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寂しさを残り香で埋めて 後編
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妻が、僕の服の残り香で寂しさを埋めていたと知ってから、妻に少し変化が起きた。
すんすん……と、僕の首元で可愛らしく僕を嗅ぐ妻。僕はくすぐったさに首をすくめる。
「何だか……嬉しいような……ちょっと恥ずかしいような……」
途端に、妻の行動が止まる。
「……嫌だったら……やめるわ」
僕から離れてしょんぼりする妻の様子に、僕は苦笑するしかない。2人きりの時にだけ見せる、そんな可愛らしいところが、僕の心をくすぐる。こんな姿が見れるのが僕なだけというのが勿体ない気もするし、誰にも見せたくないという独占欲もある。
「大丈夫、嫌じゃないよ。ただ、ちょっと、変な気持ちになるというか」
「変な気持ち?」
妻から、目的は違うとしても迫られているような状況に、いつの間にか僕のやましい部分が勝手に膨れ上がってしまっていた。だが、そんな事を正直に説明するのも憚られて、何と言っていいか分からない。
様子のおかしい僕に、妻は首を傾げて、そして。
「……あ」
妻の視線が下を向く。そして、全てを察したようだ。
少しの沈黙の後、妻は上目遣いに僕を見る。その頬はほんのり薔薇色に染まり、そして遠慮がちにこう言った。
「……する?」
その仕草や言い方が、僕の目には誘っているようにしか見え……いやいや、妻にそんなつもりなどなく、僕の欲求がそう見せているだけだろう。
でも僕はもう、欲望に抗えなくなってしまった。
「したい」
僕がそう言うと妻は、返事をする代わりに小さく頷く。妻からはいつもの凛々しさが消え、どこか幼ささえ感じる。僕は、それを可愛く思うと同時に、危機感を募らせた。
「もう、可愛いな……」
「可愛い?わたくしが?」
「そう、可愛いよ、すごく。だから、こんなに可愛いところ、他の誰にも見せたら駄目だ」
独り占めしたくて、誰にも見せたくなくて、その気持ちごと妻を抱きしめる。
「ふふ、大丈夫よ。そんな心配いらないわ。だってわたくし、あなたと2人きりだから可愛くなれるの」
妻の腕が、僕の背中にまわる。
「でもね、わたくしから見たら、そんな事を言うあなたの方が可愛く見えるわ」
「僕が?」
「ええ、とても」
「僕を可愛いと言うなんて、君くらいだよ」
「そう言われるの、嫌?」
「2人きりの時だけなら、構わないよ。でも……同じくらい、格好いいと言って」
僕の言葉に、妻は体を震わせて笑う。
「ふふ……もう……そんなところも可愛いわ」
「こら」
「じゃあ、格好いいところも見せて?」
僕は少し悔しくて、見上げて微笑む妻に、強引で噛み付くようなキスをした。
「……どう?」
そう聞く僕に、やっぱり笑う妻だったけれど。
「ふふ、だめ、ふふ。いやだ、もう、わたくし……すごくときめいてしまったわ。あなたが世界でいちばん可愛くて、いちばん格好いい」
薔薇色の頬と潤んだ瞳でそう言われて、僕はもう完全に彼女に陥落してしまったのだった。
すんすん……と、僕の首元で可愛らしく僕を嗅ぐ妻。僕はくすぐったさに首をすくめる。
「何だか……嬉しいような……ちょっと恥ずかしいような……」
途端に、妻の行動が止まる。
「……嫌だったら……やめるわ」
僕から離れてしょんぼりする妻の様子に、僕は苦笑するしかない。2人きりの時にだけ見せる、そんな可愛らしいところが、僕の心をくすぐる。こんな姿が見れるのが僕なだけというのが勿体ない気もするし、誰にも見せたくないという独占欲もある。
「大丈夫、嫌じゃないよ。ただ、ちょっと、変な気持ちになるというか」
「変な気持ち?」
妻から、目的は違うとしても迫られているような状況に、いつの間にか僕のやましい部分が勝手に膨れ上がってしまっていた。だが、そんな事を正直に説明するのも憚られて、何と言っていいか分からない。
様子のおかしい僕に、妻は首を傾げて、そして。
「……あ」
妻の視線が下を向く。そして、全てを察したようだ。
少しの沈黙の後、妻は上目遣いに僕を見る。その頬はほんのり薔薇色に染まり、そして遠慮がちにこう言った。
「……する?」
その仕草や言い方が、僕の目には誘っているようにしか見え……いやいや、妻にそんなつもりなどなく、僕の欲求がそう見せているだけだろう。
でも僕はもう、欲望に抗えなくなってしまった。
「したい」
僕がそう言うと妻は、返事をする代わりに小さく頷く。妻からはいつもの凛々しさが消え、どこか幼ささえ感じる。僕は、それを可愛く思うと同時に、危機感を募らせた。
「もう、可愛いな……」
「可愛い?わたくしが?」
「そう、可愛いよ、すごく。だから、こんなに可愛いところ、他の誰にも見せたら駄目だ」
独り占めしたくて、誰にも見せたくなくて、その気持ちごと妻を抱きしめる。
「ふふ、大丈夫よ。そんな心配いらないわ。だってわたくし、あなたと2人きりだから可愛くなれるの」
妻の腕が、僕の背中にまわる。
「でもね、わたくしから見たら、そんな事を言うあなたの方が可愛く見えるわ」
「僕が?」
「ええ、とても」
「僕を可愛いと言うなんて、君くらいだよ」
「そう言われるの、嫌?」
「2人きりの時だけなら、構わないよ。でも……同じくらい、格好いいと言って」
僕の言葉に、妻は体を震わせて笑う。
「ふふ……もう……そんなところも可愛いわ」
「こら」
「じゃあ、格好いいところも見せて?」
僕は少し悔しくて、見上げて微笑む妻に、強引で噛み付くようなキスをした。
「……どう?」
そう聞く僕に、やっぱり笑う妻だったけれど。
「ふふ、だめ、ふふ。いやだ、もう、わたくし……すごくときめいてしまったわ。あなたが世界でいちばん可愛くて、いちばん格好いい」
薔薇色の頬と潤んだ瞳でそう言われて、僕はもう完全に彼女に陥落してしまったのだった。
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