光の果ての君へ~天使の落ちる罠

ノエル

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再会の翌日

ルシファーはセドリックの案内で、静かに王宮の廊下を歩いていた。
天使の姿では目立ちすぎるため、翼を体内に隠し、セドリックから借りた軍服をまとった。誰が見ても、高位貴族だ。
二人の胸の奥には、昨日の再会の余韻がまだくすぶっていた。

「お前……随分、大人になったな。それに、瞳の色が変わったのか。以前は茶色だった」

ルシファーは目を逸らしながら言葉を続ける。内心では、あの腕の感触や声の温もりを思い出し、少し頬が熱くなるのを感じていた。

「王族は血に潜む龍が覚醒すると、瞳が金色になると言う話だ。その時から、背丈も急に伸びた」

「龍が覚醒したということか……」

セドリックは微笑みを返した。

「こちらの廊下は人の出入りも多い。見られないように、慎重に歩こう。あなたは美しすぎるから、あまり見られたくないんだ」

二人で王宮の中を歩きながら、ルシファーは少しずつこの5年間の王子の歩みを知ることになる。

「父王は、もうほとんど存在感を失くして、隠居状態だ。王妃は生家に戻っている。弟は最近王宮に呼び戻した。あいつの人を見る目は確かだし、仕事ができるから助かっている」

セドリックの言葉に、ルシファーは耳を傾ける。
胸の奥で、触れてはいけない話題に王子が触れようとしているのを感じながら。

「毎日、あなたを思わない日はなかった。あなたが帰って来た時、褒めて欲しい——その一心で頑張ったんだ」

王子の言葉は真っすぐで、揺るぎない決意に満ちていた。その熱意が、ルシファーの理性にささやかなざわめきをもたらす。

「……僕は、この5年間、あなたが戻ってくる日を信じて、国政に励んできた」

熱っぽい瞳を向ける王子に、ルシファーは静かに心を揺さぶられる。
だが、ルシファーには守らなければならない使命がある。王子の熱に流されてはいけないのだ。

「あなたがいない日々は、いつも心が空っぽだった。毎晩、夢の中であなたの姿を探した。戻ってくる日を信じて、ずっと待っていたんだ」

歩きながら交わされる会話の中で、王子の努力、成長、孤独――すべてがルシファーの胸に響く。
目の前に立つ青年は、かつての幼い少年ではない。苦悩と努力の5年間が、その声と瞳に刻まれていた。

「……お前は、この5年間、本当にがんばった。……よくやった」

「……ああ。ずっとあなたにそういってもらいたかったんだ。やっと……願いが叶った」

「私がいない方が、かえって成長できるようだな」

ルシファーが軽い調子で言うと、セドリックは、唇を噛み締め黙り込む。
そして、「部屋へ帰ろう」とぶっきらぼうに言った。



部屋に戻ってすぐ、セドリックは叫んだ。

「いない方がいいなんて言わないでくれ」

彼はルシファーにそっと歩み寄った。

「羽音が聞こえるたび、窓に駆け寄った。それがあなたの羽音ではないとわかっていても」

王子はルシファーを見つめ、胸の奥に渦巻く感情を押し殺せず、言葉にした。

「君がいないあの5年間、俺の心はずっと空っぽだった。誰も、何も、どんなものも、君を超えられなかった」

ルシファーは静かにその場に立ち、言葉を選ぶ。

「……私は神から、“お前が成長するまで守護する任務”を命じられただけだ。私に執着してはいけない」

ルシファーの胸の奥で警鐘が鳴る。王子が今、愛を語っていることを悟った。

「——あなたを失いたくない!」

王子の声が震え、手が自然にルシファーの腕に伸びる。

「あなたを見ているだけで、胸が押し潰されそうなんだ。僕の心は、あなたに触れた瞬間から、もう戻れない!」

ルシファーは一歩下がり、冷静を装う。
王子は静かに呼吸を整え、唇を微かに歪めた。

「——僕はもう、あなたを手放せない」

その言葉に、ルシファーは目を逸らす。
王子はそっと手を伸ばし、ルシファーの頬に触れる。

「触れたい、抱きしめたい、——そして、僕のものにしたい。そう思うのはいけないことなのか?」

「……セドリック……」

思わず漏れた声に、王子の指先が髪に分け入る。
その仕草にルシファーは息を詰め、視線が離せなくなる。
見つめられる瞳に、捕らえられていく感覚。

「駄目だ。天使が人間と過ちをおかすことは大罪だ」

「罪はすべて僕が負う」

唇が重なった瞬間、初めはほんの軽い触れ合いだった。
しかし熱は次第に増し、互いの息遣いが荒く、甘く絡み合う。
ルシファーの胸の奥で、抗おうとする理性はひどく震え、
同時にそれに抗えない自分を、初めて自覚した。

王子の低く震える声──

「もう、離さない……。神に魂を消されてもかまわない……。あなたを失うくらいなら、いっそそちらの方が楽だ」

その言葉に、ルシファーの心は震え、思わず身体から力が抜ける。

「ルシファー……」

耳元で囁かれる声に、胸が締め付けられ、体が熱く疼く。
ルシファーは唇を震わせた。

たとえ、そうであっても、越えられない一線がある。
セドリックの身体を離して、ルシファーは「駄目だ」と呟いた。
理性の声が、セドリックを拒絶していた。
ここで禁忌を犯すわけにはいかないのだ。

セドリックは、ルシファーの頬を指でなぞり、静かに呟いた。

「……あなたの理性が僕を拒んでも、心がそうとは限らない。すぐにとは言わない。あなたが僕を受け入れてくれるまで待つよ。だから、もうどこにも行かないでくれ」

ルシファーは目を閉じ、深く息を吐いた。
今、天使の胸を焼いているのは、罪ではなく、愛そのものだった。
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