55 / 67
第八章
お披露目パーティー3
レインは予め頼んでおいたものを持ってきてもらうべく、会場の隅に控えていた女官長ノベルに声をかけた。
「女官長、例のものを」
「はい、イリスレイン王女殿下」
レインはベルから受け取った巨大な水晶のようなものを掲げた。
澄んだ、透明な石は、大広間のシャンデリアの光を透過して、イリスレインのドレスをきらきらと照らした。
「皆さま、これは陽光石、という、光を透かして、太陽の光と同じ光にするという石です」
「存じております、それで何を……」
「これで、私の目を透かして見てください。疑問に思う方は、お近くに……」
レインが陽光石に目を近づける。シャンデリアの光が陽光石を通り、レインの目に降り注ぐ。
――痛い。集められた光が目を焼いた。
ユリウスが驚いてレインを止めようとして、けれどその手をぐっと抑える。
信じてくれている。レインは微笑んだ。ユリウスが、レインのすることを信じてくれている。それだけで、レインはこの戦場に立つことができる。
陽光石を通して、レインの瞳の赤い色が大広間を染め上げる――そうして、誰かが呟いた。
「あ、暁の虹……!」
赤い色を背景にして、陽光石の表面に虹が落ちる。驚きの声が大広間を埋め尽くしたところで、レインは陽光石を降ろした。
ユリウスがすぐにハンカチでレインの目を押さえる。
「大丈夫です。ユリウスさ……ユリウス。目はきちんと見えています」
「無茶をする……。私がなんでもすると言ったのに」
「ふふ、それでも、信じてくださってありがとうございます」
暁の虹にざわめく会場に、レインは振り返った。
「ご覧になりましたか? 私の目に宿る、暁の虹を」
「……ッ。ばかな、目がつぶれるかもしれないんだぞ……」
「あなたも、ご覧になりましたね? エウルア伯爵」
レインは悠然と微笑んで見せた。うろたえたエウルア伯爵も、まさかレインが失明覚悟で陽光石を持ち出すとは思わなかったのだろう。何も言えないエウルア伯爵は、静かに礼をして「申し訳、ございません……」と下がっていった。
国王がレインを案じながら、けれど場を治めるには今しかない、ということはわかっているのだろう。その声を張り上げた。
「見ただろう! イリスレインが王女であるという証拠を! これより、イリスレインの出自を疑うものは王家への叛意を持つとみなし、厳罰に処す!」
国王の言葉に、場の誰もが口を閉ざし、頭を下げた。アンダーサン前公爵が微笑んでやり遂げた弟をねぎらっている。
「それでは、パーティーを開始する、みなのもの、よく食べ、よく踊り、よく楽しんでくれ」
国王は、王位を一時だけアンダーサン前公爵に譲渡することを説明すると、パーティーの開催を宣言した。譲位の話になったともざわついたが、レインの時ほどではなく、話は進んでいった。
そうして、国王の宣言と同時に、最初の曲が流れ始める。
レインはユリウスの袖をくん、と引いた。
「踊りましょう、ユリウス!」
「ああ、レイン。君の、望むままに」
飛び込んだ大広間の中心で、ユリウスと互いにお辞儀をする。
そうして手を取りあって、くるくると踊る。
レインの白いドレスに縫い付けられた小さな真珠がきらきらと輝き、結い上げげた髪のティアラと相まって、まるでレイン自体が宝石のようだった。
「レイン、目は大丈夫か」
ユリウスのリードは巧みで、その手に体をゆだねているだけで、自分が踊りの名手になったと思うほど。そうやってくるくると回ると、顔があったとき、ふいにユリウスに尋ねられた。
正直に言えば、まだ少しだけひりひりする。でも、あの時はあれが最善だと思ったから、ユリウスにも内緒で、陽光石を用意してくれたベルにも内緒でああしたのだ。
ユリウスの眉がいたましげに顰められ、ユリウスの指がそっとレインの目元を撫でる。
レインはそれだけで痛みが引いてしまって、それがおかしくてふふ、と笑った。
「レイン?」
「大丈夫です、ユリウス」
大きなターン。レインは華やかに笑って、ユリウスの腕に自分の身をゆだねた。
「あなたがそうして触れてくださるだけで、もうすっかり良くなりました」
目を瞬くユリウスを見上げると、ユリウスの目にやわらかな光がともった。
「そうか。……でも、無理はしないでおくれ、私のレイン」
「はい、私のユリウス……」
曲の最後、ユリウスが両手でレインを持ちあげ、くるくると回る。幸せそうに笑いあう二人に「世継ぎの心配はなさそうだな」なんて、貴族たちが笑っていたのを、レインたちは後で聞いた。
夜が深くなる。澄み切った夜の空に、星々が瞬いていた。
「女官長、例のものを」
「はい、イリスレイン王女殿下」
レインはベルから受け取った巨大な水晶のようなものを掲げた。
澄んだ、透明な石は、大広間のシャンデリアの光を透過して、イリスレインのドレスをきらきらと照らした。
「皆さま、これは陽光石、という、光を透かして、太陽の光と同じ光にするという石です」
「存じております、それで何を……」
「これで、私の目を透かして見てください。疑問に思う方は、お近くに……」
レインが陽光石に目を近づける。シャンデリアの光が陽光石を通り、レインの目に降り注ぐ。
――痛い。集められた光が目を焼いた。
ユリウスが驚いてレインを止めようとして、けれどその手をぐっと抑える。
信じてくれている。レインは微笑んだ。ユリウスが、レインのすることを信じてくれている。それだけで、レインはこの戦場に立つことができる。
陽光石を通して、レインの瞳の赤い色が大広間を染め上げる――そうして、誰かが呟いた。
「あ、暁の虹……!」
赤い色を背景にして、陽光石の表面に虹が落ちる。驚きの声が大広間を埋め尽くしたところで、レインは陽光石を降ろした。
ユリウスがすぐにハンカチでレインの目を押さえる。
「大丈夫です。ユリウスさ……ユリウス。目はきちんと見えています」
「無茶をする……。私がなんでもすると言ったのに」
「ふふ、それでも、信じてくださってありがとうございます」
暁の虹にざわめく会場に、レインは振り返った。
「ご覧になりましたか? 私の目に宿る、暁の虹を」
「……ッ。ばかな、目がつぶれるかもしれないんだぞ……」
「あなたも、ご覧になりましたね? エウルア伯爵」
レインは悠然と微笑んで見せた。うろたえたエウルア伯爵も、まさかレインが失明覚悟で陽光石を持ち出すとは思わなかったのだろう。何も言えないエウルア伯爵は、静かに礼をして「申し訳、ございません……」と下がっていった。
国王がレインを案じながら、けれど場を治めるには今しかない、ということはわかっているのだろう。その声を張り上げた。
「見ただろう! イリスレインが王女であるという証拠を! これより、イリスレインの出自を疑うものは王家への叛意を持つとみなし、厳罰に処す!」
国王の言葉に、場の誰もが口を閉ざし、頭を下げた。アンダーサン前公爵が微笑んでやり遂げた弟をねぎらっている。
「それでは、パーティーを開始する、みなのもの、よく食べ、よく踊り、よく楽しんでくれ」
国王は、王位を一時だけアンダーサン前公爵に譲渡することを説明すると、パーティーの開催を宣言した。譲位の話になったともざわついたが、レインの時ほどではなく、話は進んでいった。
そうして、国王の宣言と同時に、最初の曲が流れ始める。
レインはユリウスの袖をくん、と引いた。
「踊りましょう、ユリウス!」
「ああ、レイン。君の、望むままに」
飛び込んだ大広間の中心で、ユリウスと互いにお辞儀をする。
そうして手を取りあって、くるくると踊る。
レインの白いドレスに縫い付けられた小さな真珠がきらきらと輝き、結い上げげた髪のティアラと相まって、まるでレイン自体が宝石のようだった。
「レイン、目は大丈夫か」
ユリウスのリードは巧みで、その手に体をゆだねているだけで、自分が踊りの名手になったと思うほど。そうやってくるくると回ると、顔があったとき、ふいにユリウスに尋ねられた。
正直に言えば、まだ少しだけひりひりする。でも、あの時はあれが最善だと思ったから、ユリウスにも内緒で、陽光石を用意してくれたベルにも内緒でああしたのだ。
ユリウスの眉がいたましげに顰められ、ユリウスの指がそっとレインの目元を撫でる。
レインはそれだけで痛みが引いてしまって、それがおかしくてふふ、と笑った。
「レイン?」
「大丈夫です、ユリウス」
大きなターン。レインは華やかに笑って、ユリウスの腕に自分の身をゆだねた。
「あなたがそうして触れてくださるだけで、もうすっかり良くなりました」
目を瞬くユリウスを見上げると、ユリウスの目にやわらかな光がともった。
「そうか。……でも、無理はしないでおくれ、私のレイン」
「はい、私のユリウス……」
曲の最後、ユリウスが両手でレインを持ちあげ、くるくると回る。幸せそうに笑いあう二人に「世継ぎの心配はなさそうだな」なんて、貴族たちが笑っていたのを、レインたちは後で聞いた。
夜が深くなる。澄み切った夜の空に、星々が瞬いていた。
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
【完結】成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定