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第15話 亜人解放 その1

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 辺境伯爵と密談を終えたマリは客室で泥の様に眠り、朝になり館の外に出るとマリに向かって駆けてくる2人の姿があった。


 「マリ様……おはよう」

 猫耳獣人のミケルがペコリとお辞儀をする。 その愛くるしい姿に、マリの頬はゆるゆるだ。

 「ちょっ……妹がすみません、マリ陛下。 おはよう……ございます」

 まだ辿々しい鬼人のルキも可愛らしくて堪らない。

 「おっはよーーー! 2人共、朝から可愛いねぇーーー!!! ぎゅー! むぎゅー! おめかしして、とっても可愛いし、格好いいわよ!」

 マリは可愛い服を着たミケルとスーツを着たルキを抱きしめて頬擦りする。

 「ふふ……マリ様、くすぐったい」

 「ちょっ!? 待っ!! 許してー!」

 喜ぶ妹と照れて逃げようとする兄を優しく撫でる。

 「いよいよ今日だね~、長旅で疲れてると思うけど……もうすぐ家に帰れるからね」

 「マリ様……さみしい?」

 「勿論さみしいよ? でも、それより2人が亜人の皆が家に帰れる方が嬉しい」

 「ミケル、陛下を困らしたらダメだぞ? それに、俺だって……」

 ルキが何かを言い掛けていたが、メリーが来たことで会話は途切れてしまった。

 「マリ陛下、おはようございます。 皆の準備が出来ました。 参りましょう」

 「おはようメリーさん。 じゃあ、2人はキサラギさん達と居てね? 直ぐに出発するからね~」

 昨晩、キサラギは亜人達の元から動く事は無かった。

 まだ朝の挨拶も交わしておらず、遠目で亜人達を纏めてる恋人を少し寂しげにマリは見つめる。

 (そっか……エルフの奴隷も沢山居たんだもんね。 知ってるエルフもそりゃ居るか……)

 エルフの女性達と話すキサラギを見ると、何故か胸が痛んだ。

 「陛下……?」

 メリーに話し掛けられ、現実に引き戻される。

 「んあ? あ、ごめんごめん。 行こっか」

 マリはキサラギを目で追いながら、メリーと共に砦へと向かう。

 長砦の向こう側、亜人達の領域に向けて。

 ◆◇◆

 「マリ陛下、おはようございます。 昨晩は楽しい時間を下さり、感謝申し上げる」

 砦には、鎧姿のルニア辺境伯爵が多くの兵達と待っていた。

 「おはよう、ルニア辺境伯。 こちらこそありがとう、楽しかったわ。 ジャックもおはよう、準備は出来てる?」

 「はっ! おはようございます陛下。 抜かり無く、亜人側へ送る宝等も運び込んでおります」

 跪き報告をするジャックを一瞥し、伯爵や兵士達を見回す。
 
 「ありがとうジャック。 では、これより亜人解放作戦を実行します。 亜人側の皆さんが警戒しない様に、ルニア辺境伯と兵達は砦で待機。 何があっても動かないこと」

 「なっ!? マリ陛下?! それはなりませぬ! もし、陛下の身に何かあれば王国がゆらぎます」

 ルニアが止めるが、マリの意思は固かった。

 「ありがとう、ルニアさん。 でもね、ここが正念場なの。 長年、家族を友人を……奴隷にしてきた王国が許しを懇願できる……最初で最後のチャンスなの。それなら、私の命を掛けるだけの価値があるわ」

 「マリ陛下は私とメリーが必ず守ります。 辺境伯爵殿は、どうか待機を」

 マリの左右にジャックとメリーが並ぶ。

 「ふふ、そうですわ。 必ずお守り致します。 私達の命に代えても」

 「ぬぐ……了解した。 マリ陛下、昨晩の話を私はお受けします。 なので……無事でお戻りを」

 「ありがとう、ルニアさん。 メリーさんとジャックもありがとう。 2人が一緒なら怖くないよ」

 メリーとジャックの手を取り、マリは覚悟を決める。

 (亜人側には、主人公の逆ハーレムに加わる4人の亜人がいる。 エルフ、鬼人、獣人、ドワーフ……英雄と呼ばれる4人の不評を買わなければ殺されはしない筈……大丈夫。 これを乗り切らないと、王国に未来は無い)

 微かに震える手を、メリーとジャックは優しく握っていた。

 ◆◇◆

 先頭をマリ、メリー、ジャック、後方に多くの亜人達を連れて長砦を抜ける。

 その先の広場には、既に多くの亜人達が待ち構えていた。

 以前から通達はしていたので、戦争にはならない筈だが亜人側には武装した兵士が大勢見える。

 「ふー……メリーさん、ジャック。 先に伝えとくね……もし、私が危害を加えられても……手は出さないでね」

 「「ダメです」」

 即答で断られ、マリは目が点になる。

 「ふえ……? え? いや、ダメだって」

 「「いえいえ、ダメです」」

 「えええぇぇー? だから、もしそれで亜人側と更に険悪になったらダメじゃん!」

 マリが抗議するが、メリーとジャックは前を向いたまま淡々と答える。

 「ですから、私とジャックは手出しはしません」

 「そうです。 ですが、陛下が刺されるなら私が刺されます」

 「マリ陛下が虐げられるなら、私が虐げられます」

 マリは悟った。 2人は仕える主が酷い目に合うなら、執事長とメイド長の我等が受けるつもり等だと。

 2人の固い意思にマリは困惑するばかりだった。

 亜人側に大分近付いた時、メリーの元に1人のメイドが駆けてくる。

  マリの知らない顔だ。

 メリーに何か報告した後、煙の様に消えてしまった。

 (え……!? 忍者? 忍者メイドなの!?)

 マリが目を開いていると、メリーが深刻な顔でマリに話す。

 「マリ陛下……報告です」

 マリとジャックは身構えてメリーの言葉を待った。

 「キサラギが消えました。 私のメイド暗部部隊が見失うとは……申し訳ございません」

 メリーの言葉に、ジャックもマリも酷く驚いた。

 「なっ!? メリーさん……メイド暗部部隊って何? え? そんなのあったの!?」

 「「そっち!?」」
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