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第三話
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カイルは宿の自室で、剣の柄に手をかけたまま、深く息を吐いた。
さっき、冒険者タグの中央が静かに蒼く光った。
ギルドからの『要連絡』──定例報告や依頼通知とは違う、滅多に来ない種類の合図だ。
「……何かあったか?」
小さく呟き、急いで装備を整える。
動きやすい軽鎧に袖を通す。訓練ではなく、いつでも実戦に移れる格好だ。何が起きても対処できるように。
タグを通したチェーンを首にかけ、双剣を腰の鞘に収める。
靴紐を締め直すと、そのまま宿を飛び出した。
ギルドの扉を押して中に入ると、受付はいつも以上に混み合っていた。
……このギルドの内情に、カイルはそれなりに通じている。
数年前、“交渉屋”として仲間内の揉めごとや共同依頼の調整を引き受けるうちに、「組む相手は既婚者や穏やかなベテランを優先してくれ」と、ノンナを含む職員へさりげなく根回ししてきた。
建前は「事故を防ぎたい」「不穏を避けたい」。
けれど本音は、セフィナの隣に立てる自分以外を、最初から外しておきたかったからだ。
そのくらい、彼女は最初から「特別」だった。
受付にはノンナの姿はなく、別の受付嬢が応対している。
とりあえず声をかけようと近づいた、その背中に、重たい衝撃が叩きつけられた。
「遅い。……こっちに」
振り向くと、腕を組んだノンナが立っていた。
表情は、見てわかるほど不機嫌だ。
「痛ってぇ! 叩かなくても──」
「いいから。黙ってついてきな」
くいっと顎で奥を指し示し、そのまま無言で歩き出す。
案内されたのは、ギルド奥の打ち合わせ用の小部屋だった。
石造りの壁に淡い灯りがともり、向かい合うように木の椅子と長卓が置かれている。扉と壁には防音結界が張られており、よほどの大声でなければ外には漏れない。
カイルが腰を下ろすのを待ちもせず、ノンナは口を開いた。
「カイル。あのあと、あの子に会った?」
「いや……」
カイルは額に手を当て、小さく息を吐く。
「……薄々気づいてると思うけど、こないだの任務の最後、俺が──セフィナに、見せちゃいけないもん見せちまった。完全に俺の落ち度だ。……だから、数日だけ距離を置かせてもらってた。今日まで、一度も顔を見ていない」
あれから、四日。
タグが光った理由が、嫌な予感として形を取り始める。
ノンナは腕を組んだまま、じっとカイルの顔を見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
「あの子、今日ひとりでギルドに来てたのよ。いつもならしゃんとしてるのに、今日は違ってて。
顔は赤いし、目は潤んでるし、体の動きも落ち着かない。見てるこっちが心配になるくらい色気が出ちゃっててね……放っとける状態じゃなかった」
「……っ」
「そのうえあんたがいないもんだから、男どもが色めき立っててね。あの子を見てヒソヒソ話してた。番犬いない今がチャンスだなんてほざいてる、声のでかい馬鹿もいたわ」
ノンナの声は低く、怒りを隠そうともしない。
「さすがに危なっかしくてさ。あのまま放っといたらまずいと思って、強引に宿に返した。何かあってからじゃ遅いから」
カイルは拳を握りしめ、唇を噛みそうになる。
ノンナの言葉は、どれも痛いほど的を射ていた。
この数日、自分が逃げていたツケが、そのままセフィナに回っていた。
「……ありがとう。本当に、助けられた」
「ったく、どんな気持ちで距離置いてたかは知らないけどね。あの子の隣にいられるのは、もうあんただけなのよ。あんたがそうやって囲ったんでしょ? ちゃんと自覚しなさいよ」
カイルは黙ってうなずいた。
迷いは、もうどこにもなかった。椅子を鳴らして勢いよく立ち上がる。
「……俺、もう行く! ノンナ、ありがとな!」
「待ちな!」
背後からぴたりと飛んできた声に、足が止まる。振り返る間もなく、紙袋を片手にぐいっと押し付けられた。
「セフィナに渡して。あとで差し入れ持ってくって伝えてあるから」
そのまま立ち去ろうとすると、
「それと、あんたにはこっち!」
言うが早いか、懐にぐいっと何かが突っ込まれる。
遠慮のない手つきにたじろぎながら中身を確認すると──避妊具だった。
「っっ……はァッ!?」
声にならない悲鳴が、喉から飛び出す。
「ちゃんと責任とる覚悟で行きなさいよ! ……頑張りな!」
バシン、と背中に一発。肺の空気が一瞬で押し出される。
よろめきながらも小部屋を飛び出すと、その勢いのままギルドを駆け出していた。
*
『セフィナ、今日本調子じゃなさそうだね。大丈夫かい?』
『──ああーっ、ちょっと熱あるんじゃない? 宿戻んなって! あとで差し入れ持ってくからさ、それまで部屋で大人しくしてなきゃダメだよ』
午前中、ギルドの掲示板を眺めていたとき、背後からノンナにそう声をかけられた。
熱……というより、もっと別の理由に心当たりがある。けれど他人の目にも不調がわかるくらいなら、きっと顔にも態度にも出ていたのだろう。
ノンナは『じゃあ、またあとでね』と明るく言い、返事を待たずに去っていった。
声の調子が少し芝居がかっているようにも思えたが、セフィナを気遣ってのことだとわかる。
そのまま宿へ戻り、寝間着には着替えず、ベッドの上で膝を抱えたまま時間を潰す。
横になっても眠れず、かといって立ち上がるほどの元気もない。
ノックの音が響いたとき、セフィナはてっきりノンナが来たのだと思った。
「……わざわざ有難う、ノンナ。今、開けるね」
ふらふらと、その名を呼びながら扉へ向かう。
だが、扉を開けた先に立っていたのは、カイルだった。
「──カイ、ル……?」
思わず名前が零れる。あまりにも不意の再会に、思考が追いつかない。
数日ぶりに見るその姿は、いつもよりきちんと整えられていて、眼差しもやけに鋭く見えた。
思わず、いつもよりずっと格好いいと思ってしまう。その気配を悟られないよう、そっと息を整えた。
「よう。久しぶり。ギルドに寄ったらノンナから預かったんだ。
急用が出来たみたいでさ、行けなくなったって。ごめんなって言ってた」
思っていたより自然に、いつも通りの声で話してくれる。
その響きに、ほんの少し肩の力が抜けた。
手に提げた紙袋をそっと差し出す仕草もいつも通りで、「ありがとう」とかすれた声で返すのが精一杯だった。
気まずい沈黙が落ちる。
彼の方も、少なからず緊張しているのがわかった。
「セフィナ、話があるんだ。……部屋に入っても、大丈夫か? 都合悪かったらまた日を改める」
その言葉に、首が自然と縦に動いていた。
断りたくなかった。自分にも、伝えたいことがある。
初めて、自分の部屋にカイルを招き入れる。
扉を閉めると、背中越しにわずかな沈黙が落ちた。
カイルは室内を見渡し、飾られた薬草や鉱石を興味深そうに眺めている。
さっきまでひとりでいた部屋に、彼がいる。たったそれだけのことが、ひどく特別に思えて、落ち着かない。
「……こっち、どうぞ」
頬の熱を誤魔化すように、テーブルを手で示す。
カイルは無言のまま歩いてきて、向かいの椅子に腰を下ろした。
紙袋の中を覗くと、乾燥ハーブの茶葉やキャンディ、草花シロップが丁寧に詰められていた。
どれも穏やかな香りで、心を整える作用のあるものばかりだ。
ノンナが選んでくれたのだろう。その細やかな心遣いが、嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
「セフィナ」
名を呼ばれ、顔を上げる。
カイルが、まっすぐこちらを見つめていた。
視線を返すと、彼は唇をきゅっと結び、ゆっくりと机に両肘をついた。
「この前のこと、謝りたくて来たんだ」
その一言に、セフィナの心臓がふっと跳ねる。
「あの任務の夜、最低な姿をセフィナに見せちまった。本当にすまないと思ってる。理性も配慮も足りなかった」
目を逸らさずにそう言い切ると、短く沈黙を置き、拳を握りしめたまま続ける。
「あと、もう一つ。謝らないといけない事があるんだ。
俺……セフィナとずっと二人でいたくて。他にもあんた狙いの奴らがいたのに、ギルドに根回しして、そいつらと組ませないようにしてた。
ただ、セフィナの一番になりたかった。それだけの勝手な理由で。
あんたには別の未来や可能性があったかもしれないのに……俺が、それを潰したんだ」
セフィナは目を見開く。
まったく知らなかった。そんなことを、裏でカイルがしていたなんて。
「こんな事、言う資格がないかもしれないけれど、俺はセフィナのことが好きだ。
仲間とか相棒とか、そういう意味でも唯一だと思ってる。だけど、それだけじゃなくて。
……一目惚れ、だったんだ。最初に出会った時から、ずっと」
喉の奥に、少しだけ照れが滲む。
それでもカイルは、言葉を止めなかった。
「信頼されてるのは、わかってた。相棒として好かれてるのも……自惚れでなければ。
でも、もう。それだけじゃ嫌なんだ」
俯き、膝のあたりを見つめたまま、静かに息を吐く。
「あの夜、最低なもんを見せたのに、あんたは怒らなかった。責めもしなかった。
それが余計にきつくて……ああ、やっぱり俺のこと、男としては見てないんだな、って……」
顔を上げ、真っ直ぐにセフィナを見据える。
「俺は、セフィナの隣にいたい。男として、あんたに選ばれたい。
受け入れられないなら、それで構わない。無理せず断ってくれていい。
剣士や交渉役が必要なら、今まで通り同行する。けど……顔も見たくないって言うなら、俺はこの街を離れるから。安心してくれ」
言い切った声には、迷いがなかった。
しばらく、言葉が出てこなかった。
けれど、答えはもう決まっている。あとは、ひとつずつ伝えていくだけ。カイルなら、受け止めてくれる。
「……カイルのこと、信じてた。だから、ずっと一緒に組んできた。背中を任せたいって思ってた。
だから、今の話を聞いて──ちょっと……いや、結構ショックだった。
そんなに色々考えて、動いて、守ってくれてたのに、私のことを最後まで信じ切れてなかったんだなって」
セフィナは、自分でも苦笑してしまう。
怒っているわけではない。ただ、その一点が、やはり少しだけ悲しかった。
「“もしも”の出会いを潰すっていうのも、普通に考えたらひどい話だよね。
でも……それでも、って思っちゃった。
私、人と関わるのがすごく苦手で。うるさい人とか、馴れ馴れしい人とか、どうしてもダメで。
それなのに、カイルと組んでから、ずっと快適だった。
どの依頼も無理がなくて、周りも尊敬できる人たちばかりで、『私、恵まれてるんだな』って、ずっと思ってた」
セフィナは指先でテーブルの縁をなぞる。
「多分、それも……カイルが選んで、整理してくれてたんだよね。今の話でやっとわかった。
ひどいなって思う。でも、それ以上に、嬉しいし、ありがたいって気持ちの方が大きかったの。
……うん。今の話を聞いても、私にとってカイルは、一番に信頼できる人だって、やっぱり思っちゃう」
カイルは信じられないといった表情で、セフィナを見つめていた。
唇が、かすかに震えている。
「カイルのこと、相方としてずっと好きだったけど──
あの時……その、カイルが……ひとりで、してるのを見ても、不思議と、本当に、全然嫌じゃなかった。
それよりも、かっこいいって思って。色っぽいというか……魅力的というか。
……その、もっと見たいかもって。あとから、ひとりになってから、じわじわ思って……しまって……」
語尾が小さくなっていく。耳まで赤いのが自分でもわかった。
それでも、ここから先も伝えなければならない。
恥ずかしい。けれど、カイルに聞いてほしい。自分の気持ちを知ってほしい。
「……私、帰ってから落ち着かなくて。何も手につかなかった。それで、ひとりで……してみたの。
知識はあったけど、今まで興味なくて、初めてで。最初はなんにも感じなかった。
でも、カイルが私にどんなふうに触れてくれるんだろうって思いながら続けてみたら……すごく気持ちよくて、びっくりした」
そこで、いったん息を継ぐ。
「途中で、あの時のカイルが私の名前を呼んだのが、“たまたまそこにいた女だったから”だったのかもって、ふと思っちゃって。
そしたら……すごく嫌だった。涙が出そうなくらい。
その時、気づいたの。私、カイルのこと……男の人として好きなんだって」
言い終えて、一呼吸置く。
セフィナの告白を受けても、カイルはしばらく動かなかった。
視線だけが、まっすぐにこちらを捉えたまま。言葉も表情も追いついていないような、唖然とした顔だ。
やがて、その瞳にぐっと力が宿ったかと思うと、唐突に自分の頬を強く叩いた。
ばちん、と鋭い音が部屋に響く。
「カイル!?」
思った以上の力で叩いたらしく、彼の頬には赤みが浮かんでいる。
けれどなぜか、その痛みに安堵しているようにも見えた。
「いや……悪い。ちょっと、夢なんじゃねえかって。あまりにも、こんな……俺に、都合が良すぎる」
その姿はどこか子どもじみているのに、本気でそう思っているのが伝わってくる。
嬉しさより先に疑いが勝ってしまうところが、いかにも彼らしい。
「だからって、そんな……!」
セフィナは椅子を引いて立ち上がり、そっと彼の頬へ手を伸ばした。
魔力を込めて、少しでも痛みを和らげようとした──ただ、それだけだったのに。
「ダメだ!」
カイルの手が、反射的にセフィナの手首を強く掴み、引き離す。
その勢いに、思わず眉をひそめる。すぐに彼は力を緩めた。
その時、ふと視線が重なった。
カイルに気持ちを届けたくて、セフィナは身を寄せ、唇を重ねる。
軽く触れ合うだけの、浅いキス。
彼の頬の熱と、その奥にある躊躇いが、吐息越しに伝わってくる。
「夢じゃないよ、カイル」
そっと囁き、柔らかく笑みを向けた。
カイルは静かに立ち上がり、彼女を包むように見下ろす位置へと歩み寄る。
セフィナが身じろぎもせず見上げると、伸びてきた腕がためらいなく背中へ回った。
ゆっくりと引き寄せられ、彼の胸元にそっと顔を預ける。
「……ほんとにいいんだな。今さら“やっぱ嫌だ”って言われても、もう離してやれないぞ」
「こんなに……全部で示してるのに。まだ私のこと、信じられない?」
腕越しに伝わる体温が、少しだけ上がった気がした。
セフィナは、ずっと伝えてきたつもりだった。
言葉で、態度で、『ありがとう』『頼りにしてる』『あなたといると安心する』と。
「……そうだったな。いつだって、セフィナの言葉は真っ直ぐで。……まっすぐすぎるほどだった」
はあ、と静かにこぼれた息が、彼の感情の深さを物語る。
背に回された手は優しく、存在を確かめるように、何度もそっと撫でてきた。
そのぬくもりが、ゆっくりと胸の奥まで染み込んでいく。
人の温もりって、こんなに優しいものだっただろうか──そんな思いがふとよぎった。
彼の顔が近づいてくる気配に、自然とまぶたが落ちる。
唇が重なり、軽やかなキスがいくつも繰り返される。
熱を帯びた瞳も、かすかに漏れる切なげな吐息も、すべてが心地よくて、身体の奥で静かに膨らんでいく欲を止められない。
指先が、そっと頬の線をなぞる。
その瞬間、びくりと肩が大きく震えた。自分でも驚くほど、感覚が研ぎ澄まされている。
『本物だ』──咄嗟にそう思う。
ずっと触れられたいと願っていた、その指が、そっと顔の角度を変える。
舌が、そっと触れてきた。
怖さはなかった。ただ、知らない感覚に少し戸惑いながら、舌先をそっと重ね合わせる。
触れて、離れて、また重なる──そんな探るようなキスが、ゆっくりと深まっていく。
「ぅ、ん……」
甘い音が唇から零れ、喉の奥からかすかな息が漏れた。
唇が離れても、意識は追いつかない。熱を帯びたまま、わずかに開いた口元を、カイルがじっと見つめているのがわかった。
「セフィナ」
名を呼ばれ、隙間がなくなるほど、ぎゅうっと強く抱きしめられる。
少しだけ、革鎧の硬さが身体に当たって痛い。
その些細な不快さがもどかしくて、もっと深く、もっと近くで触れ合いたいという衝動が胸に湧き上がる。
どう伝えればいいか──セフィナは、そっと視線をベッドへと向けた。
それを見て、察してくれたらしいカイルが、低く囁く。
「……任せとけ」
その一言に、全身がぞくりと震えた。
気づけば身体が宙に浮き、軽々と抱き上げられ、ふわりとベッドへ降ろされる。
彼が手早く装備を外す音が響いた。
革鎧や腰の装具が、床へと重い音を立てて落ちていく。セフィナはそれを、静かに見つめていた。
装備を脱ぐ彼の姿は、同行者として何度も見てきたはずの光景なのに、今日はまるで違って見える。
装備を脱ぎ終え、シャツとスラックス姿になったカイルと、目が合った。
その視線には、まっすぐで揺るがない熱が宿っている。
今、目の前にいるのは、紛れもなくセフィナにとっての“ただひとりの男の人”だった。
さっき、冒険者タグの中央が静かに蒼く光った。
ギルドからの『要連絡』──定例報告や依頼通知とは違う、滅多に来ない種類の合図だ。
「……何かあったか?」
小さく呟き、急いで装備を整える。
動きやすい軽鎧に袖を通す。訓練ではなく、いつでも実戦に移れる格好だ。何が起きても対処できるように。
タグを通したチェーンを首にかけ、双剣を腰の鞘に収める。
靴紐を締め直すと、そのまま宿を飛び出した。
ギルドの扉を押して中に入ると、受付はいつも以上に混み合っていた。
……このギルドの内情に、カイルはそれなりに通じている。
数年前、“交渉屋”として仲間内の揉めごとや共同依頼の調整を引き受けるうちに、「組む相手は既婚者や穏やかなベテランを優先してくれ」と、ノンナを含む職員へさりげなく根回ししてきた。
建前は「事故を防ぎたい」「不穏を避けたい」。
けれど本音は、セフィナの隣に立てる自分以外を、最初から外しておきたかったからだ。
そのくらい、彼女は最初から「特別」だった。
受付にはノンナの姿はなく、別の受付嬢が応対している。
とりあえず声をかけようと近づいた、その背中に、重たい衝撃が叩きつけられた。
「遅い。……こっちに」
振り向くと、腕を組んだノンナが立っていた。
表情は、見てわかるほど不機嫌だ。
「痛ってぇ! 叩かなくても──」
「いいから。黙ってついてきな」
くいっと顎で奥を指し示し、そのまま無言で歩き出す。
案内されたのは、ギルド奥の打ち合わせ用の小部屋だった。
石造りの壁に淡い灯りがともり、向かい合うように木の椅子と長卓が置かれている。扉と壁には防音結界が張られており、よほどの大声でなければ外には漏れない。
カイルが腰を下ろすのを待ちもせず、ノンナは口を開いた。
「カイル。あのあと、あの子に会った?」
「いや……」
カイルは額に手を当て、小さく息を吐く。
「……薄々気づいてると思うけど、こないだの任務の最後、俺が──セフィナに、見せちゃいけないもん見せちまった。完全に俺の落ち度だ。……だから、数日だけ距離を置かせてもらってた。今日まで、一度も顔を見ていない」
あれから、四日。
タグが光った理由が、嫌な予感として形を取り始める。
ノンナは腕を組んだまま、じっとカイルの顔を見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
「あの子、今日ひとりでギルドに来てたのよ。いつもならしゃんとしてるのに、今日は違ってて。
顔は赤いし、目は潤んでるし、体の動きも落ち着かない。見てるこっちが心配になるくらい色気が出ちゃっててね……放っとける状態じゃなかった」
「……っ」
「そのうえあんたがいないもんだから、男どもが色めき立っててね。あの子を見てヒソヒソ話してた。番犬いない今がチャンスだなんてほざいてる、声のでかい馬鹿もいたわ」
ノンナの声は低く、怒りを隠そうともしない。
「さすがに危なっかしくてさ。あのまま放っといたらまずいと思って、強引に宿に返した。何かあってからじゃ遅いから」
カイルは拳を握りしめ、唇を噛みそうになる。
ノンナの言葉は、どれも痛いほど的を射ていた。
この数日、自分が逃げていたツケが、そのままセフィナに回っていた。
「……ありがとう。本当に、助けられた」
「ったく、どんな気持ちで距離置いてたかは知らないけどね。あの子の隣にいられるのは、もうあんただけなのよ。あんたがそうやって囲ったんでしょ? ちゃんと自覚しなさいよ」
カイルは黙ってうなずいた。
迷いは、もうどこにもなかった。椅子を鳴らして勢いよく立ち上がる。
「……俺、もう行く! ノンナ、ありがとな!」
「待ちな!」
背後からぴたりと飛んできた声に、足が止まる。振り返る間もなく、紙袋を片手にぐいっと押し付けられた。
「セフィナに渡して。あとで差し入れ持ってくって伝えてあるから」
そのまま立ち去ろうとすると、
「それと、あんたにはこっち!」
言うが早いか、懐にぐいっと何かが突っ込まれる。
遠慮のない手つきにたじろぎながら中身を確認すると──避妊具だった。
「っっ……はァッ!?」
声にならない悲鳴が、喉から飛び出す。
「ちゃんと責任とる覚悟で行きなさいよ! ……頑張りな!」
バシン、と背中に一発。肺の空気が一瞬で押し出される。
よろめきながらも小部屋を飛び出すと、その勢いのままギルドを駆け出していた。
*
『セフィナ、今日本調子じゃなさそうだね。大丈夫かい?』
『──ああーっ、ちょっと熱あるんじゃない? 宿戻んなって! あとで差し入れ持ってくからさ、それまで部屋で大人しくしてなきゃダメだよ』
午前中、ギルドの掲示板を眺めていたとき、背後からノンナにそう声をかけられた。
熱……というより、もっと別の理由に心当たりがある。けれど他人の目にも不調がわかるくらいなら、きっと顔にも態度にも出ていたのだろう。
ノンナは『じゃあ、またあとでね』と明るく言い、返事を待たずに去っていった。
声の調子が少し芝居がかっているようにも思えたが、セフィナを気遣ってのことだとわかる。
そのまま宿へ戻り、寝間着には着替えず、ベッドの上で膝を抱えたまま時間を潰す。
横になっても眠れず、かといって立ち上がるほどの元気もない。
ノックの音が響いたとき、セフィナはてっきりノンナが来たのだと思った。
「……わざわざ有難う、ノンナ。今、開けるね」
ふらふらと、その名を呼びながら扉へ向かう。
だが、扉を開けた先に立っていたのは、カイルだった。
「──カイ、ル……?」
思わず名前が零れる。あまりにも不意の再会に、思考が追いつかない。
数日ぶりに見るその姿は、いつもよりきちんと整えられていて、眼差しもやけに鋭く見えた。
思わず、いつもよりずっと格好いいと思ってしまう。その気配を悟られないよう、そっと息を整えた。
「よう。久しぶり。ギルドに寄ったらノンナから預かったんだ。
急用が出来たみたいでさ、行けなくなったって。ごめんなって言ってた」
思っていたより自然に、いつも通りの声で話してくれる。
その響きに、ほんの少し肩の力が抜けた。
手に提げた紙袋をそっと差し出す仕草もいつも通りで、「ありがとう」とかすれた声で返すのが精一杯だった。
気まずい沈黙が落ちる。
彼の方も、少なからず緊張しているのがわかった。
「セフィナ、話があるんだ。……部屋に入っても、大丈夫か? 都合悪かったらまた日を改める」
その言葉に、首が自然と縦に動いていた。
断りたくなかった。自分にも、伝えたいことがある。
初めて、自分の部屋にカイルを招き入れる。
扉を閉めると、背中越しにわずかな沈黙が落ちた。
カイルは室内を見渡し、飾られた薬草や鉱石を興味深そうに眺めている。
さっきまでひとりでいた部屋に、彼がいる。たったそれだけのことが、ひどく特別に思えて、落ち着かない。
「……こっち、どうぞ」
頬の熱を誤魔化すように、テーブルを手で示す。
カイルは無言のまま歩いてきて、向かいの椅子に腰を下ろした。
紙袋の中を覗くと、乾燥ハーブの茶葉やキャンディ、草花シロップが丁寧に詰められていた。
どれも穏やかな香りで、心を整える作用のあるものばかりだ。
ノンナが選んでくれたのだろう。その細やかな心遣いが、嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
「セフィナ」
名を呼ばれ、顔を上げる。
カイルが、まっすぐこちらを見つめていた。
視線を返すと、彼は唇をきゅっと結び、ゆっくりと机に両肘をついた。
「この前のこと、謝りたくて来たんだ」
その一言に、セフィナの心臓がふっと跳ねる。
「あの任務の夜、最低な姿をセフィナに見せちまった。本当にすまないと思ってる。理性も配慮も足りなかった」
目を逸らさずにそう言い切ると、短く沈黙を置き、拳を握りしめたまま続ける。
「あと、もう一つ。謝らないといけない事があるんだ。
俺……セフィナとずっと二人でいたくて。他にもあんた狙いの奴らがいたのに、ギルドに根回しして、そいつらと組ませないようにしてた。
ただ、セフィナの一番になりたかった。それだけの勝手な理由で。
あんたには別の未来や可能性があったかもしれないのに……俺が、それを潰したんだ」
セフィナは目を見開く。
まったく知らなかった。そんなことを、裏でカイルがしていたなんて。
「こんな事、言う資格がないかもしれないけれど、俺はセフィナのことが好きだ。
仲間とか相棒とか、そういう意味でも唯一だと思ってる。だけど、それだけじゃなくて。
……一目惚れ、だったんだ。最初に出会った時から、ずっと」
喉の奥に、少しだけ照れが滲む。
それでもカイルは、言葉を止めなかった。
「信頼されてるのは、わかってた。相棒として好かれてるのも……自惚れでなければ。
でも、もう。それだけじゃ嫌なんだ」
俯き、膝のあたりを見つめたまま、静かに息を吐く。
「あの夜、最低なもんを見せたのに、あんたは怒らなかった。責めもしなかった。
それが余計にきつくて……ああ、やっぱり俺のこと、男としては見てないんだな、って……」
顔を上げ、真っ直ぐにセフィナを見据える。
「俺は、セフィナの隣にいたい。男として、あんたに選ばれたい。
受け入れられないなら、それで構わない。無理せず断ってくれていい。
剣士や交渉役が必要なら、今まで通り同行する。けど……顔も見たくないって言うなら、俺はこの街を離れるから。安心してくれ」
言い切った声には、迷いがなかった。
しばらく、言葉が出てこなかった。
けれど、答えはもう決まっている。あとは、ひとつずつ伝えていくだけ。カイルなら、受け止めてくれる。
「……カイルのこと、信じてた。だから、ずっと一緒に組んできた。背中を任せたいって思ってた。
だから、今の話を聞いて──ちょっと……いや、結構ショックだった。
そんなに色々考えて、動いて、守ってくれてたのに、私のことを最後まで信じ切れてなかったんだなって」
セフィナは、自分でも苦笑してしまう。
怒っているわけではない。ただ、その一点が、やはり少しだけ悲しかった。
「“もしも”の出会いを潰すっていうのも、普通に考えたらひどい話だよね。
でも……それでも、って思っちゃった。
私、人と関わるのがすごく苦手で。うるさい人とか、馴れ馴れしい人とか、どうしてもダメで。
それなのに、カイルと組んでから、ずっと快適だった。
どの依頼も無理がなくて、周りも尊敬できる人たちばかりで、『私、恵まれてるんだな』って、ずっと思ってた」
セフィナは指先でテーブルの縁をなぞる。
「多分、それも……カイルが選んで、整理してくれてたんだよね。今の話でやっとわかった。
ひどいなって思う。でも、それ以上に、嬉しいし、ありがたいって気持ちの方が大きかったの。
……うん。今の話を聞いても、私にとってカイルは、一番に信頼できる人だって、やっぱり思っちゃう」
カイルは信じられないといった表情で、セフィナを見つめていた。
唇が、かすかに震えている。
「カイルのこと、相方としてずっと好きだったけど──
あの時……その、カイルが……ひとりで、してるのを見ても、不思議と、本当に、全然嫌じゃなかった。
それよりも、かっこいいって思って。色っぽいというか……魅力的というか。
……その、もっと見たいかもって。あとから、ひとりになってから、じわじわ思って……しまって……」
語尾が小さくなっていく。耳まで赤いのが自分でもわかった。
それでも、ここから先も伝えなければならない。
恥ずかしい。けれど、カイルに聞いてほしい。自分の気持ちを知ってほしい。
「……私、帰ってから落ち着かなくて。何も手につかなかった。それで、ひとりで……してみたの。
知識はあったけど、今まで興味なくて、初めてで。最初はなんにも感じなかった。
でも、カイルが私にどんなふうに触れてくれるんだろうって思いながら続けてみたら……すごく気持ちよくて、びっくりした」
そこで、いったん息を継ぐ。
「途中で、あの時のカイルが私の名前を呼んだのが、“たまたまそこにいた女だったから”だったのかもって、ふと思っちゃって。
そしたら……すごく嫌だった。涙が出そうなくらい。
その時、気づいたの。私、カイルのこと……男の人として好きなんだって」
言い終えて、一呼吸置く。
セフィナの告白を受けても、カイルはしばらく動かなかった。
視線だけが、まっすぐにこちらを捉えたまま。言葉も表情も追いついていないような、唖然とした顔だ。
やがて、その瞳にぐっと力が宿ったかと思うと、唐突に自分の頬を強く叩いた。
ばちん、と鋭い音が部屋に響く。
「カイル!?」
思った以上の力で叩いたらしく、彼の頬には赤みが浮かんでいる。
けれどなぜか、その痛みに安堵しているようにも見えた。
「いや……悪い。ちょっと、夢なんじゃねえかって。あまりにも、こんな……俺に、都合が良すぎる」
その姿はどこか子どもじみているのに、本気でそう思っているのが伝わってくる。
嬉しさより先に疑いが勝ってしまうところが、いかにも彼らしい。
「だからって、そんな……!」
セフィナは椅子を引いて立ち上がり、そっと彼の頬へ手を伸ばした。
魔力を込めて、少しでも痛みを和らげようとした──ただ、それだけだったのに。
「ダメだ!」
カイルの手が、反射的にセフィナの手首を強く掴み、引き離す。
その勢いに、思わず眉をひそめる。すぐに彼は力を緩めた。
その時、ふと視線が重なった。
カイルに気持ちを届けたくて、セフィナは身を寄せ、唇を重ねる。
軽く触れ合うだけの、浅いキス。
彼の頬の熱と、その奥にある躊躇いが、吐息越しに伝わってくる。
「夢じゃないよ、カイル」
そっと囁き、柔らかく笑みを向けた。
カイルは静かに立ち上がり、彼女を包むように見下ろす位置へと歩み寄る。
セフィナが身じろぎもせず見上げると、伸びてきた腕がためらいなく背中へ回った。
ゆっくりと引き寄せられ、彼の胸元にそっと顔を預ける。
「……ほんとにいいんだな。今さら“やっぱ嫌だ”って言われても、もう離してやれないぞ」
「こんなに……全部で示してるのに。まだ私のこと、信じられない?」
腕越しに伝わる体温が、少しだけ上がった気がした。
セフィナは、ずっと伝えてきたつもりだった。
言葉で、態度で、『ありがとう』『頼りにしてる』『あなたといると安心する』と。
「……そうだったな。いつだって、セフィナの言葉は真っ直ぐで。……まっすぐすぎるほどだった」
はあ、と静かにこぼれた息が、彼の感情の深さを物語る。
背に回された手は優しく、存在を確かめるように、何度もそっと撫でてきた。
そのぬくもりが、ゆっくりと胸の奥まで染み込んでいく。
人の温もりって、こんなに優しいものだっただろうか──そんな思いがふとよぎった。
彼の顔が近づいてくる気配に、自然とまぶたが落ちる。
唇が重なり、軽やかなキスがいくつも繰り返される。
熱を帯びた瞳も、かすかに漏れる切なげな吐息も、すべてが心地よくて、身体の奥で静かに膨らんでいく欲を止められない。
指先が、そっと頬の線をなぞる。
その瞬間、びくりと肩が大きく震えた。自分でも驚くほど、感覚が研ぎ澄まされている。
『本物だ』──咄嗟にそう思う。
ずっと触れられたいと願っていた、その指が、そっと顔の角度を変える。
舌が、そっと触れてきた。
怖さはなかった。ただ、知らない感覚に少し戸惑いながら、舌先をそっと重ね合わせる。
触れて、離れて、また重なる──そんな探るようなキスが、ゆっくりと深まっていく。
「ぅ、ん……」
甘い音が唇から零れ、喉の奥からかすかな息が漏れた。
唇が離れても、意識は追いつかない。熱を帯びたまま、わずかに開いた口元を、カイルがじっと見つめているのがわかった。
「セフィナ」
名を呼ばれ、隙間がなくなるほど、ぎゅうっと強く抱きしめられる。
少しだけ、革鎧の硬さが身体に当たって痛い。
その些細な不快さがもどかしくて、もっと深く、もっと近くで触れ合いたいという衝動が胸に湧き上がる。
どう伝えればいいか──セフィナは、そっと視線をベッドへと向けた。
それを見て、察してくれたらしいカイルが、低く囁く。
「……任せとけ」
その一言に、全身がぞくりと震えた。
気づけば身体が宙に浮き、軽々と抱き上げられ、ふわりとベッドへ降ろされる。
彼が手早く装備を外す音が響いた。
革鎧や腰の装具が、床へと重い音を立てて落ちていく。セフィナはそれを、静かに見つめていた。
装備を脱ぐ彼の姿は、同行者として何度も見てきたはずの光景なのに、今日はまるで違って見える。
装備を脱ぎ終え、シャツとスラックス姿になったカイルと、目が合った。
その視線には、まっすぐで揺るがない熱が宿っている。
今、目の前にいるのは、紛れもなくセフィナにとっての“ただひとりの男の人”だった。
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