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3章 私と魔王様のお盆休み
ベタな展開に、ここが異世界だと実感する②
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急に高くなった視界と肩に担がれたことに驚き、悲鳴を上げて理子は男性の腕にしがみ付く。
「なん、なんで、あっ!」
担がれたことで捲り上がったスカートの裾に気付き、理子は慌ててスカートを押さえた。
(男の人に担がれるなんて初めてだし、これどうしよう。シルヴァリス様に知られたら……この人に迷惑がかかるわ)
助けてくれた男性とはいえ、異性に触られたと魔王が知ったら彼に何かしそうだし、理子自身も“お仕置き”されて監禁されるかもしれない。
「自分で歩きます。下ろしてください」
「いいって。歩けないだろ? とりあえずここから離れるぞ。あー、俺はウォルトだ。仲間と旅をしている冒険者ってやつだ」
冷や汗を流す理子の気持ちを知らず、ウォルトと名乗った男性は大股で大通りを通り過ぎて、小さな公園のベンチへ理子を下ろす。
ウォルトが腰に挿している大剣がベンチに当たって、ガチャンと音を立てた。
「ありがとうございました。私は、リコ・ヤマダといいます。この町には観光目的で来たのですが、宿を探していたら迷ってしまって」
「それで、あいつらに絡まれたって訳か」
ドカリと音を立てて、ウォルトは理子の横へ腰かける。
「この辺りは他に比べて治安はいいとはいえ、女の子の一人旅は危ない。リコは弱そうだし、旅も慣れていなさそうだから、護衛を雇った方がいい。宿を探しているなら、俺が仲間と泊まっている所を案内するよ」
ウォルトの口ぶりから、本当に理子を心配してくれているのが伝わってくる。
(女の子って、私を何歳だと思っているのかしら? 着替えた時に化粧を落としたから、幼く見えているのかな? それに、これからどうしよう。シルヴァリス様なら私を見つけてくれると思うけど、このままお城に戻る?)
茜色に染まりつつある空を見て、理子は元の世界に比べて空が広く感じて息を吐く。
魔国の城へ戻らずこの町の散策を続けるのなら、ウォルトの厚意に甘えさせてもらうのがベストな選択なのだろうか。
「ウォルトさん、宿までの案内をよろしくお願いします」
隣に座るウォルトの方に体を向けて、理子は深々と頭を下げた。
「ここが、俺達が泊っている宿だ」
ベンチに座って理子が歩けるようになるまで休憩してから、ウォルトに案内してもらったのは大通りから一歩外れた場所に建つ、石造りの壁と赤色の屋根の規模の大きい建物だった。
この宿屋は、一階が食堂になっていて、二階が宿泊施設という造りの大衆向けの宿で、夕暮れ時ということもあり宿泊客と食事目当ての客で賑っていた。
「ファンタジーだわ」
建物の外観だけで感激した理子は目を輝かした。
「いらっしゃいませ」
「女の子が泊れる部屋は空いているか?」
宿の中へ入り、出迎えた老夫婦にウォルトが話かける。
宿屋の受付ロビーに隣接する食堂からは、美味しそうな匂いと夕食を食べている人々の楽しそうな声が聞こえて、匂いにつられて理子は食堂を覗き込む。
この世界では、静かな食堂で給仕係に世話される食事をしていたから、賑やかな場所に来れたのが嬉しく感じる。
「リコ、部屋は空いているそうだ。それと、食堂で飯を食べるのが苦手なら、部屋に持って行けるぞ。まずは、手続きをしてくれ」
「あ、はい」
宿屋の宿泊者名簿へ、先日習ったばかりの文字を思い出して氏名の記入をする。
魔王の力なのか、この世界の文字を読むことが出来ても書くのは難しくて、根気よく文字を教えてくれたマクリーンに感謝した。
「本当にリコはこういった宿には泊まった事が無いんだな。実はどこかのお嬢様で、家出して来たとかか?」
「まぁ、そんなところです」
首を傾げるウォルトに曖昧な笑みを返して誤魔化した。
部屋の鍵を受け取り、宿泊用の部屋ある二階へ移動しようとしたウォルトが足を止めて階段を見上げる。
ウォルトの視線の先には、階段を駆け下りて来る朱色の髪を高い位置でツインテールにした女の子がいた。
「ちょっとウォルト! どこに行っていたのよ!」
階段を駆け下りて来た少女は、ウォルトの前まで来ると茶色の大きな瞳を吊り上げた。
「なん、なんで、あっ!」
担がれたことで捲り上がったスカートの裾に気付き、理子は慌ててスカートを押さえた。
(男の人に担がれるなんて初めてだし、これどうしよう。シルヴァリス様に知られたら……この人に迷惑がかかるわ)
助けてくれた男性とはいえ、異性に触られたと魔王が知ったら彼に何かしそうだし、理子自身も“お仕置き”されて監禁されるかもしれない。
「自分で歩きます。下ろしてください」
「いいって。歩けないだろ? とりあえずここから離れるぞ。あー、俺はウォルトだ。仲間と旅をしている冒険者ってやつだ」
冷や汗を流す理子の気持ちを知らず、ウォルトと名乗った男性は大股で大通りを通り過ぎて、小さな公園のベンチへ理子を下ろす。
ウォルトが腰に挿している大剣がベンチに当たって、ガチャンと音を立てた。
「ありがとうございました。私は、リコ・ヤマダといいます。この町には観光目的で来たのですが、宿を探していたら迷ってしまって」
「それで、あいつらに絡まれたって訳か」
ドカリと音を立てて、ウォルトは理子の横へ腰かける。
「この辺りは他に比べて治安はいいとはいえ、女の子の一人旅は危ない。リコは弱そうだし、旅も慣れていなさそうだから、護衛を雇った方がいい。宿を探しているなら、俺が仲間と泊まっている所を案内するよ」
ウォルトの口ぶりから、本当に理子を心配してくれているのが伝わってくる。
(女の子って、私を何歳だと思っているのかしら? 着替えた時に化粧を落としたから、幼く見えているのかな? それに、これからどうしよう。シルヴァリス様なら私を見つけてくれると思うけど、このままお城に戻る?)
茜色に染まりつつある空を見て、理子は元の世界に比べて空が広く感じて息を吐く。
魔国の城へ戻らずこの町の散策を続けるのなら、ウォルトの厚意に甘えさせてもらうのがベストな選択なのだろうか。
「ウォルトさん、宿までの案内をよろしくお願いします」
隣に座るウォルトの方に体を向けて、理子は深々と頭を下げた。
「ここが、俺達が泊っている宿だ」
ベンチに座って理子が歩けるようになるまで休憩してから、ウォルトに案内してもらったのは大通りから一歩外れた場所に建つ、石造りの壁と赤色の屋根の規模の大きい建物だった。
この宿屋は、一階が食堂になっていて、二階が宿泊施設という造りの大衆向けの宿で、夕暮れ時ということもあり宿泊客と食事目当ての客で賑っていた。
「ファンタジーだわ」
建物の外観だけで感激した理子は目を輝かした。
「いらっしゃいませ」
「女の子が泊れる部屋は空いているか?」
宿の中へ入り、出迎えた老夫婦にウォルトが話かける。
宿屋の受付ロビーに隣接する食堂からは、美味しそうな匂いと夕食を食べている人々の楽しそうな声が聞こえて、匂いにつられて理子は食堂を覗き込む。
この世界では、静かな食堂で給仕係に世話される食事をしていたから、賑やかな場所に来れたのが嬉しく感じる。
「リコ、部屋は空いているそうだ。それと、食堂で飯を食べるのが苦手なら、部屋に持って行けるぞ。まずは、手続きをしてくれ」
「あ、はい」
宿屋の宿泊者名簿へ、先日習ったばかりの文字を思い出して氏名の記入をする。
魔王の力なのか、この世界の文字を読むことが出来ても書くのは難しくて、根気よく文字を教えてくれたマクリーンに感謝した。
「本当にリコはこういった宿には泊まった事が無いんだな。実はどこかのお嬢様で、家出して来たとかか?」
「まぁ、そんなところです」
首を傾げるウォルトに曖昧な笑みを返して誤魔化した。
部屋の鍵を受け取り、宿泊用の部屋ある二階へ移動しようとしたウォルトが足を止めて階段を見上げる。
ウォルトの視線の先には、階段を駆け下りて来る朱色の髪を高い位置でツインテールにした女の子がいた。
「ちょっとウォルト! どこに行っていたのよ!」
階段を駆け下りて来た少女は、ウォルトの前まで来ると茶色の大きな瞳を吊り上げた。
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