五人目のご令嬢

じぇいそんむらた

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目が眩むのは 前編

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「いいですか若様。これはあくまでも独り言ですぞ」

 眉間に深く皺を寄せた爺が急にそんな事を言い出し、呆気に取られる僕に構わず話し始めた。その内容は、僕にはあまりにも衝撃的だった。

「姪が、偶然元婚約者と顔を合わせましてな。あの男、姪に心がちいともこもっていない結婚祝いの言葉を口にしてから、こんな事を言ったのです。君みたいな女でも地位に目が眩むんだな、一体どうやって王子をたらしこんだんだ?……と」

 その言葉を咀嚼し理解した瞬間、僕は怒りで、体中の血液が沸騰してしまったような感覚に襲われる。両手を爪が食い込むくらいに強く握り、怒りで感情的になりそうになるのを必死で抑える。

「その元婚約者は、怖いもの知らずだな。王族の一員となった女性に対してそんな事を言えるとは」
「昔からそういう男でしたからな。そうやって、権力に怯む事なく大胆な事を言えるのが男らしさだとでも勘違いしているのでしょう」

 本当にそんな男とご令嬢が結婚していなくてよかったと思う。想像するだけでもゾッとする。

「……それで?彼女は、元婚約者に何が言い返したのか?」
「姪は、腹から笑って、それからこう言いました」

 爺が語った彼女の言葉、それは。

『あなた、わたくしがそんな器用な女だと思っていたの?わたくしがそんな女じゃないなんて、あなたが一番よく知っているでしょう?それに彼は、簡単にたらし込めるような男性じゃないわ。……彼を、馬鹿にしないで』

 何ということだろう。あんな酷いことを言われてなお、自分ではなく、僕を思いやってくれたというのか。言葉にならず、何も言えない僕に、爺はようやく眉間の皺をなくして、僕を見た。

「あの子は、若様に何も言ってないのでしょう?」
「聞いていたら、こんな反応はしない」
「でしょうな」

 それどころか、ここ最近の彼女を思い返しても、落ち込んだ様子さえまったくなかった。いや、僕が鈍感で気づいていないだけの可能性も大いにあるが。

「しかし、爺がわざわざこうして話すのは、何かあるな?」
「ええ。実は姪の実家から連絡がありましてな。屋敷の雑草の繁殖が追いつかない、と」
「……は?」

 なぜ屋敷の雑草の話になるのだろうか、と戸惑う僕に、爺はたまに見せる悪戯っぽい笑顔で続けた。

「姪は、嫌な事があると庭の雑草をひたすら抜くのです。おかげで庭師が、仕事が減ってしまったと嘆いているとか」

 想像してしまった。お日様の下、普通のご令嬢なら絶対に着ないであろう汚れてもいいような服を着て、ひたすら雑草を抜き続ける彼女の姿を。
 僕の中の怒りの炎はあっという間に鎮火し、代わりに込み上げてくる笑いを堪えるも、どうしても肩が震えてしまう。

「……すまない、爺。笑うところでないのは分かっている。でも、だめだ」
「構いませんよ。若様のそれは、馬鹿にしているからではなく、愛おしさから来るものですからな」

 そう言う爺の顔もどこかニヤついている。僕も爺も、彼女のそういうところが、愛おしくてたまらないのだ。

「しかし爺。こうして勝手に話されたと知ったら、彼女は絶対に怒るぞ」
「分かっておりますとも。だから独り言と前置きしたのではありませんか」
「じゃあ爺は、それをうっかり聞いてしまった僕の責任と言いたいのか?」
「ほっほっ!」

 肯定も否定もせず笑う爺。だが、きっと彼女にそんな言い訳は通用しないだろう。そして、爺が独り言として話したかった気持ちも分かる。

「まったく……まあいいさ。さて、どうしたものかな」

 僕は思案する。彼女の心の憂いを晴らす方法を。だって、僕はあの日に誓ったのだ。彼女を世界一の幸せ者にすると。
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