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厨二かまちょ弟×関西弁兄
「なにやっとんねん」
カッターを振り上げようとしたその時、声がかかった。
「お前な、さすがにそれはアカンやろ。人の気ぃ引きたいからて。まじあほちゃうか」
かちん、と音がなったようだった。なにを。何を言っているのだこの人は。僕がどんなに苦しいか何も知らないくせに!
「ちがう! 僕は人の気をひこうなんてしていない! 僕は――」
「はぁ? んなはずないやろ」
ぴしゃり、と放った言葉が遮られる。そこからは怒涛だった。
「何や世界で自分が一人だけみたいな顔してからに。
周りに迷惑ばっかかけて結局カッターで自傷。典型的なパターンや。
どうせそれで自分を誰も見てくれないとかで悦に入っとったんちゃうんか。いじめられてるわけでもないし、マゾでないんやったらどう考えてもかまってちゃんやろほんま。阿呆いうなや」
「な、な、な…」
言葉が出ない。何か言いたいのに何も言えない。なんとか反抗したいのに、即座に言い返されるかと思うと、だって俺は。俺は。固まる俺を見て奴が鼻を鳴らす。
「ほうら、図星や」
そう言われてかっと頭に血が上る。熱くなる。赤く染まった視界のまま、俺は彼に拳を振り上げた。
「あーあ。ほんまあほっちゅうか…ばかやのう」
受け止められた拳が痛い。ぎりりと締めつけるように握られる。
「あーあ。まったく、ホンマになんやろかなー…」
なんで俺が守らなあかんねん。そう言われて、は、と目を丸くすれば、いつの間にか目の前に彼の顔が迫っていた。そのまますくい上げるように、唇に柔らかな感触がともる。
そして入ってきた未知の感触に混乱しながら、ぞくり、と言い知れぬ感覚が体中を這い回る。
なんだ。
…なんだ、これ。
やっと離された唇はなんともいえず赤く染まっていて、俺はそれを見てたまらない気持ちになった。どうしてだろう、のどか渇く。喉が渇いて、ひりついてたまらない。
「おー。正直やなあ自分。わっかりやすいわー」
まあええわ。俺も結構気持ちええし、と囁いて、彼は俺に馬乗りになった。白い鎖骨が青のシャツからのぞく。
「うん。決まりやな。じゃあまずは楽しもか」
ちろり、と口の端から出る彼の舌のその赤色に釣られるように食いついてしまえば、少し離してけらけらと楽しそうに笑った。そして手を差し伸べて、
「――おいで」
俺は誘われるまま腕を回す。
ああ、そうか。もうこの人から逃げたくない。逃げられない。手に入れたい。
抱きしめて押し倒したからだは熱い。僕のものだけでないその熱。なぜだろう。この人とは会ったことなんてないと言うのに、欲しくてたまらない。のどが渇く。満たされたい。飲み干したい。喰らい尽くしたい。そうだ、そう。
俺は今までどうしようもなく、このひとに飢えていたのだ。
「なにやっとんねん」
カッターを振り上げようとしたその時、声がかかった。
「お前な、さすがにそれはアカンやろ。人の気ぃ引きたいからて。まじあほちゃうか」
かちん、と音がなったようだった。なにを。何を言っているのだこの人は。僕がどんなに苦しいか何も知らないくせに!
「ちがう! 僕は人の気をひこうなんてしていない! 僕は――」
「はぁ? んなはずないやろ」
ぴしゃり、と放った言葉が遮られる。そこからは怒涛だった。
「何や世界で自分が一人だけみたいな顔してからに。
周りに迷惑ばっかかけて結局カッターで自傷。典型的なパターンや。
どうせそれで自分を誰も見てくれないとかで悦に入っとったんちゃうんか。いじめられてるわけでもないし、マゾでないんやったらどう考えてもかまってちゃんやろほんま。阿呆いうなや」
「な、な、な…」
言葉が出ない。何か言いたいのに何も言えない。なんとか反抗したいのに、即座に言い返されるかと思うと、だって俺は。俺は。固まる俺を見て奴が鼻を鳴らす。
「ほうら、図星や」
そう言われてかっと頭に血が上る。熱くなる。赤く染まった視界のまま、俺は彼に拳を振り上げた。
「あーあ。ほんまあほっちゅうか…ばかやのう」
受け止められた拳が痛い。ぎりりと締めつけるように握られる。
「あーあ。まったく、ホンマになんやろかなー…」
なんで俺が守らなあかんねん。そう言われて、は、と目を丸くすれば、いつの間にか目の前に彼の顔が迫っていた。そのまますくい上げるように、唇に柔らかな感触がともる。
そして入ってきた未知の感触に混乱しながら、ぞくり、と言い知れぬ感覚が体中を這い回る。
なんだ。
…なんだ、これ。
やっと離された唇はなんともいえず赤く染まっていて、俺はそれを見てたまらない気持ちになった。どうしてだろう、のどか渇く。喉が渇いて、ひりついてたまらない。
「おー。正直やなあ自分。わっかりやすいわー」
まあええわ。俺も結構気持ちええし、と囁いて、彼は俺に馬乗りになった。白い鎖骨が青のシャツからのぞく。
「うん。決まりやな。じゃあまずは楽しもか」
ちろり、と口の端から出る彼の舌のその赤色に釣られるように食いついてしまえば、少し離してけらけらと楽しそうに笑った。そして手を差し伸べて、
「――おいで」
俺は誘われるまま腕を回す。
ああ、そうか。もうこの人から逃げたくない。逃げられない。手に入れたい。
抱きしめて押し倒したからだは熱い。僕のものだけでないその熱。なぜだろう。この人とは会ったことなんてないと言うのに、欲しくてたまらない。のどが渇く。満たされたい。飲み干したい。喰らい尽くしたい。そうだ、そう。
俺は今までどうしようもなく、このひとに飢えていたのだ。
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