五人目のご令嬢

じぇいそんむらた

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後日譚

3 幸福の指輪

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 ご令嬢と出会ってから、二度目の冬が来た。庭園はすっかり深い雪に覆われている。

 雪合戦要員として呼ばれた僕は、屋敷の中で雪遊びの準備を済ませ、既に外で待っていたご令嬢や子供達に迎えられた。

 そんな時だった。一人の女の子が、僕とご令嬢の手を握って、無邪気な眼差しで僕らを見上げ、こんな事を言った。

「ねえふたりとも。いつになったらけっこんするの?」

 舌ったらずで可愛らしい口調とは裏腹の直球の質問に、僕とご令嬢は顔を見合わせる。

「ええと……それは……」

 戸惑いながら、言葉を探すように女の子に話すご令嬢。ちらりと僕を見て、どうしようといった表情を見せる。
 戸惑う僕らを気にする事なく、女の子はニコニコと笑って話を続けた。

「もしかして、ぷろぽーずしたいのにゆびわがないからなの?わたしね、そうじゃないかなっておもって、ほら!ゆびわ、つくってきてあげたの!」

 女の子は、ポケットに手を突っ込み、小さい箱を取り出し、そっと開く。そして、僕とご令嬢に、小さな手のひらに載ったそれを自慢げに見せてくれる。

 それは、少し太い植物の茎で作られた輪っかで、乾燥させた四つ葉のクローバーが飾られていた。
 春頃、皆で四つ葉のクローバーを探した時の事を思い出す。もしかしたら、その時に見つけたものを取っておいて、これを作ってくれたのかもしれない。

「えへへー!ね、これならぷろぽーずできるでしょ?」

 満足そうに笑っている女の子。周りの子供達も、早くプロポーズしなよ!などと囃し立てる。

 僕は戸惑う。そろそろ婚約を申し込むつもりでいた。実はもう、婚約指輪も買っていた。気が早いのは分かってる。サイズ?そんなの、屋敷のメイド長にこっそり聞いたに決まってる。

 それがまさかこんな事になるとは。

 ……でも、ご令嬢と出会って、僕の人生は想定外だらけになった。僕は腹を括る事に決めた。もう、この想定外に乗るしかない、と。

 だが、想定外は更に重なる。僕が四つ葉の指輪に手を伸ばす前に、ご令嬢の手がそこに伸びた。

「素敵な指輪ね、ありがとう」
「うん!」

 ご令嬢は女の子と笑顔で見つめ合い、そして、僕の方を向いた。

「わたくしからプロポーズしたら、嫌?」
「え」

 まるで天地がひっくり返るような衝撃だった。何か言わないと、と思うのに、喉までもが驚いて声が出せない。

「わたくし、想像したの。あなたが、誰か他の女性と結ばれるところを。そうしたら、駄目だったの。耐えられない、そう思ったわ」

 僕は、ご令嬢の真剣な眼差しから、目が離せない。まるで引力のよう。木から落ちたリンゴが地に引き寄せられるのと同じ、抗う事などできない法則。

「あの日、あなたが屋敷を出て行った日。去っていくあなたを引き留めたくて仕方がなかった。でも、お利口なふりをして、必死に平気なように装った。でももう、そんな事、できない」

 頬が紅色に染まり、綺麗な瞳が潤み、輝いている。それはどんな宝石さえも敵わないくらい美しくて。

「どうかお願い、わたくしだけのあなたでいて」

 雪がしんしんと降る音だけが、満ちている。僕は、凍てつく空気を肺いっぱいに吸い込む。その冷たさが、頭を冷静にしてくれる。僕は女の子の手から、もう一つの指輪を取った。

「僕達のために作ってくれて、ありがとう」

 女の子は、嬉しそうに笑って、強く頷く。

 僕は跪き、ご令嬢の左手を取って言った。

「どうか僕と、結婚して下さい」

 ご令嬢は、ため息のように息を吐いて、それから答えてくれた。

「喜んでお受けします」

 僕はそっと、ご令嬢の薬指に指輪をはめる。幸福の四つ葉が、彼女の美しく白い手を飾る。春の生命力が、彼女を彩る。
 そして、立ち上がった僕の薬指に、ご令嬢も指輪をはめる。

 その瞬間、子供達の歓声が、真っ白な庭園を彩るように響き渡った。
 僕はご令嬢と顔を見合わせて、そして子供達を見て、心の底から笑った。
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