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2章 魔王様は抱き枕を所望する
07.気まずい翌日
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枕元の目覚まし時計のアラームの音が響き渡る。
手を伸ばした理子は手探りで目覚まし時計を探し、繰り返されるアラームを停止させた。
(う……あれ、ここはどこ?)
寝ぼけ眼で、掴んだ目覚まし時計を見た理子はネグリジェの滑らかな肌触りに気付き、勢いよく目蓋を開いた。
「戻って来ている……」
肌触りの良いネグリジェと、肌と髪から仄かに香る薔薇の香りが、昨夜の出来事は夢ではないと突き付ける。
(昨日は、伊東先輩達と夕飯を食べに行って、山本さんと手を繋いで駅まで行って、帰宅した直後に喚ばれてお風呂に入れられて、魔王様と……)
昨夜の事を思い出していくうちに、理子の顔は青くなっていく。
「うわぁ~!」
頬に手を当てた理子は枕に顔を埋めた。
(私、魔王相手になんてことをしてしまったの!? 怒鳴りつけたのに、魔王様は許してくれたの? 所有物だから?)
あれだけ不敬な態度をとったのに、魔王は理子を元の世界に戻してくれた。抱き枕として気に入られていなければ、命は無かったかもしれない。
「どうして、魔王様はあんなことをしたの?」
手元のシーツを握り締める。
疲れ果てて眠ってしまう前、額へ触れた柔らかい感触は指では無く唇、だった。
額にキスされた上に涙を舐められた。
「不敬罪」と牢屋へ入れられなかったのは幸運だったとはいえ、涙を舐めた魔王の微笑みは何だったのか。
「怖かったのに……嫌じゃなかった」
怒った魔王から向けられた圧力は恐怖そのもので、彼は人とは違う恐ろしい存在だと再認識した。
抱き枕、所有物扱いの理子が、今後、魔王の機嫌を損ねたら監禁をされる可能性が高い。
恐ろしく堪らないのに、キスされて触れられるのは嫌では無かった。
(でも、これで彼氏は当分望めないわね)
冷たい瞳をした魔王から殺害、監禁宣言をされてしまっては気軽に男性とお付き合いは出来ない。
(所有物扱いを終わらせるには、私以外の抱き枕、魔王様にお嫁さんが出来れば解決するのではないの? 今夜、失礼な態度を謝って、婚活もお勧めしてみよう)
埋めていた枕から顔を上げて横向きになり、サイドテーブルの上に置いていたスマートフォンを手に取り、画面を表示させた。
スマートフォンの画面には、昨夜受信したメッセージの通知が表示される。
(香織? 夜中に連絡してくるなんて、何かあったのかな)
メッセージアプリを開くと、「明日、飲みに行こう」というメッセージと共に、涙を流すアニメキャラクターのスタンプが送られていた。
***
電車のガード下にある居酒屋は、三連休初日の夜ということもあり閑散としていた。
「ふーん、山本さんといい感じじゃない。なのに何で連絡先を交換しなかったの?」
向かいの席に座る理子から、伊東先輩主催の食事会のことを聞いた香織は目を細める。
「山本さんは良い人って分かっているけど、お付き合いするのはちょっと考えるかな」
もしも山本さんとの恋人関係になったら、昨夜、監禁宣言をしてくれた魔王に鎖とつけられて投獄される。
「色々あったから恋愛するのを迷っているの? それとも他に好きな人がいるの?」
「好きな人? よく、分からない」
香織の言葉で理子は動きを止めた。
好きな人と言われて脳裏に浮かんだのは、監禁宣言をしてくれた恐ろしい魔王だったからだ。
「気になる人がいるけど、相手がどう思っているのか分からないってところ?」
「うん。異性としてみられてない気がするし、恋愛関係にはなれそうにもないよ」
目を伏せて答えた理子の胸の奥がチクリと痛んだ。
「まー君ったらヒドイんだよ~突然、「入院した同僚の代わりに出張に行ってくる」なんて。キャンセル料もかかるのに、出張断ってよー」
酒が入り素面の時よりも饒舌になった香織は、理子を居酒屋に誘った理由である婚約者への愚痴を吐露する。
「それは仕方ないよ。入院した方の代理出張くらい許してあげなよ。キャンセル料が気になるのなら、ご両親と一緒に行けば?」
「母さんと行っても楽しくない。じゃあさ、理子は暇?」
冷酒の入ったコップをテーブルに置いた香織は、ずいっと上半身を乗り出した。
手を伸ばした理子は手探りで目覚まし時計を探し、繰り返されるアラームを停止させた。
(う……あれ、ここはどこ?)
寝ぼけ眼で、掴んだ目覚まし時計を見た理子はネグリジェの滑らかな肌触りに気付き、勢いよく目蓋を開いた。
「戻って来ている……」
肌触りの良いネグリジェと、肌と髪から仄かに香る薔薇の香りが、昨夜の出来事は夢ではないと突き付ける。
(昨日は、伊東先輩達と夕飯を食べに行って、山本さんと手を繋いで駅まで行って、帰宅した直後に喚ばれてお風呂に入れられて、魔王様と……)
昨夜の事を思い出していくうちに、理子の顔は青くなっていく。
「うわぁ~!」
頬に手を当てた理子は枕に顔を埋めた。
(私、魔王相手になんてことをしてしまったの!? 怒鳴りつけたのに、魔王様は許してくれたの? 所有物だから?)
あれだけ不敬な態度をとったのに、魔王は理子を元の世界に戻してくれた。抱き枕として気に入られていなければ、命は無かったかもしれない。
「どうして、魔王様はあんなことをしたの?」
手元のシーツを握り締める。
疲れ果てて眠ってしまう前、額へ触れた柔らかい感触は指では無く唇、だった。
額にキスされた上に涙を舐められた。
「不敬罪」と牢屋へ入れられなかったのは幸運だったとはいえ、涙を舐めた魔王の微笑みは何だったのか。
「怖かったのに……嫌じゃなかった」
怒った魔王から向けられた圧力は恐怖そのもので、彼は人とは違う恐ろしい存在だと再認識した。
抱き枕、所有物扱いの理子が、今後、魔王の機嫌を損ねたら監禁をされる可能性が高い。
恐ろしく堪らないのに、キスされて触れられるのは嫌では無かった。
(でも、これで彼氏は当分望めないわね)
冷たい瞳をした魔王から殺害、監禁宣言をされてしまっては気軽に男性とお付き合いは出来ない。
(所有物扱いを終わらせるには、私以外の抱き枕、魔王様にお嫁さんが出来れば解決するのではないの? 今夜、失礼な態度を謝って、婚活もお勧めしてみよう)
埋めていた枕から顔を上げて横向きになり、サイドテーブルの上に置いていたスマートフォンを手に取り、画面を表示させた。
スマートフォンの画面には、昨夜受信したメッセージの通知が表示される。
(香織? 夜中に連絡してくるなんて、何かあったのかな)
メッセージアプリを開くと、「明日、飲みに行こう」というメッセージと共に、涙を流すアニメキャラクターのスタンプが送られていた。
***
電車のガード下にある居酒屋は、三連休初日の夜ということもあり閑散としていた。
「ふーん、山本さんといい感じじゃない。なのに何で連絡先を交換しなかったの?」
向かいの席に座る理子から、伊東先輩主催の食事会のことを聞いた香織は目を細める。
「山本さんは良い人って分かっているけど、お付き合いするのはちょっと考えるかな」
もしも山本さんとの恋人関係になったら、昨夜、監禁宣言をしてくれた魔王に鎖とつけられて投獄される。
「色々あったから恋愛するのを迷っているの? それとも他に好きな人がいるの?」
「好きな人? よく、分からない」
香織の言葉で理子は動きを止めた。
好きな人と言われて脳裏に浮かんだのは、監禁宣言をしてくれた恐ろしい魔王だったからだ。
「気になる人がいるけど、相手がどう思っているのか分からないってところ?」
「うん。異性としてみられてない気がするし、恋愛関係にはなれそうにもないよ」
目を伏せて答えた理子の胸の奥がチクリと痛んだ。
「まー君ったらヒドイんだよ~突然、「入院した同僚の代わりに出張に行ってくる」なんて。キャンセル料もかかるのに、出張断ってよー」
酒が入り素面の時よりも饒舌になった香織は、理子を居酒屋に誘った理由である婚約者への愚痴を吐露する。
「それは仕方ないよ。入院した方の代理出張くらい許してあげなよ。キャンセル料が気になるのなら、ご両親と一緒に行けば?」
「母さんと行っても楽しくない。じゃあさ、理子は暇?」
冷酒の入ったコップをテーブルに置いた香織は、ずいっと上半身を乗り出した。
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