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3章 私と魔王様のお盆休み

  貴方はいつも絶妙なタイミングで②

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「「魔王!?」」

 数秒後、テオドールの言葉の意味を理解したウォルトとエミリアの声が重なって響いた。
 驚く三人からの視線を感じ、反射的に理子はシルヴァリスの胸元の顔を埋める。

「我の寵姫を迎えに来ただけだ」
「えっ?」
「はぁ?」
「寵姫?」

 さらりと言ったシルヴァリスの発言に、三人は驚きの声を漏らす。

(失礼、ではないわね。何の取り柄もない私が魔王の寵姫だなんて、自分でも信じられないもの。それと、恥ずかしいから寵姫だなんて言わないでほしい)

 少しの抗議の気持ちを込めて、顔を埋めたシルヴァリスの胸元に涙を擦り付けてやれば、上から呆れたような苦笑いの音が聞こえた。

「それで、貴公こそ何故ここにいるのだ。アネイル国第三王子、テオドール殿」

 ハッと息を飲んだテオドールの顔色が変わる。

(ええっ?)

 王子様みたいだと思っていたテオドールが、本物の王子様だったとは。驚いた理子は、埋めていたシルヴァリスの胸から顔を上げた。

「貴公に会ったのは、五年ほど前の連合国との会合の場だったか。アネイル国王が期待するほど聡明なテオドール王子は、王位継承権争いを嫌がり三年前に国から出奔したと聞いていた。気楽に冒険者などやっていてよいのか?」
「俺は、王子であることを捨てた。アネイルとは関係の無い、ただの、テオドールです」

 シルヴァリスからの問いに、絞り出すように答えるテオドールは瞳を伏せて俯いた

「ただの、テオドールだと? 笑わせる。貴公は、今のアネイルの内情を知っているのか? 病に罹った余命少ない第一王子は王位継承者から外され、第三王子テオドール殿は行方不明。第四王子はまだ幼子だ。今では第二王子が次期国王とみなされている。この第二王子は、随分と野心家らしいな」

 苦虫を噛み潰した表情になるテオドールとは真逆で、シルヴァリスは愉しそうに口角を上げて笑う。

「軍備を増強し、新たな兵器や魔道具の開発、禁術にも手を出しているようだ。そして、我が国に同盟を持ち掛けてくるとは、随分豪胆な考えだとは思わぬか?」
「なん、だと?」

 驚愕の表情を浮かべたテオドールは、自身を落ち着かせるためにギリッと下唇を噛んだ。

「暗黒時代後の条約で人族の国とは中立関係を貫く我が国へアネイル国王の名代として第二王女を送り、我か宰相あたりを引き込もうとしたのは浅はかな考えだと思うがな」
「妹は畏れ多くも、魔王陛下に魅了の術を使ったのですね。正に身の程知らず、愚か者の極みだ。妹は兄上の傀儡ですから、兄上の指示によるものでしょう。兄上は妹の力を利用して父上すらも操っています。三年前、魅了の力に屈し無かった俺は邪魔者とみなされ消されかけた。だから……出奔しました」

 戦わず逃げた自分自身への自嘲の笑みを浮かべ、テオドールの青い瞳が暗く陰る。

 俯いたテオドールを護るように、ウォルトとエミリアが彼の横に並ぶ。
 身構えるウォルトとエミリア達には構わず、シルヴァリスはさらに続ける。

「軍備の増強や人族同士の争いは魔族には関係は無い。だが、各国に散らばる暗黒時代の遺産を軍事に使おうとするのは、さすがに目に余る行動だ」 
「それで……魔王陛下は、国際条約違反を理由にして俺に父と兄達を討てと?」

 暗い瞳のまま、ゆっくりとテオドールは顔を上げた。
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