【本編完結】混血才女の政略結婚

じぇいそんむらた

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第14話 はじめてをあげる

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「この際はっきりさせたいんだが。お姫様、あなたはこいつとの結婚について、どう思ってる?」

 腕を組みながら、私たちに質問するスクルさん。

「わ……私みたいな女と結婚なんて、フォールスにとって迷惑だと……思うわ」
「じゃあフォールス、お前は?」
「僕みたいな男がアステの夫になんて、彼女に悪いと思っている」

 私とフォールス、ふたりの回答が出揃うと、スクルさんは呆れた様子で私たちを見た。

「……あのなあ。俺は、相手に迷惑だとか悪いとか、そんな答えを聞きたいんじゃない。お前ら自身の気持ちを聞いてるんだ。……いいか、もう一度聞くぞ?お姫様は?」
「…………」
「……じゃあフォールス、お前は?」
「…………」

 どちらも、何も答えられない。そんな私たちに、スクルさんはとても大きなため息をつく。

「……いい加減にしろよお前ら、子供か?」
「う、うるさいな!結婚だぞ?おいそれと気軽に答えられるわけないだろ!」
「ははあ……さてはお前、また振られるのが怖いんだろ?」
「馬鹿か!そんなわけないだろ!」
「はっ、強がっちゃって。……じゃあいいさ」

 そう言って、立ち上がるスクルさん。戸惑いながらその姿を目で追う私を真剣な表情で見つめ、私のすぐ横で片膝をつく。
 そして、私の手を取って、顔を覗き込むように見上げてくる。

「ねえお姫様?あんなはっきりしない奴なんかより、俺と結婚してくれませんか?」
「お……おい……冗談だろスクル……」

 そう、これは絶対に冗談だ。フォールスの言う通り。私の頭がそう断言している。

 でも。

「失礼な。俺は、女性に冗談なんか言わんよ。常に真剣だ。ねえお姫様、俺だって、身分的にはあいつとそんなに変わりません。ミスオーガンザもきっと納得してくれる」

 そう言うと、スクルさんは私の指先に口……づけ……を!?

「お姫様。返事は?」

 私は、真っ白になった頭で必死に答えを探す。……見つからない。こんなの、習ってない!

 その時、私の頭に閃いた。そんな時のための常套句。物事を先延ばしするための、最適解。

「……じ、時間を、下さいませんか?」

 半泣きになりながら、私は答えた。

***

 スクルさんからの求婚。その返事を保留してから、もう2週間も経ってしまった。

 なぜ、会って間もない私に求婚などするのか。
 結婚とは、私が思っているほど重いものではなく、軽々しく決めていいものなのか。
 ……何の魅力のない私が、なぜ求婚されるのか。

 そうやってぐるぐるぐるぐる……答えの出ない問題ばかりが頭を回る。これが試験だったら、確実に不合格だ。

(はっ……もしかして私、からかわれてるのかしら。いえ、きっとそうよ、そうに違いない!)

 それが、2週間かけてやっと出た結論だった。あまりにも馬鹿だと、自分が一番分かっている。
 学生時代に青春を謳歌する事なく、誰かと恋だの愛だのの会話もせず、勉学に全てを注いだ……その生き方の結果がこれだ。

(……過ぎた事を言っても仕方ないじゃない。帰ったら早速手紙を出さないと。たとえからかわれていたとしても、きちんとお返事しなきゃ……)

 そう決意をした私の耳に、声が聞こえた。

「……さま、お姉さま……?」

 私はその声で、急に現実に引き戻される。
 そうだ、今はリティカに誘われて馬車で目的地まで向かっているところだった。

「あ……ご、ごめんなさいリティカ。つい考え事をしていて……」
「あら、そうでしたの?もう!何度もお声をかけたのに、お姉さまったら……」
「やだ、恥ずかしいところを見せちゃったわね」
「いいえ!どんなお姉さまも素敵ですわ!」

 いつも通りのやり取りに、私は思わずクスッとしてしまう。

「でもリティカ、今日はどこへ行くの?」

 今日は、行き先を告げられないまま、言われるまま馬車に乗ったのだ。

「ふふ、それは着いてからのお楽しみです」
「そうなの?どこに行くのか、ドキドキするわ」

 きっとリティカのことだから、私が知らない流行りの場所に行くのだろう。

「……ねえ、お姉さま?実はわたくし、お姉さまにご報告があるんです」
「あら、何かしら?」

 いつになく真剣な表情を見せるリティカ。なにか、よくない報告なのかと身構えてしまう。

「実はわたくし……嫁ぐことになりましたの」
「そうなの!?」
「ええ……以前から何度もお会いしていたのですが、本当にいい方ですのよ……わたくしのわがままを全部、可愛いって聞いてくださるの」
「ふふ、それはいい方ね」

 悪い報告じゃなかったことに安堵する私。するとリティカは立ち上がり、向かい側から私の隣に移ってきた。その瞳は、私をまっすぐ覗き込んでくる。

「……お姉さま、嫁ぐわたくしのお願いを、ひとつ、聞いてくださらない?」
「あら、なあに?私にできることならぜひ」
「わたくしのはじめての口づけを、もらってくださらないでしょうか?」

 いつもの可愛いおねだりかと思った私は、予想外も予想外の内容に、腰が抜けてしまうかと思うくらいに衝撃を受けた。

「そ、そんなのだめよ!それは、あなたの旦那様のものでしょ?」

 全力で否定する。女性どころか、男性とさえそんなことをしたことがない私が、いくら可愛い友人の頼みでも……と戸惑っていると、悲しそうにこちらを見るリティカと目が合う。

「お願いお姉さま……家のために嫁ぐわたしに、せめてひとつだけでも、大好きな人との思い出をちょうだい……」

 その目を見た瞬間、私は、どうしても彼女の願いを叶えてあげたくなってしまう。

「……わ、わかったわ」
「ほんとう!?ありがとうお姉さま!」

 リティカは私の両手を握って、嬉しそうにぶんぶんと振る。
 私はガクガクと体を揺られながらも、喜ぶリティカに自然と笑顔になる。

「それが、あなたのためになるなら、私のはじめてを許すわ」
「ああ!わたくし……お姉さまのはじめてになるのですね!うれしい……もう、死んでもいい!」
「お、大げさね!さ、さあ、どうぞ、好きにして!」

 私は恥ずかしさに、すぐに目を閉じる。

「ふふ、お姉さま……ありがとう」

 少し間があいた後、唇に、柔らかいものが触れた。それと同時に、少し、不思議な香りが鼻に届く。

(何かしら……この香り……)

 それを最後に、私の記憶は途切れた。
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