無能聖女は呪いを解かない

もりのたぬき

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7.無能聖女は見た(1)

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他に聖女が6人もいるのに、この役目はトルテだけが任されていた。

トルテが解呪の魔法を唱えれば、一度に10人の呪いを解く事が出来る。他の聖女ならばせいぜい2人だ。
一度に沢山の人を呪いから救う事ができるトルテの力は、他の聖女とは格がちがうのだ。

その為、先代に筆頭聖女であった王妃様が亡くなられてすぐに、トルテは筆頭聖女に選定された。そして、筆頭聖女は次の国王となる者へ嫁ぐという伝統に則り、トルテはアルファド王子の婚約者になった。

王子の婚約者となり、王妃教育など煩わしい事も増えたが、自分だけが任されたこの役目にトルテはとてもやりがいを感じていた。

この力のおかげで、筆頭聖女に選ばれたのだった。しかし、この「解呪」の魔法は、一日に唱えることができるのは3回まで。しかも聖女である誰か一人が使うと、他の聖女は使う事が出来なくなる。

更に、魔法を使ってから再び使えるようになるまでに数か月を要する。トルテ自身もこの役目の翌日は、まる一日寝込んでしまうほど負担の大きい魔法なのだ。


聖女の役目の本当の理由を知ってしまったのは一昨年の晩秋だった。冬が間近に迫る寒い日、トルテはいつものように呪いを解く役目の為に呪われの森へ来ていた。

この役目は、雪で森が閉ざされる冬は行われない為、今日が今年最後の役目となる。


今日三回目となる解呪の為に、騎士たちに守られつつ森の奥まで歩いて行くと、そこには兵士たちに囲まれた人が俯いたまま座り込んでいた。

「聖女様、こちらの者たちが最後の解呪対象者となります」
トルテを案内していた騎士が口を開く。

「あの…あの人は何故、縛られているのでしょうか?」
トルテは兵士に囲まれた人々の中に、一人だけ縛られ猿轡をされている赤髪の男を見つけ、どうしたのかと騎士に聞いた。

「あの者は、魔神の信奉者らしく、反抗的だったので縛り上げた次第です。聖女様に呪いを解いていただければ、きっと改心しましょう」
「そうなのですか…呪いを受け、この森に閉じ込められていると心も荒んでしまいますものね…」

トルテは男を憐れに思い、声をかけようと近づいて行った。

「聖女様、お気を付けください、そいつは危険です!」
「大丈夫よ」

兵士が止めるのをおさえ、トルテは赤髪の男の前にかがんだ。

「あの、森での生活はお辛かったと思います。私が呪いを解けば外の街へ行くことができますから、元気を出してください」

その途端、男はギッとトルテを睨みつけたかと思うと、体当たりをしてきた。

「きゃぁ!」
とっさの事に動くことが出来なかったトルテは、地面に思い切り叩きつけられた。

「貴様!!聖女様に何という事を!!」
「やつを聖女様から離すんだ!!」

赤髪の男は兵士たちによって、ズルズルと引きずられていった。

「聖女様、お怪我はありませんか!?さ、こちらへ!!」
護衛の騎士が、慌てて助け起こしてくれた。

「えぇ、大丈夫。ちょっと手を打っただけよ…」
「聖女様をお守りする事が出来ず、申し訳ありません」
「いえ、貴方をすぐ横に居させなかった私が悪いのよ…」

震える足を叱咤しながら、何事も無かったように服に着いた土を払う。
(あの人、縛られて乱暴にされたから怒っているんだわ…)

「きっと長年の呪いで気が立っているのよ…、私が呪いを解いた後、彼に罰を与えるようなことはしないでちょうだい」
トルテは騎士にニコリと笑いかけた。

「わかりました、兵士たちにそう伝えましょう」

そんな騒動がありはしたが、この日最後となる解呪の魔法を唱えた。

赤髪の男は兵士に殴られたようで、顔に怪我をしていた。それを見て少しだけ申し訳なく思うトルテだったが、呪いが解け街で暮らせるようになればきっと喜んでもらえるだろうと考えた。

魔法が発動し、魔法陣が地面に広がると、座り込んでいた人々の姿が徐々に動物へと変わっていった。
赤髪の男は見事な毛皮のアカギツネへと変わっていた。

人々は一様に苦しそうに呻いている。

「今は苦しいかもしれませんが、明日の朝には人へ戻れます。皆さん耐えてください。光の女神に感謝を」

いつも言っているセリフを言うと、すっと身をひるがえし森の出口へと歩き出す。その後を護衛騎士たちが追いかける。
チラリとあのアカギツネを見やると、物凄い形相でこちらを睨んでいた。その目に恐怖を抱き、少しだけ速足でその場を離れたのだった。

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