天国への階段

高嗣水清太

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番外:死神レニエ

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 レニエは死神だ。来る日も来る日も鎌を振るい、ただ人間の魂を狩る。身の上を話す仲間も、物事に共感してくれる仲間も、異種族では有り得ない。すべて、同じ死神だけ。
 そのことを悲観したことはないが、「つまらない」とも感じていた。そんなある日――、レニエは出会ったのだ。死の匂いを誰よりも色濃く放ちながら、決して魂の輝きを失わず生き続けているオリヴィエに。

 最初は、興味本位だった。あれだけ死の匂いを放ちながら、なぜ死なずに済んでいるのか。だから暇を見つけてはオリヴィエに付き纏い、観察していた。
 オリヴィエが好きな物、オリヴィエがこだわるハンターとしての矜恃、オリヴィエが望むもの……。それらを知れば、なぜオリヴィエが輝いて見えるのかレニエは分かると思っていた。
 それが恋と呼ばれるものだと、一目惚れだったのだと気づいたときには遅すぎた。

 レニエは、ヴァンパイアになってしまったオリヴィエを前に、悔いても悔いきれないほどの後悔をしていた。
 死神仲間達の言う通り、愛しているなら殺してしまえば良かったのだ。
 病に苦しんでいたオリヴィエを見に行ったとき、ルスタヴェリに見つかり牽制される前に。……オリヴィエがルスタヴェリと出会ってしまう前に。オリヴィエと初めて出会ったあのときに。
 だが、その機会を逸してしまった。

「オリヴィエ……」
 力なく、オリヴィエの名前を呼ぶ。振り向いたオリヴィエの表情には怒りも悲しみもなく、ただ無関心があるだけだった。

「何だい?」
「……」

 何も言えずに立ち尽くすレニエに、オリヴィエが言った。

「君は死神だろ? ヴァンパイアになった私に死の気配はない筈だけど」
「……っ!」

 レニエは何も言い返せなかった。自業自得だ。
 ずっと気持ちを伝えることが出来ず、拒否されるのが怖くて、「死の気配がするから」と付き纏っていたツケが回ってきていた。

「用がないならもう行くよ」

 そう言って歩き出したオリヴィエの腕を、レニエはとっさに掴む。

「待ってくれ! ……おれ……俺は!」

 必死な様子で言葉を紡ぐレニエに、オリヴィエは冷めた視線を向けた。

「離してくれないか」
「……すまない」

 手を離すと、オリヴィエは再び歩き出す。その背中に向かって、レニエは絞り出すように声を発した。

「俺は……お前を愛しているんだ」

 立ち止まったオリヴィエは、ゆっくりと振り返った。

「それで?」
「え……」

 予想外の反応だったのか、レニエは驚いたような顔をした。そんな彼に、オリヴィエは淡々と告げる。

「だからどうしたいっていうんだい?」
「……それは」

 答えられずにいるレニエを見て、オリヴィエは小さく息をつく。

「私はね、いつも突然やって来て好きなときに帰っていく君のことを、まあ変わった友人としては好きだと思うし、信頼はしてないけど悪くは思ってなかった。でも、そういう対象として見たことはないよ」

 はっきりと言われて、レニエの顔色は蒼白になる。

「それに今の私にはルスタヴェリがいる。今の私を形作るのはルスタヴェリだ」
「……俺ではダメなのか?」
「じゃあ聞くけれど、君は私が吸血鬼になってどう思ってる?」
「……嫌だ」
「だろう? ……私だって嫌だったよ」
「なら……っ!」
「最初は、ね」

 静かに告げるオリヴィエに、レニエは俯く。

「でも、私は彼を愛している。彼も同じ気持ちだと分かったときは本当に嬉しかった」

 幸せそうな笑みを浮かべたオリヴィエに、レニエは拳を握った。どうしてこうなってしまったんだろうか。どこで間違えてしまったんだろうか。
(俺がもっと早く想いを伝えていれば)
 しかし、今更悔やんでも仕方がない。レニエは覚悟を決めた。

「わかった……。ならば最後にひとつだけ聞かせてくれ」
「なんだい?」
「お前にとって……俺は何なんだ?」

 真剣な眼差しを向けるレニエに、オリヴィエはふっと微笑んで答える。

「さっきも言ったろう? いい友人だよ」

 それだけ聞ければ充分だった。

「……オリヴィエ」
「……何だい?」
「ありがとう。……幸せになってくれ」

 それが、死神レニエの唯一の望みだ。


次は◆番外:ルスタヴェリとオリヴィエ。
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