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寂しさを残り香で埋めて 前編
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次期国王である長兄の補佐として何日も遠出をし、ようやく妻の元に帰った僕は、とんでもない光景を目にしていた。
ソファに座り、僕の上着を羽織ったまま眠る妻の姿。服の袖は握られ、まるでその香りを確かめるように妻の鼻先にある。
僕が何日かいなくても、きっと妻は寂しがったりしないだろう。そう勝手に思い込んでいた僕に、その光景はあまりにも衝撃的だった。
僕は、妻を起こさないよう、そっと彼女の隣に座る。顔にかかる髪をそっとどけて、彼女の頬に触れる。
「……寂しいと思っていたのは僕だけじゃないって、自惚れてもいいの?」
結婚をして、体を重ねても、どこか自信が持てない自分がいた。
でも、僕の服の袖をしっかりと握りしめ、小さく寝息をたてる妻の姿に、少し自信を取り戻せたような気がする。
「……ん」
少しでも触れていたくて、そっと頭や頬をなでていると、妻が小さく声を上げ、もぞもぞと動き出した。そしてゆっくり瞼が開く。
「……あ……おかえりなさい……」
「ただいま。起こしてごめん」
「……いいえ……少しでも早く会えたから……うれしい」
そう言うと妻は、寝ぼけ眼のまま、僕にそっと抱きついて、頭を胸元に埋める。
「寂しくさせてしまった?」
「……そんなことないわ……って言いたいところだけど……寂しかったわ……とても」
少し甘えるような声色が可愛らしい。僕は、離れている間に失われてしまった、妻からしか得られない何かを補充するように、彼女の体温や香りを堪能する。
「僕も、寂しくて仕方なかった」
「そうなの?あなた、平気そうに出て行ったじゃない……わたくしだけが寂しがってるとばっかり……なあに?急に笑ったりして……」
「だって、お互いに同じ事考えてたって分かったら、おかしくなって」
「そうね……ふふ……」
僕を見上げた妻と、ふたりで笑い合う。と、彼女が羽織った僕の上着に目が行く。
「ところで、どうして僕の服を羽織っているのかな?」
そう聞くと、妻は「え?」と首を傾げて、それから、ハッとした表情になる。
「……ええと……帰ってくる前に戻しておくつもりだったのよ」
「それは構わないさ。でも僕が知りたいのは、どうしてってなのかって事だよ?」
そう聞くと、妻の目が泳ぐ。
「…………あなたの香りで……寂しさが紛れると……思って」
妻は視線を逸らすものの、頬が赤くなっているのが見えて、その愛らしさに僕の胸はぎゅっと締め付けられる。
「そうか」
本当に自惚れていい事が分かって、僕の頬はこれでもかと緩む。でも、妻はしょんぼりと落ち込んだ様子のままだ。
「こんなの、子供みたいでしょう……?」
「そんな事ないよ。僕も次からは、君の香りがするものを持って行こうかな」
「それは……あまりおすすめしないわ」
「なんで?」
「だって……しばらくは寂しさが紛れるけれど……後から余計に寂しくなるのよ……」
そうなっている妻の姿を想像して、思わず変な声が出そうになる。想像だけで可愛すぎて、息が止まりそうだ。
「じゃあ……君ごと連れて行こうかな」
「……ふふ……そうしてちょうだい?」
そうやって、冗談を言い合って、僕らはまたくすくすと笑い合う。
「ねえ……もう少しこうしていて、いい?」
「いいよ。君の気が済むまで」
「ありがとう……」
そう言うと、妻は息を深く吸い込んで、小さく笑う。
「ふふ……あなたの香りがする……大好き……」
「!!!」
僕の妻はそうやって今日も、僕の心臓を止めるくらい破壊力ある愛の言葉をくれるのだった。
ソファに座り、僕の上着を羽織ったまま眠る妻の姿。服の袖は握られ、まるでその香りを確かめるように妻の鼻先にある。
僕が何日かいなくても、きっと妻は寂しがったりしないだろう。そう勝手に思い込んでいた僕に、その光景はあまりにも衝撃的だった。
僕は、妻を起こさないよう、そっと彼女の隣に座る。顔にかかる髪をそっとどけて、彼女の頬に触れる。
「……寂しいと思っていたのは僕だけじゃないって、自惚れてもいいの?」
結婚をして、体を重ねても、どこか自信が持てない自分がいた。
でも、僕の服の袖をしっかりと握りしめ、小さく寝息をたてる妻の姿に、少し自信を取り戻せたような気がする。
「……ん」
少しでも触れていたくて、そっと頭や頬をなでていると、妻が小さく声を上げ、もぞもぞと動き出した。そしてゆっくり瞼が開く。
「……あ……おかえりなさい……」
「ただいま。起こしてごめん」
「……いいえ……少しでも早く会えたから……うれしい」
そう言うと妻は、寝ぼけ眼のまま、僕にそっと抱きついて、頭を胸元に埋める。
「寂しくさせてしまった?」
「……そんなことないわ……って言いたいところだけど……寂しかったわ……とても」
少し甘えるような声色が可愛らしい。僕は、離れている間に失われてしまった、妻からしか得られない何かを補充するように、彼女の体温や香りを堪能する。
「僕も、寂しくて仕方なかった」
「そうなの?あなた、平気そうに出て行ったじゃない……わたくしだけが寂しがってるとばっかり……なあに?急に笑ったりして……」
「だって、お互いに同じ事考えてたって分かったら、おかしくなって」
「そうね……ふふ……」
僕を見上げた妻と、ふたりで笑い合う。と、彼女が羽織った僕の上着に目が行く。
「ところで、どうして僕の服を羽織っているのかな?」
そう聞くと、妻は「え?」と首を傾げて、それから、ハッとした表情になる。
「……ええと……帰ってくる前に戻しておくつもりだったのよ」
「それは構わないさ。でも僕が知りたいのは、どうしてってなのかって事だよ?」
そう聞くと、妻の目が泳ぐ。
「…………あなたの香りで……寂しさが紛れると……思って」
妻は視線を逸らすものの、頬が赤くなっているのが見えて、その愛らしさに僕の胸はぎゅっと締め付けられる。
「そうか」
本当に自惚れていい事が分かって、僕の頬はこれでもかと緩む。でも、妻はしょんぼりと落ち込んだ様子のままだ。
「こんなの、子供みたいでしょう……?」
「そんな事ないよ。僕も次からは、君の香りがするものを持って行こうかな」
「それは……あまりおすすめしないわ」
「なんで?」
「だって……しばらくは寂しさが紛れるけれど……後から余計に寂しくなるのよ……」
そうなっている妻の姿を想像して、思わず変な声が出そうになる。想像だけで可愛すぎて、息が止まりそうだ。
「じゃあ……君ごと連れて行こうかな」
「……ふふ……そうしてちょうだい?」
そうやって、冗談を言い合って、僕らはまたくすくすと笑い合う。
「ねえ……もう少しこうしていて、いい?」
「いいよ。君の気が済むまで」
「ありがとう……」
そう言うと、妻は息を深く吸い込んで、小さく笑う。
「ふふ……あなたの香りがする……大好き……」
「!!!」
僕の妻はそうやって今日も、僕の心臓を止めるくらい破壊力ある愛の言葉をくれるのだった。
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