護衛騎士は聖女の教育係(男性不信)を一途に愛する

鳥花風星

文字の大きさ
1 / 10

1 男性不信の教育係

しおりを挟む
「悪いな、フィオナ。俺は他に愛する人ができたんだ。お前との婚約は破棄する」

 その時、何が起こったかわからなかった。ただただフィオナの頭の中は真っ白で、目の前にいる婚約者だったはずの軽薄そうな男と、その隣で嬉しそうに笑う令嬢の顔をただただ茫然と見つめていた。





 あれから月日は流れ、フィオナは聖女の教育係として今日も元気に働いている。

「ねぇ、フィオナ。愛のない結婚てどういうものなのかしら」

 静かにため息をついて、聖女リリアは首を傾げながらフィオナに尋ねた。聖女はこの国の王子と結婚することが決まっており、それがこの国の古くからの習わしだ。聖女の力を持って生まれた時から結婚相手が決まっている人生。その相手が一国の王となる人間ということが果たして幸せなことなのかどうかは、教育係のフィオナにもわからない。

「どうなのでしょうね。ですが、愛があるかどうかは別として、少なくともデミル殿下はリリア様に好意を抱いていることは間違いないと思いますよ。愛はこれから育んでいけばいいではないですか。それができるお二人なのですから」

 優しく微笑みながらフィオナが言うと、リリアはフィオナをじっと見つめる。

「フィオナは結婚しないの?見た目も悪くない、頭も良いし令嬢としての所作だって完璧なのよ。フィオナを放っておく男性が信じられない。この美しく艶やかな明るいブラウンの髪に触れてみたいとか、アメジストのような綺麗な瞳に見つめられたいとか、華奢な体を抱きしめたいとか、普通はそう思うでしょう、ねぇ、ヴィア」

 そう言ってリリアは近くにいる護衛騎士、ヴィアに返事を求める。だが、ヴィアは視線をフィオナとリリアに向けると何も言わず、すぐに視線を逸らした。

「ヴィアは本当につまらない男ね。せっかく見た目がいいのに、そんなだからモテないのよ」

「お言葉ですが、別にモテたいと思っておりませんので問題ありません。私は騎士としての責務を全うできればそれで構いませんので」

 艶やかな黒髪に琥珀色の瞳、イケメンと言っても過言ではない顔面を持ち、細身だがしっかりと鍛え抜かれた高身長のヴィアは、見た目だけであればモテる。だが、常に無口で無表情、何を考えているかわからない上に言い寄ってくるご令嬢には見向きもしないため、女性たちに怖がられいるのだ。

「はいはい、そうですか」

 つまんないわ、とリリアは吐き捨ててお茶を飲む。フィオナは苦笑してヴィアを見ると、ヴィアもフィオナを見て少し眉を下げた。言葉を交わさずとも、二人には阿吽の呼吸が出来上がっている。そんな二人を見て、リリアはふーんとまんざらでもない顔をしていた。






「リリア様には困ったものね。悪い方ではないのだけれど、思ったことをすぐ口にしてしまう」
「それだけフィオナに心を許しているんだろう。他ではあそこまで砕けた様子にはならないからな」
「それならいいのだけれど」

 一日の業務が終わり、フィオナとヴィアは二人揃って廊下を歩いていた。

「ここにいたのかヴィア。フィオナ嬢も、ご機嫌麗しく」

 前から一人の騎士が小走りで近寄ってくる。サラサラの金髪に中性的なルックスのその騎士は二人を見て笑顔になる。

「ベルゼ。どうかしたのか」
「騎士団長がお呼びだ。俺も呼ばれている、一緒に行こう」
「わかった」

「フィオナ嬢、すまないけれどヴィアを借りるよ」
「今日は業務が終了しているので大丈夫です」
「それじゃ、また明日」

 ヴィアがフィオナにそう言ってベルゼの方に向かうと、ベルゼはフィオナの耳元に近寄る。

「フィオナ、今度二人で食事でもどうかな。ヴィアはつまらない男だろう?息抜きも必要だよ」

 見目麗しいベルゼにそう言われれば、大抵の女性は簡単に落ちるだろう。だが、フィオナは恐ろしさと嫌悪感で全身に鳥肌が立ち、呼吸が止まりそうだった。

「ベルゼ、フィオナにあまり近寄るな」

 そう言ってヴィアがベルゼをフィオナから引き離す。

(よかった、離れてくれた……)

 心臓がバクバクとなって苦しい。止まっていた呼吸を慌ててするように息を整えていると、ヴィアがフィオナにそっと手を近づける。だが、その手はフィオナに触れることなく、フィオナの背中近くで止まっていた。

「大丈夫か。すまない、こいつは距離感がおかしいんだ」
「え、ええ。大丈夫、ありがとうヴィア」

 心配させまいと笑顔を作ると、ヴィアは眉間に皺を寄せてフィオナを見つめた。

「騎士団長がお呼びなのでしょう。私は大丈夫だから、早く行ったほうがいいわ」
「……そうか」

 仕方ないという表情でヴィアはベルゼを引っ張って歩いていく。

「なんだよ、お前、フィオナ嬢を取られたくないのか?必死だな」
「そういうことじゃない、お前は手当たり次第に口説きすぎだ」
「綺麗な花があれば手に入れたいと思うのは当然だろ」
「馬鹿なのかお前は」

 歩いていく二人から会話が聞こえ、フィオナは苦笑しながらヴィアの背中を見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

モブな令嬢は第二皇子の溺愛から逃れたい

エヌ
恋愛
王子様、どうか私に興味は持たないでくださいね!

処理中です...