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それからというもの、ほぼ毎日、亮一と融はお互いの部屋を行き来するようになった。亮一が実家から持ってきたTVゲームを一緒にやったり、晩ごはんを食べたり、授業の課題を教えあったり、お互いの学校のことを話したりと退屈することはなかった。
融の雰囲気はただ明るいだけでなく、人を包みこむような温かさがあった。親しみのある話し方、子供っぽさと大人な面を兼ねそなえたしぐさ、パッと目につく柔和な表情全てが真島融という優しげな人格を表していて、日に日に亮一の恋心は大きくなっていった。
「ただいまー」
融が帰ってきた。
今日は亮一が融の部屋に先に来ていたのだった。鍵は事前に渡してくれていた。暇だったから夕食の準備をしてやっていた。
「亮一、今日何?」
「親子丼。冷蔵庫見たら全然食べ物なかったんだけど…。自炊しろよ融。この鶏肉もいつ買った? 冷凍されてたぞ」
「んー…、なかなかできないんだよ。亮一が作ってくれるからいいじゃん」
「えっ……」
思いがけないことを言われて亮一は手が止まった。何だか、今のセリフは前読んだ小説に出てきた新婚夫婦のようだ。
「…食費払えよ、お前はよく食うんだから」
ああ、こんなこと言いたいんじゃないのに。
どうしよう。嬉しい。胸がドキドキする。
「分かってるよー。でも、もういっそのこと、二人でルームシェアした方が安く済みそうじゃね?」
できることなら、すぐにでもそうしたいと亮一は思っている。が、やはりそれは無理だとも知っていた。
好きな人には…、融にはこんな自分の思いなんか知られたくない。
恥ずかしくてどうかなってしまいそうなのだ。経験もない、こんな夢見がちな自分が好かれる理由なんかあるのだろうか。
「もうすぐできるから、黙って食卓でも拭いてろよ」
「はーい」
ごまかして、その場は何とかやり過ごした。
「じゃあ、また明日ね」
「おやすみ」
お互いの部屋を行き来していると言っても、結局隣同士なのだから泊まったことはまだ一度もない。寝る時間になると、必ずどちらかが本来の部屋へ帰っていく。
「絶対その方がいい…」
帰宅した亮一は溜め息混じりにつぶやいた。
眠っている間も隣に融がいる。そんなシチュエーションを考えただけで、心臓が壊れそうなぐらいうるさく鳴る。
本当は自分の部屋に戻った後も落ち着かない。隣から生活音がかすかに聞こえただけでも、ピクリと聞き耳を立ててしまう。自分でも異常だと思うが、気になってしょうがない。
融がこちらの部屋に来て帰った後はもっと舞い上がっている。自室には融の残り香がして、彼に抱きしめられているような錯覚に陥るときがあった。
融は、日なたで干した布団のような心地よい匂いがする。やはりスポーツが好きらしく、かすかに汗の匂いがするけど、そんなの全然気にならない。
「…また、しちゃいそう…」
亮一は自分は淡白な方だと思っていた。性欲はないわけではないが、あまりリアルなセックスを想像しない。潔癖症ではないが、ハードな行為は好きじゃない。
融は…どんなセックスをするのだろう。どんなふうに相手を、恋人を抱くのか。あのたくましくもしなやかな体で。
今は恋人はいないと言っていた。融と話した恋愛絡みの話といえば、それだけだ。亮一も語るだけの内容がないので融とは恋愛の話はほとんどしない。
「…………」
初めて融が自分の部屋に入ってきた日のことを思い出して、亮一の息が少々乱れてきた。
亮一はその日融が帰宅した後に、自慰をしてしまったのだった。もちろん融を思って。元々、その行為すらもあまりしない性質なのだが、その日だけは違った。乱れに乱れ、生理的な涙が零れ落ちるほど激しく自身を掻いた。何度目かの射精を終え、声が漏れていないかとハッとして、ようやく自分が今、誰を思いながらこんなことをしたのかと気がついたくらいだった。
融を見ていると、胸がざわついて苦しくなることの方が増えた。見ているだけでは足りない。本当は融の全てが欲しい。そんな相手には出会ったことがなかったので、亮一は最近の自分にかなりとまどっていた。
「あっ…」
今現在だって、すでに下半身はうずいて少しずつ反応している。
ベッドに移動し、壁にもたれてあぐらをかく。ベルトをカチャカチャと外し、ジーンズを下げた。下着をずらすと、それはもう半分以上頭をもたげていた。先端は濡れてしまっており、布に染みができてしまいそうだ。
「はあ…はあ…。ん……」
先端をクチュクチュと指で挟むと、自然と声が出てしまう。愚かな自分の分身は反応に顕著で、どんどん膨張していく。
「んっ……あっ、あぁ…ひ…」
足元の邪魔な衣類を蹴飛ばしながら完全に脱ぎ去り、痛いほど張りつめている自身を扱いた。
ピクンピクンと脈打っている。上下に手の平でこすると皮が動いて、快感に腰が波打つ。
亮一は目をつぶって、融にされていると想像した。融の大きな手で自分の性器を撫で回される。
「あ…あぁ…とお、る…」
(亮一…、気持ちいい?)
融の幻聴が聞こえてきそうなくらい、亮一は無我夢中だった。先走りの液の量もいつもより多く、それはぬめりを伴ってさらなる快感を呼んだ。
「だ、め…もう…」
放出する瞬間、陰茎がブルリと震えた。
「あ…あああああー…」
かすれた小さな喘ぎ声を上げ、亮一は達した。勢いよく飛び出す精液を手の中で抑える。ギシギシとベッドが揺れているのも、背中越しに想い人の部屋の壁があることも今は気にしていない。ありとあらゆる体裁が剥がれおちている間は、亮一だって乱れて思考が追いつかない。
「はぁ…はっ……」
亮一の呼吸はなかなか整わなかった。一回だけの射精では満足できなくなってきている。
並みの成人男性ならそれが普通なのだが、今までの亮一と比べるとその回数はかなりの進歩だった。前は一回目の途中ですら気だるくなり中断してしまうことが多かったのだが、融のことを思ってすると、止まらなくなる。
「融ぅ……」
今夜はとりわけ歯止めがきかなくなっていた。
亮一は少々ためらいつつも、今度は自分の精液で濡れた左指を後ろの蕾にまで持っていった。ありとあらゆるメディアなどで、ゲイがここを使うことはやはり知っているが、触るのは今日が初めてだった。
「ふ…ぅ…」
汗で湿っているが、蕾はまだまだ固い。精液を襞にすりこませるように丁寧に塗っていく。亮一は自分のしやすい体勢に自然と体を動かし、あぐらから四つんばいへと格好を変えていた。空いている右手で再び立ち上がりかけている性器や、布にこすれて固くなっている乳首もいじりまわす。
「んん…はっ…はぁぁ…」
顔面を布団にこすりつけ苦しくても亮一は止めなかった。尻が勝手に浮き上がり、自分では見えないがあられもない格好をしている。
思い切って人差し指の先だけ挿入してみた。第一関節のさらに半分あたりまでだ。ほんの入り口の境目という感じで、まだ穴の中まで入っている気配はない。下半身に力をこめると、ちょうど指の上あたりがキュッと締まった。もう少し先へ進まないといけないと思った亮一は奥へと指を突きたてた。
「んんっ……」
ピリッとした痛みが走ったと同時だった。
隣からこちらの壁を叩く激しい音がした。
「! ひっあ…」
驚いた亮一は慌てて指を抜き去り、見られるわけでもないのに下半身に布団をかぶせた。もう少しで頭から落ちて、床へひっくり返るところだった。
どうやら融ではない方の隣らしい。それが唯一の救いだった。ゴンゴンという激しい音から抗議の度合いが知れる。そんなにうるさかったのだろうか。
「……俺って、恥ずかしー……」
真っ赤な顔で、そのまま亮一は布団に勢いよく潜りこんだ。濡れたままの萎えた茎が内ももに当たって気持ち悪い。そんな沈んだ気分も手伝ってか、後はひたすら自己嫌悪に陥っていた亮一だった。
融の雰囲気はただ明るいだけでなく、人を包みこむような温かさがあった。親しみのある話し方、子供っぽさと大人な面を兼ねそなえたしぐさ、パッと目につく柔和な表情全てが真島融という優しげな人格を表していて、日に日に亮一の恋心は大きくなっていった。
「ただいまー」
融が帰ってきた。
今日は亮一が融の部屋に先に来ていたのだった。鍵は事前に渡してくれていた。暇だったから夕食の準備をしてやっていた。
「亮一、今日何?」
「親子丼。冷蔵庫見たら全然食べ物なかったんだけど…。自炊しろよ融。この鶏肉もいつ買った? 冷凍されてたぞ」
「んー…、なかなかできないんだよ。亮一が作ってくれるからいいじゃん」
「えっ……」
思いがけないことを言われて亮一は手が止まった。何だか、今のセリフは前読んだ小説に出てきた新婚夫婦のようだ。
「…食費払えよ、お前はよく食うんだから」
ああ、こんなこと言いたいんじゃないのに。
どうしよう。嬉しい。胸がドキドキする。
「分かってるよー。でも、もういっそのこと、二人でルームシェアした方が安く済みそうじゃね?」
できることなら、すぐにでもそうしたいと亮一は思っている。が、やはりそれは無理だとも知っていた。
好きな人には…、融にはこんな自分の思いなんか知られたくない。
恥ずかしくてどうかなってしまいそうなのだ。経験もない、こんな夢見がちな自分が好かれる理由なんかあるのだろうか。
「もうすぐできるから、黙って食卓でも拭いてろよ」
「はーい」
ごまかして、その場は何とかやり過ごした。
「じゃあ、また明日ね」
「おやすみ」
お互いの部屋を行き来していると言っても、結局隣同士なのだから泊まったことはまだ一度もない。寝る時間になると、必ずどちらかが本来の部屋へ帰っていく。
「絶対その方がいい…」
帰宅した亮一は溜め息混じりにつぶやいた。
眠っている間も隣に融がいる。そんなシチュエーションを考えただけで、心臓が壊れそうなぐらいうるさく鳴る。
本当は自分の部屋に戻った後も落ち着かない。隣から生活音がかすかに聞こえただけでも、ピクリと聞き耳を立ててしまう。自分でも異常だと思うが、気になってしょうがない。
融がこちらの部屋に来て帰った後はもっと舞い上がっている。自室には融の残り香がして、彼に抱きしめられているような錯覚に陥るときがあった。
融は、日なたで干した布団のような心地よい匂いがする。やはりスポーツが好きらしく、かすかに汗の匂いがするけど、そんなの全然気にならない。
「…また、しちゃいそう…」
亮一は自分は淡白な方だと思っていた。性欲はないわけではないが、あまりリアルなセックスを想像しない。潔癖症ではないが、ハードな行為は好きじゃない。
融は…どんなセックスをするのだろう。どんなふうに相手を、恋人を抱くのか。あのたくましくもしなやかな体で。
今は恋人はいないと言っていた。融と話した恋愛絡みの話といえば、それだけだ。亮一も語るだけの内容がないので融とは恋愛の話はほとんどしない。
「…………」
初めて融が自分の部屋に入ってきた日のことを思い出して、亮一の息が少々乱れてきた。
亮一はその日融が帰宅した後に、自慰をしてしまったのだった。もちろん融を思って。元々、その行為すらもあまりしない性質なのだが、その日だけは違った。乱れに乱れ、生理的な涙が零れ落ちるほど激しく自身を掻いた。何度目かの射精を終え、声が漏れていないかとハッとして、ようやく自分が今、誰を思いながらこんなことをしたのかと気がついたくらいだった。
融を見ていると、胸がざわついて苦しくなることの方が増えた。見ているだけでは足りない。本当は融の全てが欲しい。そんな相手には出会ったことがなかったので、亮一は最近の自分にかなりとまどっていた。
「あっ…」
今現在だって、すでに下半身はうずいて少しずつ反応している。
ベッドに移動し、壁にもたれてあぐらをかく。ベルトをカチャカチャと外し、ジーンズを下げた。下着をずらすと、それはもう半分以上頭をもたげていた。先端は濡れてしまっており、布に染みができてしまいそうだ。
「はあ…はあ…。ん……」
先端をクチュクチュと指で挟むと、自然と声が出てしまう。愚かな自分の分身は反応に顕著で、どんどん膨張していく。
「んっ……あっ、あぁ…ひ…」
足元の邪魔な衣類を蹴飛ばしながら完全に脱ぎ去り、痛いほど張りつめている自身を扱いた。
ピクンピクンと脈打っている。上下に手の平でこすると皮が動いて、快感に腰が波打つ。
亮一は目をつぶって、融にされていると想像した。融の大きな手で自分の性器を撫で回される。
「あ…あぁ…とお、る…」
(亮一…、気持ちいい?)
融の幻聴が聞こえてきそうなくらい、亮一は無我夢中だった。先走りの液の量もいつもより多く、それはぬめりを伴ってさらなる快感を呼んだ。
「だ、め…もう…」
放出する瞬間、陰茎がブルリと震えた。
「あ…あああああー…」
かすれた小さな喘ぎ声を上げ、亮一は達した。勢いよく飛び出す精液を手の中で抑える。ギシギシとベッドが揺れているのも、背中越しに想い人の部屋の壁があることも今は気にしていない。ありとあらゆる体裁が剥がれおちている間は、亮一だって乱れて思考が追いつかない。
「はぁ…はっ……」
亮一の呼吸はなかなか整わなかった。一回だけの射精では満足できなくなってきている。
並みの成人男性ならそれが普通なのだが、今までの亮一と比べるとその回数はかなりの進歩だった。前は一回目の途中ですら気だるくなり中断してしまうことが多かったのだが、融のことを思ってすると、止まらなくなる。
「融ぅ……」
今夜はとりわけ歯止めがきかなくなっていた。
亮一は少々ためらいつつも、今度は自分の精液で濡れた左指を後ろの蕾にまで持っていった。ありとあらゆるメディアなどで、ゲイがここを使うことはやはり知っているが、触るのは今日が初めてだった。
「ふ…ぅ…」
汗で湿っているが、蕾はまだまだ固い。精液を襞にすりこませるように丁寧に塗っていく。亮一は自分のしやすい体勢に自然と体を動かし、あぐらから四つんばいへと格好を変えていた。空いている右手で再び立ち上がりかけている性器や、布にこすれて固くなっている乳首もいじりまわす。
「んん…はっ…はぁぁ…」
顔面を布団にこすりつけ苦しくても亮一は止めなかった。尻が勝手に浮き上がり、自分では見えないがあられもない格好をしている。
思い切って人差し指の先だけ挿入してみた。第一関節のさらに半分あたりまでだ。ほんの入り口の境目という感じで、まだ穴の中まで入っている気配はない。下半身に力をこめると、ちょうど指の上あたりがキュッと締まった。もう少し先へ進まないといけないと思った亮一は奥へと指を突きたてた。
「んんっ……」
ピリッとした痛みが走ったと同時だった。
隣からこちらの壁を叩く激しい音がした。
「! ひっあ…」
驚いた亮一は慌てて指を抜き去り、見られるわけでもないのに下半身に布団をかぶせた。もう少しで頭から落ちて、床へひっくり返るところだった。
どうやら融ではない方の隣らしい。それが唯一の救いだった。ゴンゴンという激しい音から抗議の度合いが知れる。そんなにうるさかったのだろうか。
「……俺って、恥ずかしー……」
真っ赤な顔で、そのまま亮一は布団に勢いよく潜りこんだ。濡れたままの萎えた茎が内ももに当たって気持ち悪い。そんな沈んだ気分も手伝ってか、後はひたすら自己嫌悪に陥っていた亮一だった。
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