37 / 67
第六章
婚約破棄から断罪へ2
「な……んでそれを。……いや、俺はそんなこと……」
「使用人というものは、全員が全員、絶対的に主人に忠実というわけではないのですよ。かつて王女を攫った侍女のように。この使用人も、いつかあなたに取引を持ち掛けられるよう、この名簿を残していた」
言って、ユリウスは手にしていた古い紙を広げた。たった数枚の紙は、しかしはっきりと王家の刻印がなされている。ユリウスがオリバーを、そして、コックス子爵夫人を睨み据えた。
「これがその改ざん前の名簿です。ここに、王女を攫う手引きをし、その後行方不明となった侍女の名前が書いてあります。……そうだろう、フィーヴィ・コックス子爵夫人!」
「違う! 違う! そんな、ちゃんと私は髪を黒くして……!あ……」
「そうよ!お義母さまは私のために悪役令嬢を排除しただけよ!」
「黙りなさい、ヘンリエッタ!」
悲鳴のような声が響く。狼狽して、うっかりと自白してしまって焦るコックス子爵夫人に対して、ヘンリエッタは堂々と、自分は悪くないのだと主張する。
「子爵令嬢には虚偽を教えていたようだな、子爵夫人」
「ちが、私はヒロインを幸せにしたくて……」
ヒロインとは何なのだろう。レインはわからない単語に眉をひそめた。悪役令嬢、そしてヒロイン。まるで巷で販売されている小説のようだった。まさか、ヘンリエッタはそう思い込んで生きて来たというのだろうか。自分が物語の主人公なのだと。
「その王女が本物である証拠はあるのか! 王女を包んでいたおくるみが証拠だなんて認めないからな!」
オリバーが吼える。ユリウスは氷のようなまなざしでユリウスを見やる。それにオリバーが委縮すると、静かに返した。
「証拠はここに。レイン。皆に、その顔を見せてやってはくれないか」
顔を見せる。それがどういう意味を持つのかわからない。
けれど、ここまでのユリウスの言葉に、レインはユリウスが自分に何をさせたいのかを理解していた。顔を曝すことは恐ろしいことだ。昔からそう、赤い、不吉な不気味な目。そう言い聞かされて育ってきた。
でも、レインはもう、あの頃のレインではない。兄が――ユリウスが顔を見せなさい、というなら、この顔を皆に見せることに恐怖などありはしなかった。
レインは頷く。
「はい、お兄様」
レインはまず、前髪を横に流した。そして、かけていた眼鏡をそっと外す。前を向く。
周囲から、ほう、とため息が漏れた。
――えっ、レイン様、あんな顔をしていたの。
――あんな美少女なんて聞いてない!
――そう言えば、レイン様はいつから顔を隠してた?
――知らないよ。だってレイン様を美人だとか悪くないって言ってたやつらは、みんな殿下ににらまれて退学していったじゃないか。
ざわめきが広がる中、オリバーが周囲を睨んで黙らせようとする。けれど始まった噂話は止まらない。
――オリバー様が扇動してたんだよ、きっと。
――自分の浮気をごまかそうとして?うわ、ひっでえ!
――じゃあ、レイン様がヘンリエッタさんを階段から落としたのも……。
ーーオリバー様がヘンリエッタさんに命じた自作自演……ってこと!?
オリバーへの不信の声が高まる中、オリバーが歯ぎしりをしながら、ヘンリエッタを突飛ばすようにして手放し、ユリウスに詰め寄った。
「まさかその顔が先代女王と似ているから、なんて言わせるなよ。似ているものなんて星の数ほどいるんだから」
「黙れ。……ベン、カーテンを」
「はい」
「使用人というものは、全員が全員、絶対的に主人に忠実というわけではないのですよ。かつて王女を攫った侍女のように。この使用人も、いつかあなたに取引を持ち掛けられるよう、この名簿を残していた」
言って、ユリウスは手にしていた古い紙を広げた。たった数枚の紙は、しかしはっきりと王家の刻印がなされている。ユリウスがオリバーを、そして、コックス子爵夫人を睨み据えた。
「これがその改ざん前の名簿です。ここに、王女を攫う手引きをし、その後行方不明となった侍女の名前が書いてあります。……そうだろう、フィーヴィ・コックス子爵夫人!」
「違う! 違う! そんな、ちゃんと私は髪を黒くして……!あ……」
「そうよ!お義母さまは私のために悪役令嬢を排除しただけよ!」
「黙りなさい、ヘンリエッタ!」
悲鳴のような声が響く。狼狽して、うっかりと自白してしまって焦るコックス子爵夫人に対して、ヘンリエッタは堂々と、自分は悪くないのだと主張する。
「子爵令嬢には虚偽を教えていたようだな、子爵夫人」
「ちが、私はヒロインを幸せにしたくて……」
ヒロインとは何なのだろう。レインはわからない単語に眉をひそめた。悪役令嬢、そしてヒロイン。まるで巷で販売されている小説のようだった。まさか、ヘンリエッタはそう思い込んで生きて来たというのだろうか。自分が物語の主人公なのだと。
「その王女が本物である証拠はあるのか! 王女を包んでいたおくるみが証拠だなんて認めないからな!」
オリバーが吼える。ユリウスは氷のようなまなざしでユリウスを見やる。それにオリバーが委縮すると、静かに返した。
「証拠はここに。レイン。皆に、その顔を見せてやってはくれないか」
顔を見せる。それがどういう意味を持つのかわからない。
けれど、ここまでのユリウスの言葉に、レインはユリウスが自分に何をさせたいのかを理解していた。顔を曝すことは恐ろしいことだ。昔からそう、赤い、不吉な不気味な目。そう言い聞かされて育ってきた。
でも、レインはもう、あの頃のレインではない。兄が――ユリウスが顔を見せなさい、というなら、この顔を皆に見せることに恐怖などありはしなかった。
レインは頷く。
「はい、お兄様」
レインはまず、前髪を横に流した。そして、かけていた眼鏡をそっと外す。前を向く。
周囲から、ほう、とため息が漏れた。
――えっ、レイン様、あんな顔をしていたの。
――あんな美少女なんて聞いてない!
――そう言えば、レイン様はいつから顔を隠してた?
――知らないよ。だってレイン様を美人だとか悪くないって言ってたやつらは、みんな殿下ににらまれて退学していったじゃないか。
ざわめきが広がる中、オリバーが周囲を睨んで黙らせようとする。けれど始まった噂話は止まらない。
――オリバー様が扇動してたんだよ、きっと。
――自分の浮気をごまかそうとして?うわ、ひっでえ!
――じゃあ、レイン様がヘンリエッタさんを階段から落としたのも……。
ーーオリバー様がヘンリエッタさんに命じた自作自演……ってこと!?
オリバーへの不信の声が高まる中、オリバーが歯ぎしりをしながら、ヘンリエッタを突飛ばすようにして手放し、ユリウスに詰め寄った。
「まさかその顔が先代女王と似ているから、なんて言わせるなよ。似ているものなんて星の数ほどいるんだから」
「黙れ。……ベン、カーテンを」
「はい」
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
【完結】成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎