細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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高校 画材屋の店員編

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 かおりは地元のショッピングモールを友人達と歩いていた。今は高校2年の春、始業式後、クラスの友人達数人と高校生になってからほぼルーティンワークと化している街ブラの最中だ。特になにを買うわけではないが、雑貨店をうろついたり、服を見てみたり、後はベンチにに座ってひたすらしゃべって時間をつぶしたり。

 中学卒業後、かおりは志望通りの高校に入学し、幼馴染の孝一も頑張ったことに加えてかおりの補助もあり、同じ高校に入学できていた。当時別れを告げた元恋人の高崎は、医者になるべく都内の有名進学校に無事入学していた。当時かおりは孝一に相談したその次の週に、高崎に別れを告げていた。彼としては別れたく気持ちと、離れすぎていてうまくいかなくなるのではないかとの不安もあったようで、お互いに前に進む為に、ということでなんとか受け入れてくれた。

 その後は皆高校に入学し、それぞれに日々を過ごしていた。ただ一つの大きな変化と言えば、孝一に彼女ができたことだろう。彼の初恋人は同じ高校の卓球部の部活の先輩で、彼女のほうからアプローチし、それを孝一が受け入れる形で恋人となった。しばらくの彼は有頂天だった。何せ初めての恋人だ。かおりも孝一に会うたびよくよくその浮かれ話に付き合わされていた。それが微笑ましくもあり、若干鬱陶しくもあり、自分も何か打ち込めるものを見つけるだとか、充実させたいとは考えていた。かおり自身は高校に入っても部活へは入っておらず(その高校には囲碁部がなかったので、なんとなくどこにもはいらなかった。)、この日いつも通り、友人とショッピングモールでくだをまいている中、かおりだけはいつもと違っていた。

 せめて趣味になる何かを見つけられないだろうかと各店舗を注視していたのだ。すると今まで友人と一緒だと訪れることのなかった店舗が目に入る。それはメインの店舗からは離れ非常階段へ向かう途中にある、駅で言えば靴の修繕の店舗が入っているような、極めて目立たないところにある店舗だった。かおりは友人と離れ一人でその店舗へと足を運ぶ。小さな画材店のようだ。延べ床面積12坪ほどだろうか。そこにはあの、絵の具の独特の油っぽいような、少し甘ったるい学校の美術室の準備室の匂いに似た匂いが漂っていた。「なるほど、絵画か。得意じゃないけど軽く足を突っ込むにはいいかもしれない。」そう思ったかおりはその店舗に足を踏み入れた。

 しばらく色々とみてみたが、一体何から揃えればいいいのかわからない。そもそもどのくらいのお金がかかるのか、自分のお年玉の残りとの相談だった。自分で考えても埒があかないと思い、レジに向かうが人がいない。「すみませーん。」と声をかけると、レジ奥からひょろっとした青年が顔を出した。「はい。お会計ですか??」穏やかですごく落ち着く声だった。画材店の店員のイメージが初老の男性というイメージであった為、少し意外さを感じながら訪ねてみた。「えっと、実はまだ始めようか迷っているぐらいの初心者なんですけど、例えば水彩画を始めるとしたらどんなものから揃えたらいいのかなってのを聞きたくて。」「んー、なるほど。僕も水彩画描くから、僕が始めた時の感じでちょっとお見せしますね。」と言い、店内のパレットやら、筆やらを案内してくれた。

 結果として始めるだけならなんとかお年玉の残りでなんとかなりそうだ。親にも相談しなくて済む。「では、これとこれとこれで。お会計お願いします。」と店員に言い、会計を済ませた。すると店員が「デビューおめでとう。最初は何から描くつもり??」と聞いてきた。かおりは正直何も考えていなかった。「うーん、家の近くが海なので、まずは海の景色をなんとなく描くことから始めようかと…」と言うと「いきなり海を描くの?経験者から言うと難しいような気がするけど…まずは、僕がたまに風景を描きに行くところがあって、そこは描きやすいような気がするし普通に静かでいいところだから、そこはどう?」と提案してくれたが、そこからなにやら不可思議な表現や哲学的な観点で構図について解説を始めた。ちょっと変わった人だな…と思いながらも、親切で助言をくれているので、「そういう助言すごく有難いです。場所聞いても大丈夫ですか?」と聞くと、なぜかものすごく嬉しそうだった。すごくいい人なのか、もしくはやはりちょっと変わった人だろう。場所の簡単な地図と経路を書いた紙を渡してくれた。

 お礼を伝え、店を後にすると友人達が店の周りをうろうろしながら待っていた。かおりが抱えた荷物に驚いていたので、説明しながらその日は帰路についた。寝る前に購入したものを整理しながら週末にさっそく描きにいくことに決めたかおりは、「あの店員さん、名札に“進藤”とあった。進藤さんか…いくつぐらいだろう25~6歳?、面白そうだし趣味友になってくれないかなー。」などと考えながら新しいことに多少胸を弾ませながら、眠りについた。
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