R18 短編集

上島治麻

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⚠️SM風味


やたらと手触りのいい高そうなハンカチを拾い上げ俺はそいつに声をかけた。
 
 「おい、これてめーんだろ?落としたぜ。」 
 珍しいこともあるもんだ。何でもそつなくこなす優等生殿が落し物なんてな。 
 そんでもって嫌われ者の不良である俺が、落し物を拾うなんてのも珍しい。だがまあ、たまにはこんな気まぐれもいいだろう。 
  俺なんぞに声をかけられたことで取り巻き共が騒ぎ出したがそいつはいつも通り嫌味なくらい完璧な笑顔をうかべて、ああ、ありがとう。大切な物なんだと言った。
 俺はそのままハンカチを渡そうとした。わずかにそいつの手と俺の手が触れる。
 その時だった。他の誰も気づかなかったろう。あいつも俺が気づいたと思っていなかったと思う。けど俺は気づいた。
 あいつと触れ合った瞬間、あいつが俺を見た。
 それは温度まで感じそうなほど暗い嫌悪の目だった。まるでじくじくと腐汁が染み出しているゴミでも触ったかのように俺を見ていた。
 その目で見られた瞬間、俺の背筋にぞくりとしたものが走り、動悸は跳ね上がった。
 どうしたんだい?と聞いてくるあいつに、べ、別にどうもしねぇよ…とどもりながら答え、俺はその場を後にした。
 
 こっそりと奴をつける。
 あいつは取り巻き共と分かれると一直線に便所に向かい、さっき俺から受け取ったハンカチを無造作に捨て、念入りに手を洗っていった。そして俺は物陰からあいつを見送り、いつのまに便所に入ったのか…あいつの捨てたハンカチを拾い上げていた。
 やわらかなハンカチに包ませて、自慰に耽る。
 「…ハァ、…ハァ。」
 思い浮かべるのはあいつの目。
 恐怖、嫌悪、怒り、色んな眼差しで見られてきたが、あいつのはなんかちげーんだ。もっと熱くて冷たくて、ゴミ以下でも見るかのような眼差しだった。
 「ハァ…ッ…ハァ……アグゥッ!」
 あの目で見られていることを想像しながら俺は果てた。
 「何やってんだ…。相手は男じゃねえか。」
 1.

「それでね、鮫島君、授業は出てなかったけど、課題はけっこう間に合ってたじゃない? だからね、補習を受ければ試験受けさせてもらえるように、先生がね」
 
「おー…」
 目の前でばたばた腕をふりながらいっぱいいっぱいでしゃべってる女の話に、いつもならさっさと教室を出て、どっかで時間つぶしするんだが、
今の俺は席を立つに立てないでいる。
「ちょっと放課後残ってもらうことになっちゃうけど、鮫島君、部活とかもやってないし…えと、でもそれにもう三年生だから部活もみんな押さえ気味になるんだけどね?」
 「・・・あー」
 …まじいなあ。  
 
  授業が終わると同時に俺は「斜め前」を睨むのをやめて、そのまま机につっぷして寝ようとしてた。そしたら、クラスのパシリ野郎が怒鳴られたりどつかれたりしてるのをすぐそばでうっかり見ちまって。
 
 …くそ、勃起、しちまった。
  このまま席を立ったらさすがに、男の奴らには見ただけで俺が勃起してるってばれちまうだろうし、この女はうぜぇけど、今立ったら俺がこいつに興奮してると思われるから立つわけには行かない。冗談じゃねえ、誰にでもハアハアすると思うなよな。
 なんて思ってる間にも男子全員に勃起してるのがばれるっていう想像が思ったよりヨクて、問題の馬鹿チンコはますますでっかく固くなってくわけで。
 背中に変な汗が浮いてくる。俺は机に顔を押し付けた。
  「…鮫島君どしたの?具合、悪い?」 
  「うぜえ」
  肩に触ってきた手を振り払うと、ちょっと泣きそうな顔をする。あー、めんどくせーな。
 こいつは委員長だかなんだか、ことあるごとに俺にこうやって話しかけてくる変な女だ。みんな俺のことは怖がって避けてるっていうのに、こういう善意まるだしで来る奴は苦手だぜ。女子全員のサイテーコールを浴びるのも悪くはねぇんだが、その状態で勃起してるのがばれるのはちょっと…[l]
ってああ、ちくしょ、また固くなっちまった。
 俺が欲しいのはこういう反応じゃねえんだ。
 もっと、こう…。 

「鮫島くん…」
  俺の名前を呼ぶとこの女、委員長はいきなり俺と同じ高さの目線になって俺を見つめた。
 「君がどうして立てないのか当ててあげようか?」
 さっきまでのオロオロとした顔とはうって変わって、なんだか笑顔だ。逆に声のトーンは低い。女のこういう予測できねえ行動は普通にこええ。嫌な汗が反射的に出ちまう。ついでに我慢汁も出ちまいそうだ。くそ。
 ぐいぐいとした刺激を股間に感じる…うう…ん?
「ちょ、こら! 何、人の股間足で押してんだよ? やめろバカ!」
「私ね? 知ってるんだよぉ?」
 く、お、押す力強めんな!
「な、なにをだよ?」
「私見ちゃったんだもん」
「だからなにをだよ!?」
「君と海老原くんがいやらしいことしてるところ」 
「………はっ…!?」
「びっくりしたよぉ? クラスじゃ突っ張ってる君が優等生の海老原君に翻弄されてたんだもん。ていうか優等生はやっぱり違うね~。君みたいな不良相手でもそつなくこなすんだからね~。あれ? な~にこの湿っぽい感触?やだ! 鮫島くん、カウパーだだ漏れじゃない! しんじらんなーい!!!! 足で踏まれて、言葉で攻められて感じちゃってるの? 君、人間としてのプライドある?ないよねぇ?こんなことされて喜んじゃうんだもんねぇ? ホント、人間未満だねおかしい、みんな君がこんな虫けらだって知ったら笑っちゃうよお?」
「おい、脅すつもりか?そんな話言いふらしたって誰も信じるわけ…」
「あたりまえなこと言わないでよ。絵に描いたような優等生の海老原君が不良の君と不純同性交遊してる、なぁんて信じるわけないもの。馬鹿じゃない?」
「ひ、く、だ、だったら!」
「嫌ね、これだから人間未満のヒトモドキは…。そんなの、決まってるじゃない」
 ぐり…。
「うあ、くあっ…!」
 その時の委員長の声色ときたら、あいつの比じゃなかった。それに加えて足の圧力も更に強まり…。
 …不覚にも俺は射精しちまった。
「ねえ、わかってるんだよね? 決まってるでしょ?私の…」
「ああ…」
「ねえ! ちょっと鮫島くん!」
「…ん?お、おお?」
 ちっ。まだいたのかこいつ。これから妄想俺はお前の奴隷にされて、その上、海老原との関係の継続も要求されてどっちが俺の本当のパートナーになるか苦悩するってドキドキな妄想展開だっつーのに!
「なんだってんだよ」
「だから、今日の放課後から補習をするから、残って受けてほしいのっ…」
「お、おお…」 
 半分叫ぶような委員長の勢いに押されて(あと、爆発寸前のダイナマイト抱えてるせいもあって)、俺はつい首を縦に振ってしまった。
 委員長はやっと伝えられてて嬉しい、とでも言ったような100点満点顔で笑うと、「具合悪そうだったのに、ごめんね」と言って、そそくさと女子たちの輪に戻っていった。
 「っう…」 
 だめだ、もう限界だ。ズボンのポケットから手をつっこんで、目立たないように押さえながら俺は席を立った。もう、こりゃどっかで抜かねぇと駄目だ。 
 教室を出る時に、女子たちの輪の中心にいる「そいつ」の顔をちらっとうかがうと、一瞬だけ目があう。いつものすまし顔で、お上品に笑ってやがった。
 「…ちっ」
 舌打ちで仕切りなおして、そのまま教室を出る。せめて単に便所に行きたい奴に見えてたらいいんだがな。
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