細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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かおりと孝一

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 中学3年の秋、この頃になるとほとんどの学生は自分がどこの高校に行くかを決め、そこに向って取り組んでいる時期だろう。特に希望がなければとりあえず地元の普通科に進学、高校卒業後は就職と決めている人は商業科や工業科の高校を志す等、様々だ。かおりはまだ自分のやりたいこと、将来についてなどはこれ、と意識できるようなものがなかった為、地元の普通科の高校に進学する予定で勉強をしていた。

 幼馴染の孝一はかおりと同じ普通科の高校への進学を選んだが、現状の学力が充分ではなかった為、部活も卒業ということもあり、ほとんど遊ばず夏休みも勉強漬けで過ごしていた。かおりは合格ラインには充分達していたが、土曜日は決まって市内の図書館のフリースペースで勉強をしていた。そんなある土曜日、いつも座っているあたりの席を見回して空席を確保しようとしたところ、そこに孝一の姿があった。日常ではすれ違いざま挨拶ぐらいはするものの、映画館で会って以来なんとなく話をしずらい雰囲気があった。

 声をかけようか迷っていると、孝一の方もかおりに気づき向こうから声をかけてきた。「ひさしぶり。そういえばどこ受けるの?○○高を受けるつもりなんだけど、僕は正直厳しそうでさ。家でやるよりと思って来てみたんだよ。」「そうなんだ。私も実は同じところ。私はいつも土曜はここで勉強してて。今日席空いてそう?」「隣空いてるよ。よかったらどうぞー、できたら数学教えてもらえるとありがたい。そっちはたぶん余裕でしょ??」いつも通りの孝一に安心したかおりが返す。「そんなことないけど、せっかくだから隣空いてるなら、お邪魔しようかな。」

 そんなやりとりから隣で勉強することになった二人。孝一はたまにわからないところをかおりに尋ねたりしながら気になっていたことを、かおりに切り出してみた。「そういえば、彼氏とはどうですか??うまくいってます?」それとない様子で敬語で切り出す孝一。「うまくー…いってると言いたいところだけど、実は別れを伝えようと思ってて。何て言えばいいんだろう…。」てっきりうまくいってると思っていた孝一は少し驚いていた。話の内容と周りの学生達への迷惑も考え、フリースペースを離れ図書館併設の公園に二人で移動した。

 かおりは今の心境を孝一に話した。かおりの恋人の高崎はいずれ実家の医院を継ぐことになる。それで高校は東京の高校に通うように親に勧められていて、本人もそうするつもりとのことだった。しかし高崎はそれでもかおりとの関係は続けたいと思っているらしい。それ自体は、人にもよるができなくはないと孝一は思ったが、かおりの気持ちとしてはそこまでしてまで高崎と恋人でい続けたいかというと、そうでもない気分になってしまっている。当時は携帯電話も当たり前には普及していない時代で、今よりも遠距離恋愛は続けにくいものだった。かおりは特別飽きっぽい性格ではない、しかし出会った当初高崎に惹かれていたのは周りにあまりいなかった、同世代にしては落ち着いてなんとなく知的な男子という部分であり、それは付き合っていくうちに自分の中で恋愛において重要な気持ちとはそぐわなくなっていたのだ。高崎は気の利く男子であったし、目立たないほうではあるけれど、緩やかな凪にような性格で、付き合った女子はたいてい不幸にはならないのではないかと思う。

 しかし、かおりは自分でも説明できない、自分の中の、ある本質にこの時気付いていなかった。かおりはそれに気付くのが遅かった、結果それがかおりの後の人生においてとても大きな後悔と傷を生み出すことになる。

 「そうか…」孝一はこう漏らした後「で、どうするの?彼に言うの?」とかおりに聞いた。「うん…次に会ったときに言うつもり。引っ張るだけ彼にも申し訳ないし…うん!絶対言う。」「わかった。応援するよ。また進展あったら教えてね。」そう答えた孝一が、かおりにはなぜか少し寂しげに見えた。

その後二人は元のフリースペースに戻り少し勉強を続けた後、久しぶりに二人で歩いて家まで帰った。話の内容はほとんど勉強に関することだったが、そんな中孝一の気持ちだけはなんとも言えない、不思議な感情に落ちついていた。ずっと初恋の相手で幼馴染であったかおり、高崎と付き合っていると知ったときは正直動揺した。今はどうだろう、別れるといった初恋の相手にに何を思うだろう。

 この帰り道で彼も密かに一つの決断をした。見慣れた建物のはずなのに、どれもセピア色の写真を見ているようだ。海の向こうで煌々と凪を照らす夕日は赤く、実際の光よりもまぶしく感じて目に染みた。かおりと別れ、家に帰って部屋に戻るとわけもわからず、本当に久方ぶりに孝一の頬を涙が伝って止まらなかった。
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