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第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 7
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「今月の締め切りまでに、三作を仕上げて応募する予定でいるんです。ですので、あまり余裕がないんですよ」
「三作って……それ、できるものなの? 先生、小説は書いたことがないからあまり大きなことを言える立場でもないけれど、さすがにあと一月もないのに三作仕上げるのは、相当きついんじゃないかしら。長編でしょう?」
冗談を聞かされたのかと疑うような、半信半疑の様子で会話を続けてくる有野先生へ、私は露骨に迷惑だという意思を示す表情を浮かべながら首を横へと振って見せた。
「楽とかきついとか、そういうことは問題じゃないと思いますけど。大体、私なんかよりもっと努力している人なんていくらでもいますし、プロの作家ならこれくらいの作業量をこなせなければ、すぐに衰退して消えていくだけになりますよ」
「そんなこと……。九条さん、もう少し気持ちに余裕を持たなきゃ駄目よ」
「ですから、もうそんな悠長なことを言っていられる時期じゃないんですよ」
くどいなというイラつきで、つい語調が荒くなる。
だけど、有野先生は特に怖気づく様子もなくジッと私を見つめると、優しく宥めるような口調で話を続けてきた。
「……九条さんの人生だから、教師とは言えあまり強く言うべきではないのかもしれないけれど、夢や目標を追うことだけが人生の全てではないし、それでも夢を叶えたいと思うのなら、まずは自分を大切にする。優先すべきことを見誤らないで。どうしてそんなに切羽詰まった状況になっているのかわからないけど、今の九条さんは――」
「すみませんが、帰って早く執筆の続きがしたいのでこれで失礼します」
怒りよりも、忍耐力が限界だった。
いくら教師とは言え、一度も小説を書いたことのない立場で何がわかるのか。
夢を追うだけが人生ではない。そんな言葉は、夢を諦めたり持つことすらしなかった人間の言い訳に過ぎない。
そんなくだらなくて無責任な発言に、私を巻き込まないでもらいたい。
「九条さん……!」
有野先生の言葉を途中で遮るようにして歩みを再開する私の背に、しつこく呼び止めようとする声が絡みついてくる。
「お願いだから、本当に無理だけはしちゃ駄目よ」
ツタのようにまとわりつく有野先生の声を強引に千切るように無視して、私はそのまま階段を下り昇降口へと歩いていった。
「三作って……それ、できるものなの? 先生、小説は書いたことがないからあまり大きなことを言える立場でもないけれど、さすがにあと一月もないのに三作仕上げるのは、相当きついんじゃないかしら。長編でしょう?」
冗談を聞かされたのかと疑うような、半信半疑の様子で会話を続けてくる有野先生へ、私は露骨に迷惑だという意思を示す表情を浮かべながら首を横へと振って見せた。
「楽とかきついとか、そういうことは問題じゃないと思いますけど。大体、私なんかよりもっと努力している人なんていくらでもいますし、プロの作家ならこれくらいの作業量をこなせなければ、すぐに衰退して消えていくだけになりますよ」
「そんなこと……。九条さん、もう少し気持ちに余裕を持たなきゃ駄目よ」
「ですから、もうそんな悠長なことを言っていられる時期じゃないんですよ」
くどいなというイラつきで、つい語調が荒くなる。
だけど、有野先生は特に怖気づく様子もなくジッと私を見つめると、優しく宥めるような口調で話を続けてきた。
「……九条さんの人生だから、教師とは言えあまり強く言うべきではないのかもしれないけれど、夢や目標を追うことだけが人生の全てではないし、それでも夢を叶えたいと思うのなら、まずは自分を大切にする。優先すべきことを見誤らないで。どうしてそんなに切羽詰まった状況になっているのかわからないけど、今の九条さんは――」
「すみませんが、帰って早く執筆の続きがしたいのでこれで失礼します」
怒りよりも、忍耐力が限界だった。
いくら教師とは言え、一度も小説を書いたことのない立場で何がわかるのか。
夢を追うだけが人生ではない。そんな言葉は、夢を諦めたり持つことすらしなかった人間の言い訳に過ぎない。
そんなくだらなくて無責任な発言に、私を巻き込まないでもらいたい。
「九条さん……!」
有野先生の言葉を途中で遮るようにして歩みを再開する私の背に、しつこく呼び止めようとする声が絡みついてくる。
「お願いだから、本当に無理だけはしちゃ駄目よ」
ツタのようにまとわりつく有野先生の声を強引に千切るように無視して、私はそのまま階段を下り昇降口へと歩いていった。
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