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あの日々をもう一度 前編
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いつも僕の帰りを嬉しそうに迎えてくれる妻が、珍しく思い詰めたような顔をして、こんな事を言った。
「ねえあなた。わたくし……とても困ってるの」
「え……な、何かあったの!?」
僕は慌ててガシッと妻の両肩に手を置く。そんな僕に驚いた顔をしつつも、妻が打ち明けた悩みは予想外の内容だった。
「あなたの誕生日まで、あともう少しでしょう?わたくしも、あなたがしてくれたみたいに、驚かせて、とても喜ばせられる物を用意するつもりだったわ。それなのに、あなたの事をいくら観察しても、何がいいのか全然分からないの……ねえあなたが欲しいものって一体……何?」
「なんだ……そんな事だったのか」
僕は途端に脱力感に襲われ、妻を抱き寄せ、その肩に頭を載せる。
「そんな事って……わたくしには、何よりも重要な事なのに」
「ご、ごめんよ。てっきり何か、嫌な事でもあったのかと思って」
「ある意味、嫌な事よ。だって、こっそりおじに聞いても全然教えてくれないし、あなたの誕生日はどんどん迫ってくるし……こうして直接聞くしかなくて……そんな自分が情けなし悔しいし……もう……泣けてくるわ……」
そう言うと妻は、僕の胸に顔を埋める。本当に泣き出しそうな彼女の頭を、僕は撫でて慰めるしかない。
「ねえ、お願いだから、僕の事で泣かないで。僕に聞かないで探ってくれようとしただけでも嬉しいよ。それに、僕があまり欲がない男だって、君も知ってるだろう?」
「……知ってるわ。でももしかしたら、ちょっとくらい何かあるかもしれないじゃない」
そう言って唇を少し尖らせる妻。僕はそれがおかしくて仕方ない。目の前に、こんな魅力的な存在がいるのに、他のものを欲しいと思える訳がないのだから。
「僕が欲深くなるのは、君の事ばっかりなんだよ?こうして側にいると、君の事しか頭になくなる。たくさん甘やかしてやりたい、笑った顔を見たい、抱きしめたい……そしてこんな事もしたい」
僕はそう言うと、素早く妻の唇を奪う。彼女は途端に顔を赤くして、僕から目を逸らしてしまう。
「……もう……あなたの事なのに……わたくしまで喜ばせてどうするのよ」
「そんな君を見るのが僕の喜びなんだから、仕方ないだろう?」
「もう……もう……」
言葉に詰まって悔しそうな妻に、僕は謎の達成感に満たされる。
でも、それも束の間のものでしかなかった。妻が放った言葉に、一気に僕は形成不利となった。
「……決めたわ。わたくし、あなたの誕生日まで実家に帰る」
「……え?」
「だって、あなたのいちばん欲しいものがわたくしなら、そうするのが一番喜ばれるでしょう?」
僕は大いに焦る。それは困る。大いに困る。一枚上手な妻に僕は慌てて、逃しはしないという意志で彼女の体を強く抱きしめる。
「そんなのだめだ!君に毎日会えないと死んでしまう!待って、い……今すぐに考えるから!」
「……ふふっ!ええ、頑張って考えてちょうだい?」
焦る僕に、楽しそうに笑う妻。僕は焦る頭で必死に考え、そしてようやく思いついた希望を妻に伝えたのだった。
「ねえあなた。わたくし……とても困ってるの」
「え……な、何かあったの!?」
僕は慌ててガシッと妻の両肩に手を置く。そんな僕に驚いた顔をしつつも、妻が打ち明けた悩みは予想外の内容だった。
「あなたの誕生日まで、あともう少しでしょう?わたくしも、あなたがしてくれたみたいに、驚かせて、とても喜ばせられる物を用意するつもりだったわ。それなのに、あなたの事をいくら観察しても、何がいいのか全然分からないの……ねえあなたが欲しいものって一体……何?」
「なんだ……そんな事だったのか」
僕は途端に脱力感に襲われ、妻を抱き寄せ、その肩に頭を載せる。
「そんな事って……わたくしには、何よりも重要な事なのに」
「ご、ごめんよ。てっきり何か、嫌な事でもあったのかと思って」
「ある意味、嫌な事よ。だって、こっそりおじに聞いても全然教えてくれないし、あなたの誕生日はどんどん迫ってくるし……こうして直接聞くしかなくて……そんな自分が情けなし悔しいし……もう……泣けてくるわ……」
そう言うと妻は、僕の胸に顔を埋める。本当に泣き出しそうな彼女の頭を、僕は撫でて慰めるしかない。
「ねえ、お願いだから、僕の事で泣かないで。僕に聞かないで探ってくれようとしただけでも嬉しいよ。それに、僕があまり欲がない男だって、君も知ってるだろう?」
「……知ってるわ。でももしかしたら、ちょっとくらい何かあるかもしれないじゃない」
そう言って唇を少し尖らせる妻。僕はそれがおかしくて仕方ない。目の前に、こんな魅力的な存在がいるのに、他のものを欲しいと思える訳がないのだから。
「僕が欲深くなるのは、君の事ばっかりなんだよ?こうして側にいると、君の事しか頭になくなる。たくさん甘やかしてやりたい、笑った顔を見たい、抱きしめたい……そしてこんな事もしたい」
僕はそう言うと、素早く妻の唇を奪う。彼女は途端に顔を赤くして、僕から目を逸らしてしまう。
「……もう……あなたの事なのに……わたくしまで喜ばせてどうするのよ」
「そんな君を見るのが僕の喜びなんだから、仕方ないだろう?」
「もう……もう……」
言葉に詰まって悔しそうな妻に、僕は謎の達成感に満たされる。
でも、それも束の間のものでしかなかった。妻が放った言葉に、一気に僕は形成不利となった。
「……決めたわ。わたくし、あなたの誕生日まで実家に帰る」
「……え?」
「だって、あなたのいちばん欲しいものがわたくしなら、そうするのが一番喜ばれるでしょう?」
僕は大いに焦る。それは困る。大いに困る。一枚上手な妻に僕は慌てて、逃しはしないという意志で彼女の体を強く抱きしめる。
「そんなのだめだ!君に毎日会えないと死んでしまう!待って、い……今すぐに考えるから!」
「……ふふっ!ええ、頑張って考えてちょうだい?」
焦る僕に、楽しそうに笑う妻。僕は焦る頭で必死に考え、そしてようやく思いついた希望を妻に伝えたのだった。
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