17 / 76
第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 8
しおりを挟む
4
「みんな、お疲れ様」
九条先輩が部室を後にしてそれほどの間を空けることなく、有野先生が俺たちの様子を見にやってきた。
「あ、先生。今日は今のとこ誰も部活らしい活動してませんから、ここには不真面目な生徒しかいませんよ」
泉と冗談を言って笑い合っていた妃夏が、中へ入ってきた有野先生へ手を上げながら上機嫌に言葉を返す。
「別にマイペースに頑張ることが方針の部なんだから、不真面目な日があったって構わないわよ」
優しく笑いそう答え、有野先生は何気ない風に室内を見回す。
今いるのは、俺と妃夏、そして泉の三人だけ。九条先輩は今しがた帰宅したばかりだし、守草は何か家の用事があるとかで、部活には顔を出すことなく直帰している。
「ねぇ、ここへ来る途中で九条さんと擦れ違ったんだけど……何かあったりした?」
「はい?」
彷徨わせていた視線を、最後にいつも九条先輩が座っている席へと向けてから放たれた有野先生の問いかけに、俺たちは疑問符を貼り付けたような顔でお互いを見つめ合う。
「何かって、どういうことですか? 別に、いつも通りだったと思いますけど……ね?」
代表して答えるかたちになった妃夏は、最後に自信無さげな声で俺と泉へ同意を求めてくる。
「はい。まぁ、何だかいつもよりも執筆に集中してるなって感じはしてましたけど、特に何かがあったわけではないですねぇ」
泉が頷き、どうしてそんなことを訊いてくるのだろうと言いたげに有野先生を見上げた。
「そう? それなら良いんだけど……」
「九条先輩のことで、何か気になるんですか?」
煮え切らない態度で話をする有野先生に、俺はストレートに疑問を口にする。
正直、俺も今日の九条先輩はどこかおかしいというか、妙にピリピリしている雰囲気を感じていた。
有野先生も同じ感覚を察したのであれば、自分の勘違いではなかったということになるし、何かしらの手助けができるのなら、みんなと問題を共有して手を差し伸べるべきだろう。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、有野先生は困った顔で首を僅かに傾げ、
「うん……。何だか、余裕がない様子だったわ。今月締め切りの小説賞に、長編を三作仕上げないといけないって」
「三作? 今月中にですか?」
「ええ。進捗状況はわからないけど、スケジュール的にはかなり厳しい内容でしょう?」
「そりゃあ、そうでしょうね。九条先輩の執筆速度なら、俺たちなんかよりは完成させる確率は高いかもしれませんけど、それでも三作はさすがに……」
相応の余裕を持って準備を始めていたというのなら何も心配はいらないだろうが、九条先輩ほどの人が今の時期に切羽詰まった心境に陥っているならば、かなりハードな作業になっているのではないのか。
――どう思う?
妃夏へ視線でそう問いかけると、彼女もまた硬い表情でこちらを見つめ返してくるだけで、口を開くことをしない。
「……執筆に行き詰ったりしてるってことは、あるかもしれないですよね?」
ポツリと、そう意見を出してきたのは泉だった。
「みんな、お疲れ様」
九条先輩が部室を後にしてそれほどの間を空けることなく、有野先生が俺たちの様子を見にやってきた。
「あ、先生。今日は今のとこ誰も部活らしい活動してませんから、ここには不真面目な生徒しかいませんよ」
泉と冗談を言って笑い合っていた妃夏が、中へ入ってきた有野先生へ手を上げながら上機嫌に言葉を返す。
「別にマイペースに頑張ることが方針の部なんだから、不真面目な日があったって構わないわよ」
優しく笑いそう答え、有野先生は何気ない風に室内を見回す。
今いるのは、俺と妃夏、そして泉の三人だけ。九条先輩は今しがた帰宅したばかりだし、守草は何か家の用事があるとかで、部活には顔を出すことなく直帰している。
「ねぇ、ここへ来る途中で九条さんと擦れ違ったんだけど……何かあったりした?」
「はい?」
彷徨わせていた視線を、最後にいつも九条先輩が座っている席へと向けてから放たれた有野先生の問いかけに、俺たちは疑問符を貼り付けたような顔でお互いを見つめ合う。
「何かって、どういうことですか? 別に、いつも通りだったと思いますけど……ね?」
代表して答えるかたちになった妃夏は、最後に自信無さげな声で俺と泉へ同意を求めてくる。
「はい。まぁ、何だかいつもよりも執筆に集中してるなって感じはしてましたけど、特に何かがあったわけではないですねぇ」
泉が頷き、どうしてそんなことを訊いてくるのだろうと言いたげに有野先生を見上げた。
「そう? それなら良いんだけど……」
「九条先輩のことで、何か気になるんですか?」
煮え切らない態度で話をする有野先生に、俺はストレートに疑問を口にする。
正直、俺も今日の九条先輩はどこかおかしいというか、妙にピリピリしている雰囲気を感じていた。
有野先生も同じ感覚を察したのであれば、自分の勘違いではなかったということになるし、何かしらの手助けができるのなら、みんなと問題を共有して手を差し伸べるべきだろう。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、有野先生は困った顔で首を僅かに傾げ、
「うん……。何だか、余裕がない様子だったわ。今月締め切りの小説賞に、長編を三作仕上げないといけないって」
「三作? 今月中にですか?」
「ええ。進捗状況はわからないけど、スケジュール的にはかなり厳しい内容でしょう?」
「そりゃあ、そうでしょうね。九条先輩の執筆速度なら、俺たちなんかよりは完成させる確率は高いかもしれませんけど、それでも三作はさすがに……」
相応の余裕を持って準備を始めていたというのなら何も心配はいらないだろうが、九条先輩ほどの人が今の時期に切羽詰まった心境に陥っているならば、かなりハードな作業になっているのではないのか。
――どう思う?
妃夏へ視線でそう問いかけると、彼女もまた硬い表情でこちらを見つめ返してくるだけで、口を開くことをしない。
「……執筆に行き詰ったりしてるってことは、あるかもしれないですよね?」
ポツリと、そう意見を出してきたのは泉だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる