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1章 隣人の鈴木君
08.麗しの君と悪魔食いの魔女
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部屋の床がミシミシと軋んだ音をたて、古代ギリシャ文字の様な文字が書かれた円、魔方陣のようなものが理子を中心に浮かび上がった。
「ええ!?」
魔方陣の文字が朱金の輝きを放ち、逃れようと魔方陣から飛び退いた。
魔法陣から伸びた朱金の光は、逃げようとする理子の足から全身に絡みついていく。
「ひっ!」
何処かへ引きずり込もうとする力を感じて、抵抗を試みた理子の視界は真っ白に染まった。
「きゃああああ!?」
見えるもの全てが真っ白に染まり、視界ゼロのまま理子は果てが見えない長いトンネルを落下していた。
何が起こったのか、トンネルの出口が何処へ通じているのか、全く分からない。
分かるのは魔方陣に吸い込まれる直前、一瞬だけ夢で見た黒いローブを纏った女の歓喜の笑い声がした事だった。
ぼよんっ!
「うぎゃっ」
長い穴は急に終わり、トランポリンのような弾力のある地面に落下して理子は呻き声を上げた。
強い光により失明したのかと思うほど、何も見えなかった視界もぼんやりと戻ってくる。
霞んだ視界が捉えたのは、自分が落下した白いシーツで整えられたトランポリン、いやベッド。
今は夜なのか周囲は薄暗く、青白い光が仄かに周りを照らしていた。
(ここは、どこなの? はうっ!?)
首を動かした理子はビシッと固まった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
(え、あ、この人は、誰?)
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗な男性は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元が色香を醸し出していた。
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらしてきて、理子は軽く頭を振る。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「あの、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに口角を上げた。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は驚きのあまり目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何故、魔王の部屋へ来たのか分からず、ポカンと口を開けた理子は思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げた。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、彼は器用に片眉を上げた。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
ベッドへ近付いた魔王は手を伸ばし、白くて長い指が固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか分からず、理子は困惑して魔王を見上げた。
(綺麗。だけど、魔王様の外見は人と変わらないわ)
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
「ゴジ、あっ」
言いかけた理子は、今の自分の姿を思い出して一気に頬に熱が集中する。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(魔王様の手、冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。
「ええ!?」
魔方陣の文字が朱金の輝きを放ち、逃れようと魔方陣から飛び退いた。
魔法陣から伸びた朱金の光は、逃げようとする理子の足から全身に絡みついていく。
「ひっ!」
何処かへ引きずり込もうとする力を感じて、抵抗を試みた理子の視界は真っ白に染まった。
「きゃああああ!?」
見えるもの全てが真っ白に染まり、視界ゼロのまま理子は果てが見えない長いトンネルを落下していた。
何が起こったのか、トンネルの出口が何処へ通じているのか、全く分からない。
分かるのは魔方陣に吸い込まれる直前、一瞬だけ夢で見た黒いローブを纏った女の歓喜の笑い声がした事だった。
ぼよんっ!
「うぎゃっ」
長い穴は急に終わり、トランポリンのような弾力のある地面に落下して理子は呻き声を上げた。
強い光により失明したのかと思うほど、何も見えなかった視界もぼんやりと戻ってくる。
霞んだ視界が捉えたのは、自分が落下した白いシーツで整えられたトランポリン、いやベッド。
今は夜なのか周囲は薄暗く、青白い光が仄かに周りを照らしていた。
(ここは、どこなの? はうっ!?)
首を動かした理子はビシッと固まった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
(え、あ、この人は、誰?)
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗な男性は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元が色香を醸し出していた。
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらしてきて、理子は軽く頭を振る。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「あの、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに口角を上げた。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は驚きのあまり目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何故、魔王の部屋へ来たのか分からず、ポカンと口を開けた理子は思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げた。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、彼は器用に片眉を上げた。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
ベッドへ近付いた魔王は手を伸ばし、白くて長い指が固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか分からず、理子は困惑して魔王を見上げた。
(綺麗。だけど、魔王様の外見は人と変わらないわ)
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
「ゴジ、あっ」
言いかけた理子は、今の自分の姿を思い出して一気に頬に熱が集中する。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(魔王様の手、冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。
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