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4章 私と魔王と時々勇者
明らかな変化に戸惑う②
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「残念ながら、彼氏はいません。安達さんには可愛い彼女がいるのでしょう?」
「彼女とは先月別れたんだよ。最近、綺麗になったから山田さんに彼氏が出来たのかと思ったんだ」
(綺麗になった? 異世界のメイドさん達が磨いてくれたから、肌艶が良くなったからそう見えるのかな?)
髪と肌の状態が良くなったのは、異世界の魔王とメイド達のおかげだった。
彼氏ではなく婚約者はいると答えようか迷い、理子は胸元に手を当てた。
「そっか。いないのかー。あ、じゃあ、好きな人でもできた?」
珈琲をポットから保冷マグに入れる手を止めて、理子は安達さんへ困惑した視線を向けた。
「うん、まあ、好きな人はいます。でも、何で?」
「好きな人がいるの? でも、いいや。……山田さんが気になってしかたないです。お試しでもいいから、俺と付き合ってもらえませんか」
「え?」
安達さんの言葉がすぐには理解出来ず、何度も理子は目を瞬かせた。
冗談にしては、安達さんは真顔で真剣な目をしていた。
(これは、告白されたのよね?)
熱のこもった目で見詰められて、理子の頭は冷静になっていく。
数か月前なら、華やかな外見をした安達さんに冗談でも告白されたら嬉しくて、有頂天になっただろう。
でも、今は全く嬉しくは無かった。
異世界の怖くて綺麗な魔王様が自分を愛してくれているのだと知ってしまった今は、嬉しいとは思えなかった。
それに独占欲の塊の様な魔王に、安達さんからアプローチされて理子が少しでも迷ったと思われたら……鎖で繋がれて監禁されそうだ。
(監禁されるのは無理! 今すぐきっぱり断らなきゃ! 魔法でやり取りを聞いているかもしれないし)
一瞬、目の前が暗くなって目眩がしてきた理子は、慌てて安達さんに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。好きな人がいるので、付き合うのは無理です」
断る理由が思い付かず、直球で断りの言葉を口にする。
「そっか。いきなり告白したら、そうだよね。いきなりじゃ困らせるかと思ったけど、誰かに先を越される前に、言っておきたくて」
苦笑いを浮かべた安達さんは頭を掻く。
「ごめんね、変なこと言って。山田さんの気が変わったら、いつでも連絡してきて」
理子の手のひらへ押し付けるように、安達さんは携帯電話の番号が書かれたメモを渡す。
給湯室から出て行く安達さんの後ろ姿を見送ると、理子は急に疲れてきて、はーと息をついた。
午前中だけでこの疲労感。
急に声をかけられる事が増えたとは、モテ期にでも突入したのかもしれない。
こんな調子で、あと半日を乗り切れるだろうか。
自意識過剰だと思いつつ、誰かの視線を感じる度に不安になった。
***
終業時刻直前。
出来上がった書類をまとめてノートパソコンの電源をオフにする。
デスク周りを片付けた理子は、デスクチェアに座ったまま大きく伸びをした。
ガリッ
「いたっ」
右手小指に鈍い痛いが走り、理子は小さく呻いた。
腕を広げた際、隣の机の上にあるセロハンテープカッターのギザギザになったカッター部分で、小指を引っ掻けてしまったのだ。
ジワジワと引っ掻けた傷から血がにじみ出てきて、地味に痛い。
「あちゃー」
ティッシュで滲む血を拭き取り、机の引き出しから絆創膏を取り出す。
絆創膏を貼ろうと、小指の傷に視線を移して……理子は大きく目を見開いた。
「あれ? 傷が?」
引っ掻けた傷が消えていたのだ。
まるで、最初から傷など無かったように。ピリピリした痛みも、無くなっていた。
「何これ」
傷口から滲み出た血を拭き取ったティッシュは机上にあり、痛みを感じたのだから怪我はしていた。
それが、一瞬目を離した間に治っているとはどういう事なのか。
傷があったはずの小指を凝視して、暫くの間理子は固まっていた。
「彼女とは先月別れたんだよ。最近、綺麗になったから山田さんに彼氏が出来たのかと思ったんだ」
(綺麗になった? 異世界のメイドさん達が磨いてくれたから、肌艶が良くなったからそう見えるのかな?)
髪と肌の状態が良くなったのは、異世界の魔王とメイド達のおかげだった。
彼氏ではなく婚約者はいると答えようか迷い、理子は胸元に手を当てた。
「そっか。いないのかー。あ、じゃあ、好きな人でもできた?」
珈琲をポットから保冷マグに入れる手を止めて、理子は安達さんへ困惑した視線を向けた。
「うん、まあ、好きな人はいます。でも、何で?」
「好きな人がいるの? でも、いいや。……山田さんが気になってしかたないです。お試しでもいいから、俺と付き合ってもらえませんか」
「え?」
安達さんの言葉がすぐには理解出来ず、何度も理子は目を瞬かせた。
冗談にしては、安達さんは真顔で真剣な目をしていた。
(これは、告白されたのよね?)
熱のこもった目で見詰められて、理子の頭は冷静になっていく。
数か月前なら、華やかな外見をした安達さんに冗談でも告白されたら嬉しくて、有頂天になっただろう。
でも、今は全く嬉しくは無かった。
異世界の怖くて綺麗な魔王様が自分を愛してくれているのだと知ってしまった今は、嬉しいとは思えなかった。
それに独占欲の塊の様な魔王に、安達さんからアプローチされて理子が少しでも迷ったと思われたら……鎖で繋がれて監禁されそうだ。
(監禁されるのは無理! 今すぐきっぱり断らなきゃ! 魔法でやり取りを聞いているかもしれないし)
一瞬、目の前が暗くなって目眩がしてきた理子は、慌てて安達さんに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。好きな人がいるので、付き合うのは無理です」
断る理由が思い付かず、直球で断りの言葉を口にする。
「そっか。いきなり告白したら、そうだよね。いきなりじゃ困らせるかと思ったけど、誰かに先を越される前に、言っておきたくて」
苦笑いを浮かべた安達さんは頭を掻く。
「ごめんね、変なこと言って。山田さんの気が変わったら、いつでも連絡してきて」
理子の手のひらへ押し付けるように、安達さんは携帯電話の番号が書かれたメモを渡す。
給湯室から出て行く安達さんの後ろ姿を見送ると、理子は急に疲れてきて、はーと息をついた。
午前中だけでこの疲労感。
急に声をかけられる事が増えたとは、モテ期にでも突入したのかもしれない。
こんな調子で、あと半日を乗り切れるだろうか。
自意識過剰だと思いつつ、誰かの視線を感じる度に不安になった。
***
終業時刻直前。
出来上がった書類をまとめてノートパソコンの電源をオフにする。
デスク周りを片付けた理子は、デスクチェアに座ったまま大きく伸びをした。
ガリッ
「いたっ」
右手小指に鈍い痛いが走り、理子は小さく呻いた。
腕を広げた際、隣の机の上にあるセロハンテープカッターのギザギザになったカッター部分で、小指を引っ掻けてしまったのだ。
ジワジワと引っ掻けた傷から血がにじみ出てきて、地味に痛い。
「あちゃー」
ティッシュで滲む血を拭き取り、机の引き出しから絆創膏を取り出す。
絆創膏を貼ろうと、小指の傷に視線を移して……理子は大きく目を見開いた。
「あれ? 傷が?」
引っ掻けた傷が消えていたのだ。
まるで、最初から傷など無かったように。ピリピリした痛みも、無くなっていた。
「何これ」
傷口から滲み出た血を拭き取ったティッシュは机上にあり、痛みを感じたのだから怪我はしていた。
それが、一瞬目を離した間に治っているとはどういう事なのか。
傷があったはずの小指を凝視して、暫くの間理子は固まっていた。
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若い人は知らないかな?(*ノД`*)タハー
来来来世もそれ以上も一緒?!(*゚Д゚*)
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