75 / 231
第73話 代理国王ルーデウスと2人の王女
しおりを挟む
マリが辛口の酒を飲みながらカステラを嗜んでいる頃、エントン王国では民も兵士も城壁や街の復興に務めていた。
「そっちを片付けろ! 急げ、もうすぐ到着されるぞ!」
激しい戦争が終わった後のエントン王国は城壁も街もボロボロだ。 以前の美しい王国は見る影もない。
「おい、ドック王国の兵士! その瓦礫は其処じゃないだろ!」
エントン王国の兵士達が、生き残ったキャット王国とドック王国の兵士達と共に城壁の瓦礫を片付けている。
多くの兵士達が国を関係無く瓦礫を懸命に城壁の外へと運搬していた。
もし、キャット王国やドック王国の兵士達に今襲われたら今度こそエントン王国は終わりだろうがそんな事は絶対にあり得なかった。
「ん?! 大丈夫か! 誰か、医者を呼べ!」
1人のドック王国の兵士が疲労からか、地面に倒れた。
敗戦国の兵士等、奴隷と同じ扱いを受ける筈だがエントン王国の兵士は味方のように接していた。
その光景を見ていたエントン王国の民からも悪感情は少なかった。
何故、絶対にあり得ないか。
それは、ルーデウスの判断によるものだった。
◆◇◆
「すみません、この書類を直ぐに商業地区のメル伯爵にお願いします!」
ルーデウスは王城の執務室で忙しなく働いていた。
急ぎ目を通した書類に代理国王の印鑑を押し、待機していた伝令に渡す。
戦後の復興は山積みであり、更には今日中に他国の女王達や王が来る予定なのだ。
激しい戦闘があったのだ、完全には修復は難しいが少しでも見栄えを良くするためにこの数日不眠不休でルーデウスは執務にあたっていた。
「代理国王陛下! ルカ大臣より伝達です!! 大広間の準備は完了したが、姫様達の気分が優れてないようだ。 執務が一段落したら向かうように、との事です!」
「ありがとう、直ぐに向かうよ。 ウォンバット、居るかい?」
「はっ! 此処に」
執務室の扉が開き、包帯だらけの執事長ウォンバットが現れた。
ルーデウスは席から立ち上がり、ウォンバットを連れて執務室を退出する。
「これからキャミ王女とドーラ王女の部屋に行く。 彼女らの好物を準備しておいて」
「直ぐに準備して部屋に運ばせましょう」
「頼む、あ! ウォンバット、身体の火傷がまだ完治してないんだ。 無理しないでね」
先の戦争を乗り切ったルーデウスは以前とは比べ物にならない程に成長を見せていたが、まだ時折見せる優しい少年の面影に思わずウォンバットは微笑む。
「ご心配ありがとうございます、ルーデウス国王陛下」
「もう! 姉上が戻るまでだけなんだから、その呼び方は止めてってば!」
ウォンバットが笑いながら立ち去り、廊下を進むと会う兵士皆がルーデウスに敬礼していた。
ルーデウスは最後まで反対したが、大臣を任命されたルカに他国と渡り合うのに仮の代理国王では示しがつかないと指摘され、嫌嫌ながらも正式な代理国王に就任したのだ。
あくまでも、マリが帰還する迄の条件ではあるがこの世界での代理国王とは女王を亡くした夫である権限無き国王が国の実権を握る事を意味する。
民や兵士達の中では賛成する者が多く、反対した者は極少数だった。
今回の功労を評価し、ルカ大臣の薦めで奨爵されたメル伯爵とイサミ伯爵も賛成に周り他の子爵になった女貴族達からも反対の声は上がらなかった。
(このエントン王国の女王は姉上なのに、姉上がゴルメディア帝国の人質になったからギリギリの所で勝てたのに。 いや、ダメだ! 姉上が帰ってくるまで、僕がエントン王国を守るんだ!)
考え事をしていたルーデウスは、何時の間にか2人の王女が居る部屋に着いていた。
「ふぅ……。 私だ、ルーデウスだ。 失礼するよ」
代理国王の正装を正したルーデウスが部屋をノックし、入室した。
「これは、ルーデウス代理国王。 来てくれたか、良かった私ではダメなんだ」
部屋には困った顔のルニア侯爵が待っていた。
辺境伯から侯爵に奨爵したルニアは以前と変わらずに鎧姿で腰には剣を携えている。
「ル、ルーデウス様! 妾に会いに来てくれたのか?! 嬉しいのですじゃ~」
「……ルーデウス、ごめんなさい。 私は止めたのだけど」
ルニア侯爵の背後には、震えながらもルーデウスを見た途端に太陽の様に笑う茶髪の少女キャミ王女と、それを嗜める灰色の髪を長く伸ばした冷静沈着な少女ドーラが待っていた。
「そっちを片付けろ! 急げ、もうすぐ到着されるぞ!」
激しい戦争が終わった後のエントン王国は城壁も街もボロボロだ。 以前の美しい王国は見る影もない。
「おい、ドック王国の兵士! その瓦礫は其処じゃないだろ!」
エントン王国の兵士達が、生き残ったキャット王国とドック王国の兵士達と共に城壁の瓦礫を片付けている。
多くの兵士達が国を関係無く瓦礫を懸命に城壁の外へと運搬していた。
もし、キャット王国やドック王国の兵士達に今襲われたら今度こそエントン王国は終わりだろうがそんな事は絶対にあり得なかった。
「ん?! 大丈夫か! 誰か、医者を呼べ!」
1人のドック王国の兵士が疲労からか、地面に倒れた。
敗戦国の兵士等、奴隷と同じ扱いを受ける筈だがエントン王国の兵士は味方のように接していた。
その光景を見ていたエントン王国の民からも悪感情は少なかった。
何故、絶対にあり得ないか。
それは、ルーデウスの判断によるものだった。
◆◇◆
「すみません、この書類を直ぐに商業地区のメル伯爵にお願いします!」
ルーデウスは王城の執務室で忙しなく働いていた。
急ぎ目を通した書類に代理国王の印鑑を押し、待機していた伝令に渡す。
戦後の復興は山積みであり、更には今日中に他国の女王達や王が来る予定なのだ。
激しい戦闘があったのだ、完全には修復は難しいが少しでも見栄えを良くするためにこの数日不眠不休でルーデウスは執務にあたっていた。
「代理国王陛下! ルカ大臣より伝達です!! 大広間の準備は完了したが、姫様達の気分が優れてないようだ。 執務が一段落したら向かうように、との事です!」
「ありがとう、直ぐに向かうよ。 ウォンバット、居るかい?」
「はっ! 此処に」
執務室の扉が開き、包帯だらけの執事長ウォンバットが現れた。
ルーデウスは席から立ち上がり、ウォンバットを連れて執務室を退出する。
「これからキャミ王女とドーラ王女の部屋に行く。 彼女らの好物を準備しておいて」
「直ぐに準備して部屋に運ばせましょう」
「頼む、あ! ウォンバット、身体の火傷がまだ完治してないんだ。 無理しないでね」
先の戦争を乗り切ったルーデウスは以前とは比べ物にならない程に成長を見せていたが、まだ時折見せる優しい少年の面影に思わずウォンバットは微笑む。
「ご心配ありがとうございます、ルーデウス国王陛下」
「もう! 姉上が戻るまでだけなんだから、その呼び方は止めてってば!」
ウォンバットが笑いながら立ち去り、廊下を進むと会う兵士皆がルーデウスに敬礼していた。
ルーデウスは最後まで反対したが、大臣を任命されたルカに他国と渡り合うのに仮の代理国王では示しがつかないと指摘され、嫌嫌ながらも正式な代理国王に就任したのだ。
あくまでも、マリが帰還する迄の条件ではあるがこの世界での代理国王とは女王を亡くした夫である権限無き国王が国の実権を握る事を意味する。
民や兵士達の中では賛成する者が多く、反対した者は極少数だった。
今回の功労を評価し、ルカ大臣の薦めで奨爵されたメル伯爵とイサミ伯爵も賛成に周り他の子爵になった女貴族達からも反対の声は上がらなかった。
(このエントン王国の女王は姉上なのに、姉上がゴルメディア帝国の人質になったからギリギリの所で勝てたのに。 いや、ダメだ! 姉上が帰ってくるまで、僕がエントン王国を守るんだ!)
考え事をしていたルーデウスは、何時の間にか2人の王女が居る部屋に着いていた。
「ふぅ……。 私だ、ルーデウスだ。 失礼するよ」
代理国王の正装を正したルーデウスが部屋をノックし、入室した。
「これは、ルーデウス代理国王。 来てくれたか、良かった私ではダメなんだ」
部屋には困った顔のルニア侯爵が待っていた。
辺境伯から侯爵に奨爵したルニアは以前と変わらずに鎧姿で腰には剣を携えている。
「ル、ルーデウス様! 妾に会いに来てくれたのか?! 嬉しいのですじゃ~」
「……ルーデウス、ごめんなさい。 私は止めたのだけど」
ルニア侯爵の背後には、震えながらもルーデウスを見た途端に太陽の様に笑う茶髪の少女キャミ王女と、それを嗜める灰色の髪を長く伸ばした冷静沈着な少女ドーラが待っていた。
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる