五人目のご令嬢

じぇいそんむらた

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雪の日

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 雪が大地を隠す季節がやってきた。

 妻の親友、いや、僕らの親友たちからは雪合戦の招待状が届く。僕らはそれに喜んで返事を出した。

 季節ごとに会う彼らは会うたびに背が伸びていて、僕らはその成長の早さに驚かされる。もう何年かすれば、雪合戦などやりたがらなくなってしまうのだろうか。

「そうなったら寂しいね」

 そう言った僕に、妻は笑う。

「大丈夫よ。だってわたくし、今でも雪合戦が好きだもの」

 僕も、つられて笑った。

 雪が積もる庭に、雪の玉と、親友達の歓声が飛び交う。妻も彼らに負けじと雪玉を投げている。

 僕は少し離れた場所から、その光景を見ている。僕の腕の中の赤子は、その様子にきょとんとした表情を見せている。

「驚いたかな?いつもの母様と違うから」

 妻によく似たその顔は、まっすぐに妻を見つめている。そして、妻に雪玉が見事に当たった瞬間、声を上げて笑った。それに気づいた妻も、こちらを見て嬉しそうに笑う。

「幸せだな」

 僕はしみじみと、噛み締めるように呟いて、腕の中の愛おしい存在をもう一度しっかりと抱き直した。

 ――

 部屋の中には、小さく可愛い寝息と暖炉で燃える薪のはぜる音だけが響いている。遊び疲れて、いつもより早く寝てしまったその寝顔を僕らは見守っていた。

「たくさん可愛がってもらえて、よかったね」
「そうね。たくさんの兄や姉ができて、この子も嬉しそうだったわ」

 城の中は大人ばかり、従兄弟達も歳が離れている。今日のように、歳の近い子供たちと遊ぶ事はこれが初めての事だった。

「父も、ずっと目尻が下がりっぱなし……ふふ、本当、見ていられなかったわ」
「そうだね」

 ふたり目の孫なのに、まるで初めて孫を迎えたように嬉しそうな義父の顔を思い出して、僕も思わず吹き出してしまった。

「孫は何人いてもいいんだって……ふふ、そんな無茶を言われても困っちゃうわ」
「……そう、だね」

 僕は、視線は向けずに手探りで妻の手を握る。それがどういう意図なのか妻はすぐに察したようで、困ったように笑った。

「まだ、気にしているの?もうすっかり良くなったでしょう?心配しなくても大丈夫よ」
「分かってる……でも」

 僕の手に、妻の手が重なる。

「侍医も、もう心配ないと言っていたでしょう?」
「……」

 1年以上経った今でも、まるでついさっきの事のように思い出す。
 意識を失い、真っ青な顔の妻。娘の誕生日が、妻を失う日になってしまうかもしれない。その恐怖は、僕の心に深い傷をつけた。

 心配そうに僕の顔を覗き込む妻に、僕はハッとする。

「ごめん……一番大変だったのは君なのに」
「そうよ、わたくしが一番大変だったのよ?」

 いたずらっぽく言う妻。僕はたまらず彼女を抱きしめ、それから額や頬に何度も口付けをする。

「ありがとう……全部君が頑張ってくれたおかげだよ。何度感謝してもし足りない……」
「ふふ、じゃあ、もっと褒めてちょうだい?」
「ああ。君はすごいよ、本当にすごい。妻としても母親としても素敵で、本当に尊敬しかないんだ。僕の一生をかけても足りないだろうけれど……絶対に君を幸せにし続ける」
「ええ、ぜひそうしてちょうだい」

 そう言う妻の顔は、本当に嬉しそうな笑顔で。たまらず僕は、彼女の唇を奪う。でも、必死で堪えて、表面をなぞるだけですぐに離れる。
 それなのに、妻の表情は物足りなさを訴えてくる。

「……もっと、してくれないの?」
「これ以上は駄目だ、歯止めが効かなくなる」

 僕の言葉の意味をすぐに理解したのか、妻の視線はベビーベッドの中に移る。そしてその表情は母親のそれに変わる。

「そろそろ僕たちも休もう」
「そうね。でも、あなたの隣で寝るのは大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ……多分」

 そう言って僕は、妻の額にもう一度だけ口付ける。しばらくは眠れないだろうが、流石にいつか眠気が勝つだろう。
 そして僕はいつものように、眠る前に妻にかける言葉を口にする。

「愛しているよ」
「ええ、わたくしも」

 そうして僕は、愛しいふたつの寝息を耳にしながら、眠りにつくのだった。
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