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3章 私と魔王様のお盆休み
異世界の滞在一日目の朝②
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お盆休み一日目。
魔王シルヴァリスに抱き潰されそうになった後、どうにか上半身を起こすことに成功した。
トントントントン。
「入れ」
「失礼いたしました」
ベッドに横になったままのシルヴァリスが入室許可を出し、エプロンドレスを着たメイド二人を従えた琥珀色の髪を一まとめにした、見た目は四十代前半くらいの女性が入室した。
「あっ」
慌ててベッドから這って降りようとした理子の手首をシルヴァリスが掴む。
上半身を起こしたシルヴァリスに手首を引っ張られて、抵抗する間もなく理子は彼の胸の中に落ちた。
「ちょっ、離れてください」
「駄目だ」
「魔王様」
ベッドの手前まで表情を変えずに進み出た女性は、恭しく頭を下げてシルヴァリスに厳しい視線を向ける。
「御戯れはお止めください。寵姫様、わたくしは侍女長を任されましたマクリーンと申します。御召し替えをいたしましょう。お部屋まで御案内いたします」
「侍女長?」
魔王ではなく自分へ向けて頭を下げているのか分からず、理子は困惑してマクリーンと彼女の後ろに立つメイド達を見る。
「後は任せる」
「かしこまりました」
魔王の顔に戻ったシルヴァリスに命じられ、マクリーンとメイド達は頭を下げた。
状況理解が追い付いていないまま、理子はマクリーンに先導されて隣室へ向かった。
「わぁ……」
以前、この部屋へ入った時とは室内の様子は様変わりしていて、思わず理子は感嘆の声を漏らす。
小花柄の壁紙、艶を押さえた銀の装飾が可愛らしいチェスト、淡いピンク色のヴェールが重ねられた天蓋付きのベッドが置かれていた。
「可愛いお部屋ですね。でも何故、魔王様の隣なんですか?」
滞在する部屋は特に拘らないし、魔王に任せると言ったのは自分だ。
用意してもらった部屋の内装や、魔王の寝室の隣の位置なのはどういうことだろうか。
「こちらは、魔王様の伴侶となられる正妃様の部屋でございます」
「伴侶? 正妃様の、部屋?」
マクリーンの答えを聞き、理子の頭の中から音をたてて血の気が引いていく。
「正妃様? ならば、わ、私が使うのは駄目ですよ」
周囲から魔王の寵姫と思われていても、正妃様の部屋を使えるほど理子は身の程知らずではない。
「いいえ、駄目な事はありません。魔王様が寵姫様であるリコ様のためにと、この部屋を整えられたのです」
「魔王様が私のために……」
両手のひらを、ぎゅっと握り締める。嬉しい反面、寝るときに近くに置いていた方がいいからじゃないのかと、尖った考えが浮かぶ。
「その通りでございます」
「寵姫様は魔王様の大事な御方ですから」
扉の前に控えていたメイド二人が揃って口を開く。
その声に聞き覚えがあり、理子は初めて彼女達の顔をじっくりと見た。
「貴女方は、この前のメイドさん達ですか?」
「「はい」」
頬を赤く染めたメイド達は、揃って頭を下げる。
「今日から寵姫様の身の回りのお世話を致します者達でございます。何なりと用をお申し付けください。貴女たち、ご挨拶をしなさい」
マクリーン侍女長が指示をだすと、二人は理子の前へ進み恭しく頭を下げた。
「エルザでございます」
「ルーアンと申します」
栗色の前髪を真っ直ぐ切り揃っている方がエルザ、茶髪の前髪を上げて少し吊り目のメイドがルーアンと名乗った。
「皆さん、どうぞよろしくお願いします」
魔王の前でも、表情を変えなかったマクリーンは理子が頭を下げたことに驚き、目と口を大きく開いた。
寝間着から用意されたドレスへ着替えた理子を見て、シルヴァリスは満足気に目を細めた。
「見違えたな」
「侍女さん達のおかげです」
黒い詰襟の軍服に似た服に着替え、髪を後ろへ撫で付けたシルヴァリスの視線に耐えきれず、理子は横を向いた。
着替えと化粧をしてもらった時に、エルザとルーアンから理子のために用意されていたベビーピンク地に裾と胸元に濃いマゼンタ色の刺繍がされた、シンプルで可愛いドレスはシルヴァリス自ら手配したと教えてもらい、嬉しさで胸が高鳴った。
だがこのドレス以外にも、十着以上のドレスが用意されていると聞かされて、ときめきはしぼんでいく。
(大袈裟にしてほしくはないほしいのに……)
目眩がしてきて、理子は片手で顔を覆った。
魔王シルヴァリスに抱き潰されそうになった後、どうにか上半身を起こすことに成功した。
トントントントン。
「入れ」
「失礼いたしました」
ベッドに横になったままのシルヴァリスが入室許可を出し、エプロンドレスを着たメイド二人を従えた琥珀色の髪を一まとめにした、見た目は四十代前半くらいの女性が入室した。
「あっ」
慌ててベッドから這って降りようとした理子の手首をシルヴァリスが掴む。
上半身を起こしたシルヴァリスに手首を引っ張られて、抵抗する間もなく理子は彼の胸の中に落ちた。
「ちょっ、離れてください」
「駄目だ」
「魔王様」
ベッドの手前まで表情を変えずに進み出た女性は、恭しく頭を下げてシルヴァリスに厳しい視線を向ける。
「御戯れはお止めください。寵姫様、わたくしは侍女長を任されましたマクリーンと申します。御召し替えをいたしましょう。お部屋まで御案内いたします」
「侍女長?」
魔王ではなく自分へ向けて頭を下げているのか分からず、理子は困惑してマクリーンと彼女の後ろに立つメイド達を見る。
「後は任せる」
「かしこまりました」
魔王の顔に戻ったシルヴァリスに命じられ、マクリーンとメイド達は頭を下げた。
状況理解が追い付いていないまま、理子はマクリーンに先導されて隣室へ向かった。
「わぁ……」
以前、この部屋へ入った時とは室内の様子は様変わりしていて、思わず理子は感嘆の声を漏らす。
小花柄の壁紙、艶を押さえた銀の装飾が可愛らしいチェスト、淡いピンク色のヴェールが重ねられた天蓋付きのベッドが置かれていた。
「可愛いお部屋ですね。でも何故、魔王様の隣なんですか?」
滞在する部屋は特に拘らないし、魔王に任せると言ったのは自分だ。
用意してもらった部屋の内装や、魔王の寝室の隣の位置なのはどういうことだろうか。
「こちらは、魔王様の伴侶となられる正妃様の部屋でございます」
「伴侶? 正妃様の、部屋?」
マクリーンの答えを聞き、理子の頭の中から音をたてて血の気が引いていく。
「正妃様? ならば、わ、私が使うのは駄目ですよ」
周囲から魔王の寵姫と思われていても、正妃様の部屋を使えるほど理子は身の程知らずではない。
「いいえ、駄目な事はありません。魔王様が寵姫様であるリコ様のためにと、この部屋を整えられたのです」
「魔王様が私のために……」
両手のひらを、ぎゅっと握り締める。嬉しい反面、寝るときに近くに置いていた方がいいからじゃないのかと、尖った考えが浮かぶ。
「その通りでございます」
「寵姫様は魔王様の大事な御方ですから」
扉の前に控えていたメイド二人が揃って口を開く。
その声に聞き覚えがあり、理子は初めて彼女達の顔をじっくりと見た。
「貴女方は、この前のメイドさん達ですか?」
「「はい」」
頬を赤く染めたメイド達は、揃って頭を下げる。
「今日から寵姫様の身の回りのお世話を致します者達でございます。何なりと用をお申し付けください。貴女たち、ご挨拶をしなさい」
マクリーン侍女長が指示をだすと、二人は理子の前へ進み恭しく頭を下げた。
「エルザでございます」
「ルーアンと申します」
栗色の前髪を真っ直ぐ切り揃っている方がエルザ、茶髪の前髪を上げて少し吊り目のメイドがルーアンと名乗った。
「皆さん、どうぞよろしくお願いします」
魔王の前でも、表情を変えなかったマクリーンは理子が頭を下げたことに驚き、目と口を大きく開いた。
寝間着から用意されたドレスへ着替えた理子を見て、シルヴァリスは満足気に目を細めた。
「見違えたな」
「侍女さん達のおかげです」
黒い詰襟の軍服に似た服に着替え、髪を後ろへ撫で付けたシルヴァリスの視線に耐えきれず、理子は横を向いた。
着替えと化粧をしてもらった時に、エルザとルーアンから理子のために用意されていたベビーピンク地に裾と胸元に濃いマゼンタ色の刺繍がされた、シンプルで可愛いドレスはシルヴァリス自ら手配したと教えてもらい、嬉しさで胸が高鳴った。
だがこのドレス以外にも、十着以上のドレスが用意されていると聞かされて、ときめきはしぼんでいく。
(大袈裟にしてほしくはないほしいのに……)
目眩がしてきて、理子は片手で顔を覆った。
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