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2章 魔王様は抱き枕を所望する
抱き枕からランクアップする②
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魔法陣を展開して転移する魔王を見送った後、理子はメイドに隣室へと案内された。
案内された部屋は、化粧品一式が乗ったドレッサーと椅子一脚とソファー、丸テーブルが置かれていた。メイドは理子に椅子へ座るよう促す。
「お待たせしました」
理子が椅子に座るのと同時に、もう一人のメイドがドレスと下着がかかったハンガーラックを持ってやって来る。
「御髪を整えます」
「こちらにお召替えください」
二人のメイドの手によって、寝癖の付いた髪を整えられて化粧を施された。
彼女達の動きの俊敏さに目を白黒してさせているうちに、寝間着を脱がされてドレスに着替えさせられて……我に返った理子は鏡に映る自分の姿に溜息を吐いた。
(私じゃないみたい。まるで物語のお姫様みたい)
薄ピンク色のドレスと化粧によって、自分とは思えない清楚な令嬢が鏡に映っていた。
「お食事の準備をいたします」
慣れないドレスを着てぎこちない動きになっている理子をソファーに座らせて、メイド達はドレッサーを部屋の隅に移動させテーブルを置く。
小柄で細い体型のどこにそんな力があるのかと、思いながら理子はメイド達の動きを見守る。
「お待たせいたしました。お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
準備を終わらせたメイドの手を借りて立ち上がり、白色のテーブルクロスがかけられたテーブルまで歩いた。
メイドが引いてくれた椅子に着席したタイミングで部屋の扉が開く。
「失礼します」
一礼して入室したのはワゴンを押した給仕係のメイドだった。
給仕係のメイドはテーブルの上にナイフとファーク、ティーカップを並べ食事の準備を始める。
本格的なコース料理をほとんど食べたことがない理子でも分かる、最高級の食材を使い見た目も凝った品が運ばれてきた。
前菜とスープ、魚介のメイン料理、口直しのソルベ、肉類のメイン料理、デザートの甘いケーキと順番に出される全ての料理が美味しくて、残さず食べていた理子の胃は満腹を通り越して限界寸前になった。
(美味しいけど、苦しい……コルセットがこんなにきついなんて。早く脱ぎたい)
給仕係のメイドが淹れてくれた食後のハーブティーの爽やかな後味が、コルセットに圧迫される胃腸を少しだけ癒してくれた。
「凄く美味しかったです。ありがとうございます」
にこりっと給仕係のメイドに笑いかければ、彼女は目を大きく開き頬を赤く染めた。
「私達ごときに勿体無い御言葉でございます」
「私達こそ、魔王様の寵姫様にお仕えできるなど……誠、身に過ぎた光栄な事でございます」
うっとりとした表情で言うメイド達に、理子は目を瞬かせる。
「ちょうき?」
聞きなれない言葉の意味はすぐに浮かんで来ず、首を傾げた。
(ちょうき、とはどういうこと?)
数種類の意味が浮かんだ末、今の状況に一番近い意味に巡りついた理子の背中に冷や汗が流れ落ちていく。
「私がちょうきとは、どういう事ですか?」
まさかそうではないという、淡い期待をこめて恐る恐るメイド達に訊ねる。
「長らく城勤めをしていますが、魔王様から女性の世話を命じられたのは初めてでございます」
「貴女様は、魔王様の魔力をその身に与えられている上に所有、寵愛の印まで授かっていらっしゃいます」
「寵愛の印?」
瞳を輝かせるメイド達の視線が眩しくて、理子は引きつった笑顔のまま硬直する。
(寵愛なんて誤解だわ。魔王様にとって私は寵姫ではなく、安眠用の抱き枕なのよ)
どうやら知らぬ間に抱き枕からランクアップしたらしい。
物から人のカテゴリーに入ったのは喜ばしいが、寵姫とはどういうことかと考えすぎて、理子は痛み出したこめかみに手を当てた。
案内された部屋は、化粧品一式が乗ったドレッサーと椅子一脚とソファー、丸テーブルが置かれていた。メイドは理子に椅子へ座るよう促す。
「お待たせしました」
理子が椅子に座るのと同時に、もう一人のメイドがドレスと下着がかかったハンガーラックを持ってやって来る。
「御髪を整えます」
「こちらにお召替えください」
二人のメイドの手によって、寝癖の付いた髪を整えられて化粧を施された。
彼女達の動きの俊敏さに目を白黒してさせているうちに、寝間着を脱がされてドレスに着替えさせられて……我に返った理子は鏡に映る自分の姿に溜息を吐いた。
(私じゃないみたい。まるで物語のお姫様みたい)
薄ピンク色のドレスと化粧によって、自分とは思えない清楚な令嬢が鏡に映っていた。
「お食事の準備をいたします」
慣れないドレスを着てぎこちない動きになっている理子をソファーに座らせて、メイド達はドレッサーを部屋の隅に移動させテーブルを置く。
小柄で細い体型のどこにそんな力があるのかと、思いながら理子はメイド達の動きを見守る。
「お待たせいたしました。お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
準備を終わらせたメイドの手を借りて立ち上がり、白色のテーブルクロスがかけられたテーブルまで歩いた。
メイドが引いてくれた椅子に着席したタイミングで部屋の扉が開く。
「失礼します」
一礼して入室したのはワゴンを押した給仕係のメイドだった。
給仕係のメイドはテーブルの上にナイフとファーク、ティーカップを並べ食事の準備を始める。
本格的なコース料理をほとんど食べたことがない理子でも分かる、最高級の食材を使い見た目も凝った品が運ばれてきた。
前菜とスープ、魚介のメイン料理、口直しのソルベ、肉類のメイン料理、デザートの甘いケーキと順番に出される全ての料理が美味しくて、残さず食べていた理子の胃は満腹を通り越して限界寸前になった。
(美味しいけど、苦しい……コルセットがこんなにきついなんて。早く脱ぎたい)
給仕係のメイドが淹れてくれた食後のハーブティーの爽やかな後味が、コルセットに圧迫される胃腸を少しだけ癒してくれた。
「凄く美味しかったです。ありがとうございます」
にこりっと給仕係のメイドに笑いかければ、彼女は目を大きく開き頬を赤く染めた。
「私達ごときに勿体無い御言葉でございます」
「私達こそ、魔王様の寵姫様にお仕えできるなど……誠、身に過ぎた光栄な事でございます」
うっとりとした表情で言うメイド達に、理子は目を瞬かせる。
「ちょうき?」
聞きなれない言葉の意味はすぐに浮かんで来ず、首を傾げた。
(ちょうき、とはどういうこと?)
数種類の意味が浮かんだ末、今の状況に一番近い意味に巡りついた理子の背中に冷や汗が流れ落ちていく。
「私がちょうきとは、どういう事ですか?」
まさかそうではないという、淡い期待をこめて恐る恐るメイド達に訊ねる。
「長らく城勤めをしていますが、魔王様から女性の世話を命じられたのは初めてでございます」
「貴女様は、魔王様の魔力をその身に与えられている上に所有、寵愛の印まで授かっていらっしゃいます」
「寵愛の印?」
瞳を輝かせるメイド達の視線が眩しくて、理子は引きつった笑顔のまま硬直する。
(寵愛なんて誤解だわ。魔王様にとって私は寵姫ではなく、安眠用の抱き枕なのよ)
どうやら知らぬ間に抱き枕からランクアップしたらしい。
物から人のカテゴリーに入ったのは喜ばしいが、寵姫とはどういうことかと考えすぎて、理子は痛み出したこめかみに手を当てた。
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