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閑話 私だけのあなた

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「ねえアステ」

 急に真剣な表情で私の名前を呼ぶフォールスに、私は何事かと首を傾げる。
 彼は、胸ポケットから何かを取り出すと、私の右手を取る。

「君が魔王城で働けば、今以上に会えなくなる。だからせめてこれだけでも君のそばに」

 フォールスの手には、以前彼が私のために用意してくれ、そして、結婚が本当にできる時に渡してほしいと彼に返した指輪があった。

「それ……あなたに預けた指輪……?」
「もう結婚できるって分かったんだから、君に返したって構わないだろ?」

 そう言うとフォールスは、指輪を私の薬指につけていく。

「これを見るたびに、君は僕だけのものなんだって思い出してほしい。……ほんと、独占欲丸出しだな、僕」
「ふふ……分かった。……あ、そうだわ」

 私は、フォールスから預かっていた指輪を、しまっておいた場所から持ってくる。そして、フォールスの手を取り、指輪を薬指につけると、視線を彼の指に落としたまま、彼にこう言った。

「あなたこそ、忘れないでね。あ……あなたは……わ……私だけのもの……なんだって……」

 さっきのフォールスの言葉に対抗してみたものの、あまりの恥ずかしさに顔がほてって熱くなってしまう。
 そんな私を、フォールスは思い切り抱きしめてくる。

「君がそんな事言うなんて……そうだよ、僕は君だけのものだ。心も身体も、全て君にあげる」

 そして私は、彼との境目がなくなってしまったかのように、さらに強く抱きしめられる。苦しいのに、同じくらい幸せで、たまらなくなる。

「私がフォールスの事、ひとりじめにしてもいいの……?本当に……?」
「いいよ。アステだけの僕なんだから」
「そんな……そんな事を言われたら、あなたが他の女のひとといるだけで、嫉妬してしまいそう……私のフォールスなのにって……もうやだ……何言ってるのかしら私……」
「アステ……想像だけで嫉妬するなんて……可愛すぎる……」

 そう言うやいなや、私の頭に何度もフォールスからの口付けが降ってくる。

「可愛い、アステ。僕だけのアステ。ああ、本当に可愛い……」
「もう……やめてフォールス……そんな甘やかすような事……言わないで」
「いやだ。君がこんなに可愛いのが悪い」
「そんなあ……」

 それからずっと、フォールスは可愛いと言いながら、私の色んなところに口付けをする。
 口付けされた全ての場所が熱を持ってしまったようで、私はすっかりのぼせ上がってしまう。

「はは!君の顔、真っ赤。可愛い」
「笑い事じゃないわよ……もう……」
「ごめんごめん。でも、君の可愛さのおかげで、心の傷もすっかり癒えたよ。ありがとう、アステ」
「……どう、いたしまして?」

 なんだか納得がいかないが、とても満足そうなフォールスの顔を見てしまうと、まあいいや……となってしまう。私も結局、言葉にして伝えたりはしないけれど、彼にとても甘いのだろう。

「でも、離れるのは名残惜しいな……毎日君と一緒にいられるといいのに」
「そうね……」
「ねえ、あともう少しだけ、こうしていてもいい?」
「……ええ、あなたの気が済むまで、こうしていて。私も……嬉しいから」

 今だけでも、時間が止まればいいのに。そんな事を思いながら、私は、彼に体を預けた。
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