R18 短編集

上島治麻

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41ー13

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『拝啓 凪月様
こんばんは。最近少しずつ寒くなってきましたね。私は、こないだテストだったのですが、凪月くんのブロマイドを見て、勉強を頑張ったところ、なんと今までで1番良い成績が出ました。これなら、志望校も受かりそうです。手帳に凪月くんのブロマイドを挟んだおかげだ、凪月くんは勉強の神様だなんて両親と話してます。私が凪月くんに出会ったのは小学生の頃なのに、もう受験の年かと思うと、歳をとるのは早いなぁなんて考えてしまいます。ところで、こないだ雑貨屋さんでモスローズの栞を見つけたんです。とても綺麗でついつい買ってしまいました。もし良ければ凪月くんにも使って欲しいな、なんて思って同封させてもらいました。これからも頑張ってください。あ、でも、無理しず、ご自愛くださいね。
誰よりも何よりも美しく静かに光る月のような貴方を愛しています。このモスローズの花に誓って。
敬具』
封筒を軽く振ると確かにモスローズの花の栞が落ちてきた。
「綺麗…」
手紙を読み終えて、栞を手に取った頃には不思議と苦しく無くなっていた。息が出来る。この差出人の書いてない一途な想いの乗った手紙が自分を救ってくれたのだ。ずっとずっと、この手紙の主だけが、血の繋がりのない他人の中で唯一自分を愛し続けてくれた。会ったこともないのに。己のことを月だと言って讃えてくれた。この、愛を手離したくない。この手紙の主に会いたい。ぎゅっと強く抱きしめる。思えばきっと、それが俺の初恋だった。
その日は手紙と栞を握りしめて寝た。次の日、正直に言えば母の顔も月音の顔も見たくはなかったけど、抱き締めたままの手紙がそっと勇気をくれる。意を決して扉を開けた時、母にいきなり抱きしめられた。
「え?」
「ごめん。ごめんね、なつくん。昨日、お母さん酷いこと言った。クッキー美味しかったよ。ありがとう。」
なつくん。なんて、いつぶりに呼ばれただろうか。まるで、小さい頃に戻ったみたいだ。母も疲れていて、カッとなって言ってしまっただけなのだろう。抱きしめる母の温もりは、ずっとずっと求めていたはずなのに、不思議と、なんとも思わなかった。扉を開ける前は確かに会いたくなかった気まづさくらいはあったのに、それすらなくなって、早く家を出ないと中学に遅れるから離して欲しいとすら思ったくらいだ。
「気にしないで。クッキー食べてくれてありがとう。」
母を、とりあえず離すだけに出した言葉は自分の口から出たのにまるで書いてある台詞を読むように空虚に感じた。
なぜだろうか?自分でも分からない。

その日から、母は月音にかかりきりになりながらも、俺のことも見てくれるようになった。テストで良い点を取れば褒められたし、家事手伝いは、お礼を言われるようになった。高校生になって少しずつ仕事が取れるようになる頃には学業優先でいいから仕事は無理しないでねなんて言われる始末だ。表面上は仲のいい家族。でも、母にわがままを言うことは無くなっていた。お菓子を作っても直接渡すことはしなかったし、テストだって本当は自分から見せてないのにいつの間にか母が気づいて褒められただけ。もう、信じて傷つくのは、耐えられないから何も誰にも望まない。差出人不明のファンレターとモスローズの栞さえあれば俺は生きていける。
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