元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
64 / 67
第八章

逃亡2

「こいつらも役に立たないな。薬で正気を失わせてるって話だったが……ただ静かなだけじゃないか」

 言って、オリバーはもう一人の使用人も蹴り飛ばし、足蹴にした。それでも何も表情も変えない使用人を、つまらなそうに見る。

 レインは倒れ込む使用人の胸を確認した。大丈夫、生きている、上下している。

 ほっと息を吐いたレインは、静かに尋ねた。ヘンリエッタに目配せする。

「その人たちには、薬を飲ませたのですか」
「ああ。コックス子爵夫人は薬物に詳しくてな。おかしなことを言うやつだが、これをこれだけ飲ませれば何も感じなくなる、というのを教えてくれたよ。……ヘンリエッタを幸せにするため、と言えば、なんでもする、実に便利な人間だ」

 ヘンリエッタがカタカタと震えている。アレンは意味がわからなくても、おびえてまた泣いている。声を出さずに。
 そうか、そうやって、たくさんのひとの人生をめちゃくちゃにしたのか。

 レインだけでなく、この使用人たちの、そうして、ヘンリエッタの人生を、壊したのか。それを理解して、レインはぎゅっと手に力を込めた。

「……解毒法は、あるのですか」
「さあな、この書類にサインをすれば、教えてやってもいいぞ」
「……見せてください」

 レインの言葉に、オリバーは喜色を浮かべた。
 懐から取り出した紙をソファの前のテーブルに置き、レインの肩を掴み引きずって行く。
 そうしてレインの手に無理矢理に羽ペンを握らせ、インクをずいと押し出してきた。

 レインは書類にさっと目を通す。そこには想像通り、レインが王位継承権を放棄する、という内容が書かれていた。
 おとなしく書面に目を通すレインが抵抗するとは、もはや考えていないのだろう。
 オリバーがをぎらつかせてこちらを見てくる。

 その手がそわそわとレインの体から離れ――。

「――今よ!」

 レインはすべての体重をかけてオリバーに体当たりをした。
 ヘンリエッタが掲げた椅子が、突き飛ばされたオリバーに振り下ろされる。

 ガァン!と大きな音がして、オリバーはその場に崩れ落ちた。
 レインはアレンを抱きかかえたまま、叫ぶ。

「今のうちに!」
「――はい……!」

 ヘンリエッタを伴い、レインは部屋を出る。廊下に出て、走り出した後ろから「イリスレイン、貴様……!」という、怒り狂った声が聞こえてくる。

「ヘンリエッタ、出口は?」
「大階段を降りたところ……でも、だめ、見張りがたくさんいるはず……」

 背後から大きなものが転がるような音が響く。まだまっすぐに走れないだろうオリバーだが、追い付かれるのは時間の問題だ。

「では、立てこもれる場所は?」
「ええっと……」
「おねえたま、あっち! 誰もいないよ!」
「――! 主寝室! 中から鍵がかけられる!」

 ヘンリエッタが叫ぶ。レインは頷いて、ヘンリエッタの手を引いて駆け出した。
 カーテンの隙間から朝焼けの光が差し込んでいる。夜明けが、すぐそこまで来ていた。


感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎