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3章 私と魔王様のお盆休み

10.古代の遺跡

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 港町ヘルデルが出来る前から、この地に在った古代の遺跡。
 遺跡の場所は、地図には町の端と書かれていてもかなり離れた場所の丘の上に在り、魔物も出現するため多くの観光客は乗合馬車で向かうという。

 朝食後、身支度を整えた理子は、領主からの依頼で遺跡を調査しに行くというテオドール達と一緒に、乗り合い馬車で向かうことにした。
 乗り合い馬車には理子達を含めて十五人の観光客が乗り込み、出発時間から五分遅れてゆっくりと走り出す。

 元の世界で乗った観光用の馬車とは違い、座席もクッションも無い幌付きの荷台に座では、煉瓦で舗装された道を走る振動は大きくて乗り心地は良くない。振動を気を紛らわすために、理子は幌の隙間から見える海沿いの景色を眺めた。

(どこの世界でも若い女性は華やかね。それに、イケメンを気にするのも一緒なのね)

 向かいに座る旅装束の若い四人の女性達は、楽しそうに談笑しながら時折テオドールを見ていた。
 当のテオドールは、彼女達の視線に興味を示していないようで、紙の束を手にしたウォルトとこの後のことを確認をしていた。

「エミリアちゃん」

 小声で理子は隣に座るエミリアに耳打ちする。

「さっきから、あちらの女性達はテオドールさんばかり見ているよね」
「ああ、いつもの事ことよ。リコもテオドールに惚れたの?」
「惚れたって、美形な方とは思ったよ。でも、美形な方は鑑賞するだけでいいかな。テオドールさん、気品があるし王子様みたいね」

 さらさらの金髪に青い瞳、長身でスタイルの良い男性が近くにいたら、若い女性なら注目するだろう。
 人外美貌の、色気の塊みたいな魔王のおかげで美形耐性が付いてなければ、理子もテオドールのことが気になっていたはずだ。

「テオドールに興味を持たないなんて、やっぱりリコはちょっと変わっているわ」

 つまらなさそうな口振りなのに、エミリアの表情はどこか楽しそうだった。


 三十分ほど走り、乗り合い馬車は小高い丘の上に建つ白亜の神殿に到着した。
 元の世界でいう、古代ギリシャの神殿に似た白い石造りの神殿は観光客向けにきちんと整備され、観光客が馬車から下りるとガイド役の男性が近寄って来る。


「一緒に行かないんですか?」

 ガイドに先導されて遺跡の中へ入ると、観光客とは逆の方向へテオドール達は向かおうとする。

「ああ。俺達は地下へ潜る。この遺跡には、観光じゃなくて調査に来たからな」

 ウォルトが指差す方向は進入禁止の柵が置かれており、観光客が入れないようになっていた。
 この柵の奥に地下への階段があるのだろう。

「馬車が町へ戻る時間には間に合わないだろうから、君は俺達を待たずに先に帰ってくれ」

 腰に挿した剣の柄に触れ、優しげな青年の顔をしていたテオドールの表情が、引き締まった戦士の顔へと変わる。

「リコ、自警団がいるとはいえ、人気の無い場所には近寄るなよ。あと、立ち入り禁止区域には近寄るなよ。魔物が出るからな」
「ウォルトあんたいつからリコの父親になったの? さっさと仕事を終わらしてくるから、リコは観光を楽しんでね」

 背負っていた杖を右手で持ち、少女から魔術師の顔となったエミリアは自信満々に胸を張った。


 ***


 神殿を警備する兵に領主からの依頼書を見せて、地下へ続く階段を降りれば上とは雰囲気がガラリと変わった。
 苔の生えた石壁と地面は剥き出しの土という、カビ臭いダンジョンとなっていた。
 ほとんど光源がないため、エミリアが魔法の明かりを灯す。
 魔法の明かりは便利だが、魔物に此方の居場所を知らせてしまう欠点がある。

 侵入者を警戒してダンジョン内の空気がざわめくのを感じ、テオドールはすぐに対応出来るようにと腰に差した剣の柄に手を当てた。
 ふと、先を行くウォルトの歩く速度が速い事に気付く。
 見た目に反して慎重に行動するウォルトが、急ごうとするとは珍しい。

「ウォルト、リコが気になるか?」
「あ、いや……俺達が動いたのがきっかけで、上で何かあったら危ないだろ? 所有印をつけたっていう魔族が乗り込んで来るかもしれないし」

 テオドールに指摘されて、自分が理子のことを気にしているのに気付いて、ウォルトは動揺して答える。

「ウォルトがそこまで気にするなんて珍しいな。確かに、魔族が来たら面倒だな。ただ、リコから感じた魔力……どこかで感じたことがある気がする。でもあれは、もっと禍々しい……」

 違和感を覚えて眉を寄せたテオドールは首を傾げた。



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