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恋人同士の夜*

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 シャワーを浴びて後孔の準備を終えた真山は下着だけを身に付け、先にシャワーを済ませ寝室で待つ桐野の元に向かった。
 桐野には一緒に支度をさせてほしいと言われたが、さすがに尻の洗浄を見られるのは恥ずかしかったので丁重に断った。
 恋人になった以上はいつかはそういう日も来るのだろうが、今はまだ恥ずかしさが勝ってしまってそんなことは考えられなかった。

 いつもふたりで眠る寝室は照明が落とされ、ベッドサイドのライトに柔らかく照らされていた。
 落ち着いた空気の流れる部屋で、桐野は下着だけの姿でベッドに腰掛けて待っていた。

「そーいちさん、風邪ひいちゃうよ」

 視線がぶつかると桐野は微笑み、真山を誘うように静かに手を差し出した。

「慎くん、おいで」

 甘やかな声に呼ばれると、鼓動が甘く応える。
 恋人同士として身体を重ねる初めての夜だと思うと胸が高鳴るのを止められない。
 真山の縋るような視線を受け止め、桐野は穏やかな笑みを湛えている。

 こんなことには慣れているはずなのに、これから桐野に抱かれるのだと思うと真山は嬉しさと緊張が同時に湧いてきて吐息を震わせた。

 桐野の前までやってくるとそっと手を取られた。桐野の手は昂りを物語るように熱い。真山は手を引かれ、誘われるままベッドに上がった。
 皺なく張られたシーツに静かに横になると、桐野が微かな衣擦れの音とともに覆い被さる。
 真山の視界は桐野で埋め尽くされた。
 桐野は影が落ちてもわかる真剣な表情で、真っ直ぐに真山を見つめる。その薄茶色の瞳に情欲の炎が揺れた。

「慎くん、その、君のを舐めてもいいだろうか」

 桐野の口からその言葉を聞くことができるとは思っていなかった真山は、間抜けな声を上げた。

「は?」

 そんな真山のリアクションに、桐野は意味がわかっていないと思ったようだった。

「この前もしただろう。フェラチオだ」
「ッ、い、言わなくていいって、わかるから」

 思わず上擦った声を上げてしまった。真面目で馬鹿正直な桐野に、真山の方が照れてしまう。
 改めて言葉にされるとこんなにも恥ずかしいものなのかと、真山は頬を熱くしながら思った。普段なら流れでするから、言葉にすることなんてほとんどない。

 桐野がまた口でしてくれるなんて思わなかった。真山はいつだって自分がする方で、フェラチオなんて物好きな相手がしたがる時くらいしかされたことがなかった。
 真山はアルファだ。バレたら困るし、そもそも好き好んで咥えようというアルファは少なかった。

「そーいちさん、してくれるの」
「ああ」

 桐野は真山の頬をひと撫ですると、身体を下にずらした。
 真山はそれを目で追う。鼓動はずっと早いままだ。
 下着を押し上げ芯を持ち始めた真山の昂りを、桐野の手がそっと撫でた。布越しに感じる桐野の温かな手のひらに、真山は息を呑む。
 慈しむような優しい手のひらは、熱い昂りを包むように擦って、真山に緩やかな快感をもたらした。

「させてほしい」

 桐野が真山を見上げる。薄茶色の瞳は、これから色事に臨むにはあまりに純粋な光を湛えていた。

「嫌じゃねーの?」
「ここだって君の身体だ。嫌なわけない。君のことは、全部知りたいんだ」

 桐野の言葉は真摯だった。
 身体を屈めた桐野に薄い布越しに鼻先を擦り付けられると、真山の身体がびくりと震える。
 全部知りたいと言われることがこんなに嬉しいなんて思わなかった。
 真山も、桐野に全部知ってほしい。
 今まで押し殺してきた恋人として当たり前の欲求が、こんなふうに甘やかに叶えられるのかと、真山はぼんやりと思う。

「ふふ、欲張りだね」

 真山は胸に湧く喜びを噛み締めながら桐野の髪をそっと撫でる。程よく弾力があってしなやかな髪は、真山の指先に柔らかな感触を残していった。

「舐めて。そーいちさん」

 甘くねだると、笑みが返ってきた。
 桐野の指先が真山の下着のウエストゴムをずり下ろす。顔を出した昂りはすっかり頭を擡げて、丸く張り詰めた先端を潤ませていた。
 桐野は何の迷いもなくそこへキスを落とす。
 敏感な箇所に触れる唇はとろけるように柔らかくて、それだけで頭の芯まで溶かされるようだった。
 勝手に吐息が漏れる。
 柔らかい唇が触れた後は熱く濡れた粘膜に包まれて、そのままゆっくりと深くまで飲み込まれていく。
 喉奥まで使って桐野は真山を愛でた。

「そ、いちさ、ふか、い。そんな、しなくていいよ」

 真山は声を震わせた。
 真山の下生えに桐野の鼻先が埋まる。桐野の喉がひくついて真山の昂りを締め上げた。苦しいはずなのに、桐野は深々と咥え込んでいる。

「そ、いち、さ」

 桐野の口から、昂りがゆっくりと引き抜かれる。

「っ、はぁ、気持ちよく、ないか」

 聳り立つ真山の幹を手で緩く扱きながら、口を離した桐野は真山を見上げる。薄茶色の目は生理的な涙で濡れていた。喉奥まで咥え込んでいたのだ、無理もない。

「ちがうよ。そーいちさん、苦しいでしょ」

 口を離しても、桐野は手を使いながら真山に緩い快感を与え続ける。そんな桐野の髪を、真山は労うように優しく梳いた。

「君だってしていただろう?」

 濡れた瞳を細め、唾液で濡れた唇を舐める桐野はひどく淫靡だった。

「そ、だけど」

 そう言われてしまうと、真山にはそれ以上言い返すことはできなかった。
 どちらがしないといけないなんてルールはないし、お互いが気持ちよくなれるならそのほうがいい。真山に比べれば経験が浅いはずの桐野の方が、本質を捉えているような気がして少し可笑しかった。
 正直なところ、真山は快感に乱れる自分を桐野に見られるのが恥ずかしかった。手解きをした人間としての矜持もあるが、何より、清廉な彼の手で自分が身も世もなく泣き喚くのを見せたくなかった。

「続けていいか? 慎くんのを飲みたい」

 そんなお伺いに、真山は頬を染める。

「もー、ほんと、どこで覚えたの」
「君が飲んでいたから。そういうものではないのか」

 桐野に許しを乞うような目で見上げられ、真山は言い返す言葉を失った。
 確かに飲んだ。決して美味しいと言える代物でもないが、行為に慣れすぎて、それが当たり前だったからそうしただけだ。桐野はそれをちゃんと見ていた。それだけのことだった。優秀な生徒だ。
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