無能聖女は呪いを解かない

もりのたぬき

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5.無能聖女、尻尾にくるまる

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トルテが目を覚ますと、辺りは真っ暗で森の匂いが濃い。
一時間ほど気を失っていたようで、まだ夜は明けそうに無い。もちろん、宰相や騎士たちの気配は既に無くなっている。

「さっきの魔道具、いったい何なのかしら…」

トルテはひとり呟くと、魔道具をつけられた左手首を見やる。

「あぁん?」

思わず令嬢らしからぬ声が出てしまった。しかし、仕方ないのかもしれない。トルテが見た自分の左手首は、人間のそれでは無かった。白銀の毛並みに覆われたふっくらとした動物の足だった。

(あの腐れ宰相!!禁断魔術である獣化魔法の魔道具を使ったのね!!)

魔道具である腕輪はトルテの腕にしっかりと嵌っていて手を振っただけでは外れそうもない。

ツイース王国では、闇の魔法は禁忌とされている。その理由はもちろん闇の神ダークの力だからである。闇の魔法の中でも、獣化の魔法は大禁忌である。

闇の力の強い種族に虐げられてきた人間たちは、人間以外の血が混じることを嫌った。精霊やエルフたちとの混血の人々は500年前に張られた結界で、この国に入ることが出来なかったが魔法は別である。

知識として国内に持ち込まれた闇の魔法たちは禁忌とされた。特に人から別の生き物へ姿を変える魔法に関しては、最大の禁忌として、魔導書も魔道具もすべて王家の書庫に厳重に封印されているはずなのだ。

しかし、宰相がその魔道具を使ったという事は、やはりトルテの処分に王家が関わっているという事なのだろう。

「…この場に居ても仕方ないし、とりあえず森の奥に隠れた方がいいわね…」

自分の姿を見ることは出来ないが、見える範囲ではどうも犬か狼になっている様だ。

トルテはぎこちない足取りで茂みの中へ入っていく。動物になったおかげなのか、慣れない体は動かしにくいが、暗闇の中でも物が良く見えるし、嗅覚や聴覚も鋭くなっているようで、小さな虫の気配も良く解る。

森の中をしばらく行くと、小さな洞穴を見つけた。身を隠すにはちょうどいい奥行きとサイズである。

「よし、ここで休憩しましょう」

トルテは状況の整理と休憩をするために、洞穴の奥に入るとクルリと丸くなった。
(あ、しっぽモフモフで気持ち良いかも…)

自分の尻尾の心地よさに、思わずウトウトしてしまう。

「ああ、ダメダメ!!寝たらダメだわ!!」

ブンブンと頭を振って眠気を追い払った。
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