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番外編
星のようなお姫様
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※「第28話 物騒なお姫様」に少し関連したお話です
過去にいくら酷い事を言われていたとしても、あいつの顔を見たら、きっと顔を赤らめてどうでも良くなる。
アステに会うまでの俺は、そう思い込んでいた。
今まで見たどの女も、あいつの顔を見るなり目の色を変えてきた。だから、きっと彼女だって……そんな俺の思い込みを、彼女は見事にぶち壊した。
フォールスと再会した瞬間の、眉間に寄るシワ。顔の美しさにも、目の色は変わらず、むしろ、怯えだけが満ちているその瞳。
俺の心は、躍った。
***
俺は、フォールスにも告げず、彼女について色々と調べ上げていた。母親のついでではあったが。
幼い頃にフォールスから、混血というだけでひどく責められた彼女は、自分の価値を見つけるかのように、勉学に打ち込んだ。
親の地位や金、血筋を、さも自分の手柄かのように振りかざす、そんな生徒ばかりが通う上級学校。そこに通う彼女は、周りから、混血だ成金だと後ろ指を指される。だが、彼女は反論するでもなく、ただその圧倒的な知性で全てをねじ伏せた。
それは当然の結果だ。周りが、家族や友人との楽しい時間を送る間も、彼女は全て学ぶ事のみに費やしていたのだから。
そして、彼女は卒業するまで、一度たりとも首席を譲らなかったそうだ。
彼女は、おそらくその頃についてだろうが、「感情のない仮面のような女という評判があった」と語っていた。
でも、そんな彼女が、俺たちの前ではその仮面を外した。
歌劇に連れて行ったとき、まだ始まってもいない舞台を真剣に見つめる、まるで子供のようなキラキラした瞳。
別れ際に見せる、別れを惜しむのを必死で隠そうとしている様子。
言い合いをする俺とフォールスを見る、仕方ないわねと呆れつつ、小さく笑う様子。
そして、母の罪を知った時の、絶望に満ちた表情。その頬に流れる涙。
そのたびに、俺の心の奥のやましい部分が、これでもかとくすぐられる。優越感のような、支配欲のような、一言では表せない何か。
(ああ、欲しいな)
無理にでも攫って、閉じ込めてしまいたい。気を抜くと、そんな欲望が湧き上がる。
でも俺は、あの愚かな小娘とは違う。無理に奪った瞬間、彼女の輝きが失われることを理解している。星と同じで、そこにあるから輝くのだ。無理矢理手にして仕舞い込んだが最後、ただの石ころと成り果ててしまう。
当て馬のつもりでした求婚も、やましい気持ちがなかったわけではない。あわよくば……そんな考えもあった。
だが、彼女は俺を選ばなかった。
楽になれる道を選ばず、傷付いてもなお茨の道を行く。何て下手くそな生き方なのだろう。だからこそ、余計に愛おしく感じる。
最近は、お姫様と呼ぶと、眉間に皺を寄せる事はなくなったが、また何か言ってるわという顔で俺を見る。
自分は、お姫様などでは決してないと疑わない顔で。
俺やフォールスに対する彼女の警戒心はすっかり解けたようだが、おそらく俺が入り込んだ彼女の心の場所は、兄とかそういった類なのだろう。
(そうやって油断していればいい。油断して、俺のところに転がり落ちてきたら、その時は)
さて、どうしてやろうか。俺はそれを想像して、笑いが込み上げる。
せいぜいそうならないように頑張ってくれよと、ここにいない彼女に思った。
過去にいくら酷い事を言われていたとしても、あいつの顔を見たら、きっと顔を赤らめてどうでも良くなる。
アステに会うまでの俺は、そう思い込んでいた。
今まで見たどの女も、あいつの顔を見るなり目の色を変えてきた。だから、きっと彼女だって……そんな俺の思い込みを、彼女は見事にぶち壊した。
フォールスと再会した瞬間の、眉間に寄るシワ。顔の美しさにも、目の色は変わらず、むしろ、怯えだけが満ちているその瞳。
俺の心は、躍った。
***
俺は、フォールスにも告げず、彼女について色々と調べ上げていた。母親のついでではあったが。
幼い頃にフォールスから、混血というだけでひどく責められた彼女は、自分の価値を見つけるかのように、勉学に打ち込んだ。
親の地位や金、血筋を、さも自分の手柄かのように振りかざす、そんな生徒ばかりが通う上級学校。そこに通う彼女は、周りから、混血だ成金だと後ろ指を指される。だが、彼女は反論するでもなく、ただその圧倒的な知性で全てをねじ伏せた。
それは当然の結果だ。周りが、家族や友人との楽しい時間を送る間も、彼女は全て学ぶ事のみに費やしていたのだから。
そして、彼女は卒業するまで、一度たりとも首席を譲らなかったそうだ。
彼女は、おそらくその頃についてだろうが、「感情のない仮面のような女という評判があった」と語っていた。
でも、そんな彼女が、俺たちの前ではその仮面を外した。
歌劇に連れて行ったとき、まだ始まってもいない舞台を真剣に見つめる、まるで子供のようなキラキラした瞳。
別れ際に見せる、別れを惜しむのを必死で隠そうとしている様子。
言い合いをする俺とフォールスを見る、仕方ないわねと呆れつつ、小さく笑う様子。
そして、母の罪を知った時の、絶望に満ちた表情。その頬に流れる涙。
そのたびに、俺の心の奥のやましい部分が、これでもかとくすぐられる。優越感のような、支配欲のような、一言では表せない何か。
(ああ、欲しいな)
無理にでも攫って、閉じ込めてしまいたい。気を抜くと、そんな欲望が湧き上がる。
でも俺は、あの愚かな小娘とは違う。無理に奪った瞬間、彼女の輝きが失われることを理解している。星と同じで、そこにあるから輝くのだ。無理矢理手にして仕舞い込んだが最後、ただの石ころと成り果ててしまう。
当て馬のつもりでした求婚も、やましい気持ちがなかったわけではない。あわよくば……そんな考えもあった。
だが、彼女は俺を選ばなかった。
楽になれる道を選ばず、傷付いてもなお茨の道を行く。何て下手くそな生き方なのだろう。だからこそ、余計に愛おしく感じる。
最近は、お姫様と呼ぶと、眉間に皺を寄せる事はなくなったが、また何か言ってるわという顔で俺を見る。
自分は、お姫様などでは決してないと疑わない顔で。
俺やフォールスに対する彼女の警戒心はすっかり解けたようだが、おそらく俺が入り込んだ彼女の心の場所は、兄とかそういった類なのだろう。
(そうやって油断していればいい。油断して、俺のところに転がり落ちてきたら、その時は)
さて、どうしてやろうか。俺はそれを想像して、笑いが込み上げる。
せいぜいそうならないように頑張ってくれよと、ここにいない彼女に思った。
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