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第五章
この世界のヒロイン1
しおりを挟む翌日の学園は、レインが休んだ事実などなかったくらいにいつも通りだった。
もともと、もうすぐ卒業で、進路も王子妃と決まっているレインは学園に来る必要もなく、したがって、休んだ穴埋めのために課題を追加される、なんてこともなかった。
ただ学園の教師陣が「アンダーサン公爵閣下から聞きましたが……」とレインを心配してくれるようになっていたことだけが違いだった。
おそらく、ユリウスがレインを案じて先に根回しをしていてくれたのだろう。
ユリウスのおかげで、せめて教師陣には、レインがヘンリエッタをいじめてなどいないということが理解されて、周知されている。ユリウスは、レインを、たとえそばにいられないときでも守ってくれている。それが嬉しかった。
相変わらずオリバー王子たちには遠巻きにされ、敵視されてもいるけれど、レインは平気だった。
状況が変わったのは、昼食を食べようとカフェテリアに向かったときだ。
カフェテリアに向かう途中の廊下で、ヘンリエッタが話しかけてきたのである。
「レイン様、私、レイン様にお話があるんです。来ていただけますか?」
「……ここで、話すのではいけないのですか?」
「ここではちょっと……すみません」
全然申し訳なくなさそうに、ヘンリエッタが言った。
オリバー王子たちはここにはいない。周囲を見回して、それならいいわ、と思って、レインは頷いた。
「わかりました。……けれどどこへ?」
「こっちです」
ヘンリエッタはニコ、と笑ってレインを先導した。
カフェテリアから続く長い渡り廊下を渡り、ヘンリエッタとレインは突き当たりの階段を上っていく。
人気のないところに案内されるかと思えば、そこそこに人目がある。それに安堵していると、ふいに、階段の踊り場で、ヘンリエッタは立ち止まった。
「ねえ、レイン様」
「どうしました? コックスさ……」
レインが言い切るより前に、ヘンリエッタが振り返る。その目がほの暗く輝いてレインを映していた。
「昨日、ユリウス様とデートしてましたよね」
「え……」
レインは瞠目した。どうしてヘンリエッタが、レインとユリウスが一緒に出掛けたことを知っているのだろうか。
「私、学園を早退して見てたんですよ。二人でお茶なんかして、ドレスまで作っていましたね」
「どうして……」
「どうして見ていたのか、ですか? 簡単ですよ。それがヒロイン『ヘンリエッタ』と隠しキャラ『ユリウス』のデートイベントだったから。だから早退して、そこに行ったんです。ユリウスがいじめられてるヘンリエッタを連れ出して、気分転換させてくれるイベント。なのに、あそこにいたのは悪役令嬢とユリウス。そこは私がいるべき場所だったのに」
「デート、イベント……?」
「そう。ここじゃない世界には、乙女ゲームっていうものがあるらしいんです。お義母さまが教えてくれたの。お義母さまは『ヘンリエッタ』と『ユリウス』のカップリングが好きなんですって」
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