細めの雪にはなれなくて

雨門ゆうき

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崩壊の序章 其の三

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 19歳の秋の終わり、かおりは壊れ始めていた。オフィス街の街並みにも落ち葉が吹かれて舞うのが目立ち始める頃、かおりは都内で営業先を周っていた。徐々に冷たくなる空気とリンクするように、かおりの心も重くなっていった。

 営業活動が苦しかったせいもある。かおりが入社したのは今で言う完全な“ブラック企業”。一緒に入り励ましあった同期も、一年経たない内に残りは自分ひとりになっていた。入社当初は毎日狭い部屋でひたすら知らない相手にテレアポをする毎日で、電話帳を元に一日に100件以上の電話をかけ、またその結果によっては管理役の佐々木から精神的な恫喝を受ける。自分も含め精神的におかしくなっていく同期。

 そんな中、ある日唯一かおりだけが法人相手の営業を担当することになった。これはかおりにとっては気の晴れる思いだったが、残されたテレアポをしている同期のことがきがかりだった。外周りの営業は、テレアポよりも外に出られる分閉鎖的な気分に支配されることはなくなったが、これはこれできつい仕事だった。

 そして今日、いつも通り外周りを終え、帰社し、自分のデスクに座ろうとしたところで悲鳴が聞こえた。どこからだろう、おそらくトイレの方からだ。社員が皆おどろき唖然としていると、事務の女性が部屋に駆け込んできた。「女子トイレ…、女子トイレで!!新人の○○さんが…」半分錯乱しながらしゃべる女性に嫌な予感がいたかおりは誰よりも先にトイレに駆け込んだ。

 洗面所の配管から個室に向ってロープが伸びていた。恐る恐るそっと個室を開けるとそこにはぐったりとした同期の姿が。恐れていたことが起こってしまった、あふれる涙を抑えきれず嗚咽する中他の社員も次々とトイレに入ってきた。

 そこからはあまり覚えていない。警察がきて色々聞かれたりしたがどうでもよかった。葬式にも行った。会社が彼女を殺した。佐々木が彼女を殺した。周りの皆が彼女の心を壊した。かおりも自分もいつ、という中で追い打ちをかけるかのように、人と話すことが苦手になり、当然営業も上手くいかなくなっていった。さらに人が嫌いになった、嫌いとは違うかもしれない。

 全ての人間が泥の人形のように見えた。自分でも壊れていくのが分かっていたかおりには、週末に会える奏介だけが、心の拠り所であった。
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