五人目のご令嬢

じぇいそんむらた

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甘いあなたの味

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 せっかくバレンタインなので、ちょっとした甘いお話をお届けします。


 ――


 いつも食事を残さない妻が、珍しく夕食を残した。

「君が料理を残すなんて珍しいね……体調は大丈夫?」
「え、ええ……大丈夫よ。でも、食事を残すなんて駄目ね、後で皆に謝らないと……」
「皆、謝ってほしいなんて思ってないさ。それどころか、いつも美味しそうに食べている君が食事を残したから、何かあったんじゃないかって心配していると思うよ」
「心配?怒るの間違いじゃなくて?」
「え?怒る?」
「だって……子供の頃から、食事を残すと父に叱られたもの。食材を用意するのも、料理を作るのも簡単じゃないんだぞ、って」

 僕の前ではおおらかで温厚に見える義父も、妻が語る姿はとても厳しい父親のそれで、僕はつい、同一人物なのか疑ってしまう。

「そんなに厳しいところ、僕には想像がつかないな」
「そうなのよね……父ったら、あなたの前だといつもご機嫌なんだもの。きっと娘のわたくしよりあなたの方が好きなんだわ……」
「いやいや、そんな事はないさ。厳しくするのは、それだけ君を大切に思っている証拠だよ」
「そう……かしら……」

 納得いかないといった表情の妻に、僕は苦笑する。

「爺が言っていたよ。間違った事を駄目と叱れるのは、たとえ嫌われても愛し続けられる覚悟があるからだ、って」

 僕がそう言うと、妻はすごく傷ついたような顔で、今にも泣きそうだ。

「……わたくし……父に叱られるたびに大嫌いって言っていたわ……」
「でも、本当に嫌いになったわけじゃないだろう?大丈夫、本気じゃない事くらい分かってくれているよ」

 落ち込んで、少し丸まってしまった妻の背中を、慰めるように撫でる。妻は、何も言わずに僕にそっと抱きついてくる。

「今度……父に謝るわ……」
「きっと喜んでくれるよ。こんな素敵な娘に育ってくれたんだって」
「……少しでも、そう思ってもらえる娘になれてるかしら」
「なれてるよ。こんなに素敵な女性、僕の娘だったら絶対に自慢して回る」

 僕は、妻の頭を抱き寄せて、頭頂にキスをする。

「ふふ……ありがとう」

 妻はそう言うと、僕の胸元に頭を埋める。

「でも、食事を食べ切れなかった理由を聞いたら……きっとあなた、わたくしに幻滅するわ」
「僕が幻滅するくらいだから、相当すごい理由なんだろうな」
「本当よ……絶対に馬鹿な女って思うわ」
「そんなの、言わずに黙っておけばよかったのに」
「だって……叱られないと、またやってしまいそうだから」
「じゃあ、話してごらん」
「あのね……今日、実家に行ってきたでしょう?……焼き菓子が美味しくて……つい……食べ過ぎてしまったの……だから」

 深刻そうな声色なのに、申し訳ないが、僕はたまらず笑い出してしまった。

「ちょ、ちょっと!何で笑うの!?」
「だ……だって……ははは!お菓子の食べ過ぎって……!か、可愛いすぎる……」

 お菓子に手が止まらない妻の姿を想像しただけで、あまりにも可愛らしくて、たまらず僕は妻を思い切り抱きしめる。

「可愛いな……そんなに我慢できなかったの?」
「だって……久しぶりだったんだもの……でも……我慢して、持って帰ってくればよかったんだわ……」
「僕も、食べたかったな」
「そ……そうよね……ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。可愛い話が聞けただけで僕は満足だ」
「可愛くないわよ……ただの食いしん坊じゃない……」

 そんなわけない。拗ねたように言う妻も、また可愛い。僕は、抱擁を解いて、彼女の両頬に手のひらを添える。

「じゃあ、あの世界一美味しいお菓子が食べられなかった分、僕に食べさせてくれる?」
「……?わたくし、あなたに食べさせてあげられるもの、何も持ってないわよ?」

 きょとんとする妻に、僕は首を横に振る。

「大丈夫。僕の目の前に、とても美味しそうなものがあるから」

 それでもまだ意味が分かっていない様子の妻に、僕はくすっと笑う。そして、ゆっくりと唇を重ね、甘い妻の唇を味わう。

「お菓子よりも美味しい」
「……もう……そういう意味なの……?」

 顔を赤くして言う妻に、僕は笑って、そしてまた口付ける。

「食べ過ぎるなって、叱って止めてもいいんだよ?」
「……叱ったら、止められる?」

 瞳をきらきらと潤ませて、上目遣いに聞いてくる妻に、僕は笑う。

「嫌だ。たくさんおかわりする」

 妻は、困ったように笑って、それからそっと瞼を閉じる。

「食べ過ぎは……駄目よ?」
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