R18 短編集

上島治麻

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お世辞にも頭が良いとは言えないので唯一受かった高校へは電車に1時間も乗らなければいけなかった。

 それだけでも最悪なのに、もっと最悪なのはこの路線が痴漢遭遇率の非常に高い路線だということだった。姉も何度か被害に遭っており、その度に家に帰ってきては八つ当たりの腹いせでプロレス技を掛けられていた。確かに家族の贔屓目ぬきで見ても可愛い外見をしてはいるが、何を好き好んでこの凶暴なメスゴリラを……とコブラツイストを食らいながら思わなくも無かった。

 とにかく、その路線はネットの掲示板でも『痴漢専用車両』『お前ら急げ! 今なら痴漢し放題!』などと揶揄される程度には最低最悪の環境なのである。

 が、所詮、痴漢被害などというのは女子に限った話であって男の自分には関係ないことだ……と文字通り他人事であった少年は、すぐに身を以ってその考えが浅はかそのものであったことを思い知ることとなった。

 初めて痴漢に遭ったのは入学してすぐの頃。

 寝坊して遅刻ギリギリで乗り込んだ車両でまだうつうつとしていると、何かが尻をサッと掠めたのである。最初は混んだ車両のこと、偶然、乗客の鞄か手でも当たったのだろうと気にも止めなかった。そんなことよりも前夜、ネトゲに夢中になりすぎて就寝したのが朝方だったため眠くて仕方がなかった。

 またウトウト船を漕いでいると今度こそ確かに何者かが尻をソフトタッチで撫で回していた。

「えっ……」

 おいおいマジかよ。僕は男なのに……
 ジッと息を殺して様子をうかがっていると気のせいではなく、マジに痴漢だった。
 同年代に比べて背も低く華奢な身体つきである。顔もどちらかというと、中性的で地味で大人しそうな顔立ちだったし、おまけに眼鏡までかけているし髪も伸ばしっぱなしだ。人と人がくっつきあう車内では制服までチェックすることが不可能なためか、どうやら地味系JKと勘違いされているらしい。

 尻を撫で回す男の手はねちっこく、指で割れ目を擦ったり、時には大胆にも薄い尻肉を鷲掴みにしたりした。

 ここで大声を出して咎められれば良かったのだが、内心でどんなにイキっていても生来気の弱い少年は痴漢に対して強い態度に出ることが出来なかった。痴漢被害のニュースを観る度に「黙ってないで拒否すりゃ良いのに……」と呆れていたのだが、あれは全くの間違いであったと身をもって知った。拒否したくてもできないのである。一方的な性欲を突き付けられるのは計り知れない恐怖だ。

 結局、少年は1時間の間だけ我慢することにした。

 今この時さえ耐えれば——

 痴漢の手つきはなかなかにテクニシャンだった。本来ならば脂ぎったおっさんに尻を撫でられるなぞ屈辱で不快でしかないはずなのに、背がゾクゾクと震えうっかりすると甘えたような声が出そうになったのでそれを堪えるのに苦労した。降車駅につく頃には足元がガクガク震えて意識して歩かないと転んでしまいそうな程だった。結局、学校には遅刻した。

 今日さえ耐えればいいと思っていた少年であったが、次の日も次の日も痴漢は現れた。拒否しなかったことが仇になり完全に体の良いターゲットとして認識されてしまった。

 毎度尻を撫で回されることから始まり、その手が太ももや足の間、足の付け根を相変わらずねちっこく撫で回した。最初のうちは気持ち悪かったのに、痴漢され続けていくうち次第に不快さよりも快感が勝つようになっていたが少年はそれを絶対に認めなかった。認めたらいよいよ変態の仲間入り、何もかもがおしまいだ。

 だが、少年のそういう健気さを嘲笑うかのように……痴漢の責めは手を変え品を変え続いた。
 
 

 痴漢との濃密な朝の1時間が早くも習慣になりつつあった頃、それまで尻や足を撫でていただけの手がついにスラックスのフロントにまで伸びた。

「——っ!」
「勃ってるね……」

 分からせるように猛りをグッと掴まれてビクッと肩を震わせる少年の耳元で、初めて痴漢の声を聞いた。手つきと同じくねっとりと粘着質なニチャニチャした声だった。端的にいうと不快な声だった。どうせ生まれてこのかた女にモテたことないキモオタに違いない……尤も、痴漢などと最低行為を恥ずかしげもなく毎朝繰り返してるような奴はたとえ爽やかイケメンだったとしてもロクデナシに相違ないが。

「もしかして毎朝チンポおっ勃てながら学校に行ってんの?」

 痴漢は嬉しそうに言いながらスラックス越しに少年のぺニスをなぞっている。痴漢の言葉は事実であった。毎朝、焦らすように触られて、解放される頃には痛いくらいに勃起していた。それを必死に鞄で隠しつつ足早にトイレに駆け込むと自慰をしていた。痴漢オナニーが毎朝の習慣になり、癖になりつつあった。

「ねえ答えてよ。無視すんなオイ」

 痴漢の大きな手が睾丸を包み込んで揉みしだいた。予想外の刺激に腰が相手の手の動きに合わせるように勝手にクネクネ蠢いてしまう。

「キンタマ揉み揉みされて気持ち良いんだ? いくら混んでるっても電車の中で誰が見てっかも分からないのに腰振って下品なガキだな♥」

 結論から述べると、その日、少年は初めて痴漢の手で絶頂させられてしまった。それも電車を降りるまでに5回もだ。最後の方は声を抑えることに必死になりすぎて身体の方は疎かになっていたので、下品に腰を振りながら下着のなかに大量の精液を漏らしてしまった。

「あーあ、これじゃ学校行けないね……」

 そう言って笑うと痴漢は電車を降りていった。
 一方的に絶頂させられて一方的に放り出された少年は茫然としかできなかった(当然、学校は無断で休んだ)。


 それを切っ掛けにしたのか何なのかは知らないが——その日以降、痴漢は朝だけでなく帰宅時にも現れるようになった。通学時間が決まっている朝はともかく、どんなに帰りが遅くなっても絶対に痴漢は現れて少年を触っては時おり言葉でも責めて下着を汚させた。

「マジで下品でスケベなオスガキだな」
「いつまで気取ってんだよ、さっさと本性現せや」
「ユイくんがアヘアヘ言ってる声が聞きたいなぁ~」

 よくもここまでペラペラと口が回るものだと思ったしいつの間にか名前まで知られているし……少年——吾妻ユイの全ては完全に痴漢に掌握されつつあった。

「じゃ、今日からは乳首の方も触っていこうか」

 ある日の夕方、痴漢が耳元でそう告げてくると問答無用でシャツの上から乳首を摘まんだ。その瞬間、ビリビリした電流のような感覚が全身を駆け抜けていった。アッと短い声を上げて、のけ反りながらイッたユイに痴漢の男はにたりと唇を歪めた。

「オイオイオイ、なんでちょっと乳首つまんだだけでなっさけないアクメかましてんだよ? もしかして普段から自分で弄っててクセになってんのかァ?」

 完全に油断していたところに乳首への一撃を受けあっけなく達してしまい「しまった」と思ったが、もはや遅い。痴漢が乱暴にシャツを引き裂くと薄汚れた照明の下に薄い胸が晒された。弾けたボタンがすぐ隣のハゲの後頭部にクリーンヒットしたのが目の端で見えて、状況が状況じゃなかったら笑ってただろうが無論今はそういう呑気な状況ではない。

 色黒で毛の生えた太い指が白い滑らかな肌の上をつつ……と滑ってゆく。指先に当たった絆創膏を意地悪くひっかくと容赦なく引っぺがした。そのちょっとした痛みにすら反応して全身が震えてしまうユイ。
 絆創膏が剥がれたあとから現れたのは、乳輪がぷっくりと膨らんだ乳首だった。いわゆるパフィーニップルというヤツだ。

「オイオイオイオイ~……なんだよこのエロ乳首は? マジで弄りすぎだろ……ちょっとヒくわ」
「っ……!」

 痴漢とはいえ他者に指摘されて恥ずかしさにカッと全身が熱くなる。中学の頃から乳首オナニーにハマって弄り続けた結果だった。友人どころか親にも見せられない恥ずかしいものという自覚と、もはや服に擦れただけでも射精しかねないほど敏感になってしまったので応急措置として絆創膏を貼っていた。それが最低な形で最低な相手に露見するとは……

「マ、ちょい惜しいが仕込む手間が省けたと思えばいいか……しかしお前、そんな地味でおとなしそうな顔しててチクニー狂いとかとんでもねえ変態じゃねえかよ」
「う……そんなこと……ぉっ、んおおほっ♡!」

 否定の言葉を言いきる前に乳首を思い切り引っ張られてユイは派手にイッた。ちかちかと目の前が極彩色の光でいっぱいになっていた。自分で触る時とは全然違う……快感の強烈さがダンチであった。

「大声出すと周りにバレるぞ」

 それはそうなのだ。ユイ自身もそれは分かっているから毎回どうにか必死に声を堪えていたのだが、痴漢はその努力を嘲笑うかのようにしつこかったし弱点がバレたとなっては尚更だった。

 今や痴漢は完全に両手を前に回してそれぞれ左右の乳首をいじめていた。ペニスのように扱いたり思い切り押し潰すようにしたり……かと思えば優しく指の腹で撫でまわしたりと責め手はバリエーション豊富だ。

「あっあっあああああ♡んっ、うんんんぅっ♡」
「何今更かわいこぶった声出してんだ! もっとさっきみたいな下品な声出して乳首アクメしろっ!」
「いぎぃ♡♡♡ひっぱっちゃ、らめっ♡! のびちゃうぅ……もっとみっともない乳首になっちゃうぅ♡」

 限界まで引き延ばされた乳首をピンピンとリズミカルに引かれると腰も同時に動く。制服のスラックス越しに震える尻が痴漢の股間にヒットして結果的に誘っているような形になっているのだが、すぐ目の前の快楽に夢中になっているユイにそんなことが気が付けるはずがない。

「この淫乱オスガキが! 大人をバカにしやがって!」
「そ、そんにゃこと♡! にゃあああああああああああっ♡」

 痴漢がついに背後から覆いかぶさった。両腕でぎゅうと抱きしめられながら引かれている乳首からの刺激が下半身に集中して下腹を甘く疼かせる。半ばぼんやりした視界に、何人かの人間が自分へ注視しているのが見えたがそんなものはすぐに射精の快楽に取って代わられた。下着の中で痛いほど勃起したペニスが震えて熱い白濁液を多量に吐き出す。布地が吸いきれなかったものが、じわりとした恥ずかしいシミとなってスラックスのフロントの色を変えた。

「あっ……はぁ……あ……♡」

 今までで一番の快楽に膝がガクつき立っていられないほどだが、背後から痴漢に抱きしめられているのでどうにか床にへたり込むような事態は避けられた。が、痴漢はまだしつこく乳首を弄っている。すぐに第二波が押し寄せてきてまだ固いペニスの尿道を精液が昇ってくるのが今度こそハッキリと感覚として分かった。

「まっ、んあっ♡またイっちゃうっ♡!電車で痴漢に乳首いじられてイっぢゃうぅ゛♡♡♡」
「実況とかしてノリノリじゃねえか! そんなやつエロマンガでしか見たことねえよ!」
「おっ♡イッく……ひゃううう!?」

 するりと内モモに差し込まれた手にユイはびくりと跳ねた。痴漢の手は依然として乳首を弄っているはずなのに……じゃあ誰が一体? と、重だるい首を持ち上げて確認すると、ついさっき後頭部にボタンがぶつかった隣のハゲであった。すでにハアハアと息を荒げている。ぎらついた目をしながらユイの内モモを撫でまわしていた。

「うあ……なんでぇ」

 見知らぬハゲの電撃参戦に驚いたが拒否する暇もなく上と下でそれぞれ手が動いて絶頂の高みに何度もブチ上げられた。

「キミが悪いんだよ? 隣でそんなえっちな姿見せられて我慢できる訳ないだろ」
「そんなぁ……アッ♡やあ♡」
「ったく、ガキのくせにいっちょまえに大人を誘惑しやがって! こいつぁわからせてやらねえとダメだな……」
「ふあっ!?」

 痴漢が急に支えていた手を放したのでとっくに脱力しきっていたユイはいよいよ床にへたり込んだ。その左右に手際よく勃起ペニスを露出させた痴漢とハゲがそれぞれ陣取ると、先走りをだらだら垂れ流すペニスの先端を乳首に押し付けてきたのである。

「ひぅうう♡!?」

 それぞれのペニスをブラシのようにしてガン勃ち乳首を擦られると脳内が焼き切れそうなほど良すぎた。何度も言うがこんな電車の中で、見知らぬ男たちにいいように性欲の捌け口として扱われているのにもかかわらず、ユイの身体は嫌がるどころかゾクゾクした快感と悦びに目覚めつつあった。

「このぷにぷにの乳輪もかわいいねえ♥」
「んぅ♡」

 ハゲが下卑た笑い顔を浮かべながら腰をグイと突き出してペニスで乳輪を突く。こってりとしたカウパーを塗りまぶされてテラテラとイヤらしく濡れ光った。

「オラッ! チンポで乳首しごかれてクッソみっともなくアクメしろっ!」
「地味系DKが乳首虐められて精液お漏らししてるところ乗客の皆に見てもらおうねえ~♥」
「ふええ……?」

 その言葉の通り、乗客らの視線の殆どがいつの間にかユイたちに集まっていた。

「ひっ……見ないれっ、あっ、見な、あっあっああああっっ」

 衆人環視に晒されながらユイは派手に達した。周囲からおおっという感嘆の声が上がる……ユイは知らぬことであるが、この車両は今や【そういうこと】が目的の者が乗り込むための場所であった。その劣悪な環境をもってしてネット上で『痴漢専用車両』などと見も蓋もない揶揄を飛ばされていたが事実だったという訳である。そうとは知らずに毎回乗り込んできては周りの劣情を誘い煽りまくったユイが『痴漢被害願望のあるお仲間』だと認識されてしまったのもむべなるかな。気が弱くて抵抗できなかったことも、その勘違いに拍車をかけた。
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