アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

文字の大きさ
21 / 61

性転換と悩み1

しおりを挟む

 目を覚ますと、そこは見知らぬ天蓋だった。
 多くのレースによって飾られた天蓋つきのベッドに、アンリエッタは横たえられていた。
 広い部屋だ。アンリエッタの住む侯爵家の自室ももちろん広いが、ここはそれに輪をかけて広い。それに調度の数々が洗練されていて、アンリエッタの目にもそれが並々ならぬ高級品ばかりであることが見て取れる。窓の外には夕暮れが広がっていて、アンリエッタは思わずつぶやいた。
「こ、こは……」
「起きたの、アンリエッタ」
「フェリクス……?」
 学園の制服を脱いで、ラフな格好に着替えたフェリクスがそこにいた。
 フェリクスは、アンリエッタのベッドに腰かけて、アンリエッタの頬をさする。
 貧血になったんだ。そう言って、アンリエッタを心配げに見つめたフェリクスは、アンリエッタの背を支えて、横にある水差しからグラスに水を汲み、それをアンリエッタに手渡してくれた。
 アンリエッタは混乱しながらもフェリクスのさし出すグラスから水を飲んだ。
 薄く色付いた水は甘く、果物やハーブで味をつけているのかもしれなかった。
 グラスの中を飲み干したアンリエッタに、フェリクスが二杯目をよこす。
「もう喉はかわいていないわ」
「でも少ないから、もう少しこの薬湯を飲んで」
「……薬湯?」
 アンリエッタが不思議に思って首をかしげると、フェリクスはまじめな顔をしていった。
「ああ。アルファからオメガに無事に性転換したとはいえ、性転換したばかりだから不安定なんだ。体調を崩してしまうことが多いらしいから……」
 二杯目の薬湯を口に含み、飲み込もうとしたアンリエッタはむせた。
「アンリエッタ、大丈夫かい?」
「性転換、って、誰が?」
 アンリエッタは当惑した。たしかに聞こえているのに、それがどういう意味なのかうまくかみ砕けない。
「君が。アンリエッタ。アルファから、オメガに」
 真剣な顔でそう言ったフェリクスだが、彼が何を言っているのかわからない。
 アンリエッタはアルファで、それは変わらない事実で、だからフェリクスに噛まれても何もないはずで。
 頭の中がぐるぐるする。アンリエッタは急に喉がからからに乾いて、手に持っているグラスを握りしめた。
「アンリエッタ?」
「ふぇり、くす、私、アルファよ……?」
 口の中に触れて、歯をなぞる。尖っていた、アルファの証である大きな犬歯が、心なしか小さく思えるのは気のせいだろうか。
 信じられない思いと、信じたくない感情、そうして――知識の中にひとつ、はっきりと思い浮かんだ「ビッチング」という言葉が脳裏をよぎる。
 ビッチング――アルファやベータが、より強いアルファにうなじを噛まれ、あるいは長期間にわたりフェロモンを注がれ、性転換するまれな現象のことだ。
 通常、濃いフェロモンを長時間摂取しなければ性転換など起こりはしない。けれど、ごくごく低確率で、うなじを噛むだけで性転換することがあるという。それを起こすことができるのは、よほど相性がいいか、強いアルファしかいない。それこそ、皇帝一族のような。
 アンリエッタは、フェリクスの顔を見上げた。
「君、もしかして……アンリエッタ、私がビッチングをすると思わなかったのか……?」
「ビッチング、なの、本当に」
 言葉が足りない、ではない。そもそも、あの状況で、ビッチングしようとしている、なんて、口にする余裕はなかった。かといって、アンリエッタが察することもできはしまい。
 ただ、そう、ただ二人の間に、決定的なすれ違いがあったというのは、たしかなことだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...