽生える理解しきれぬ興奮。
抗えない波が押し寄せ、理性のタガがほんの少し外れかかっていることを、彼自身も否定できなかった。
「神よ……助けてください……」
──返事は、ない。
◇
セドリックは王宮の寝室で、深い夢の底に沈んでいた。
夢の中で、彼は探し続けてきた天使を見つける。
白く大きな翼を背に持ち、背の高い姿。
艶やかな黒髪が淡い光をまとって揺れ、その紫の神秘的な瞳が、自分をまっすぐ見つめている。
「……ルー」
かすかに震える声が、確かに届いた。
ルシファーの目がわずかに見開かれ、次の瞬間、優しい笑みがこぼれる。
言葉はない。ただその視線の温もりが、冷えきった心を包み込む。
セドリックの瞼が開く。
朝の柔らかな光が寝室に淡く差し込んでいる。
夢の余韻がまだ胸に残っていた。
ルシファーの瞳──柔らかくも涼やかな視線。
あの感覚が体中をくすぐるように熱を帯びている。
「ルー……」
思わず呟く声に、沈黙が答える。
夢の中で触れられた温もりはもうない。
なのに、胸の奥のざわめきは現実にまで溢れ出している。
セドリックは布団の中で小さく身を起こし、掌で顔を覆った。
「ルー。……会いたいよ……一体いつになったら帰って来てくれるんだ?」
夢と現実の違いの残酷さに、しばし動けずにいた。
やがて、深く息をつき、布団から身を起こす。
窓の外にはまだ眠りをまとった庭園が広がっていた。
夢で交わした視線はもうここにはない。
――ルシファーとは、現実に会えなくても、夢の中でまた会える。
そう思って生きていくしかない。
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